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竜魔伝説  作者: 融合
暗黒大陸編
148/233

147話 譲れない意思

 魔物たちは終始開いた口が塞がらずに驚愕の表情を浮かべている。

「どう? すごいでしょここ。君たち剣魔たちが暮らすダンジョンが存在した空間のモデルは、『エルフの都』なんだよね。全然似ても似つかない景色だったけどさ、神との戦いが終わってから『エルフの都』に負けないくらいの世界を創って行こうと思ってたんだけどね・・・・・」

 勇者は自慢げな表情を浮かべたかと思うと、『創生世界魔法』により生み出した空間を惜しむ悲しそうな表情へと変化する。

「そうでやしたか・・・・・それは災難なことで」

 ブルジブから発せられた同情の一言は、ぶっちゃけ魔物たちには被害がほぼゼロなため他人事にしか聞こえない。

「フッ、僕たちの夢が一つ潰えてしまっただけのことさ」

「師匠?」

 するとここで勇者へと集まっていた視線が一人の少年へと向けられる。

「久しぶりでやす、レイン。シェティーネも元気ですかい?」

「元気と言っていいのかは微妙だが、怪我などの外傷は一つもない」

 その発言を聞き、ブルジブは安堵の表情を浮かべる。

「それで、シェティーネが元気を無くした理由に心当たりは?」

 レインは濁しはしたが、レイン自身の反応からシェティーネの元気がないことは明らかだった。ブルジブは師匠なだけあり、弟子の些細な言動も見逃さない。

「好きな男が行方不明なんだ。奴は俺の友人でもあるため、俺も心配には思っているが」

 友人であるユーラシアを心配に思う気持ちと、妹の想い人であるユーラシアを恋人としては認めたくはない感情に未だ葛藤している。

「ミラエラ先生は、ユーラシアのこと何かご存知ですか?」

「いえ、ごめんなさい。私も何一つ分からない状況なの」

 ミラエラとレインは分かりやすく肩を落とす。

 勇者からもその手の話題が出されない以上、最早この場にいる誰もユーラシアに関する情報は持ってはいないということ。

 

 その後、ミラエラ、勇者、ビヨンド、イグドル以外の者たちは、チャンドラに仕えている支配人により、各自部屋へと案内される。

 そしてチャンドラとミラエラ、勇者、ビヨンド、イグドルの五名に加え、西南北のゴッドスレイヤーの王である三名、そしてロッドの代役としてエルナスを加えた計九名による今後の方針が話し合われる場が設けられることに。

 

 場所は建物の屋上。

 三百六十度全てがガラス張りになっている植物園のような空間。

 周囲に生きる植物たちがニョキニョキと茎を伸ばし、一箇所で乱雑に絡まり合う。

 そうしてミラエラたちの目の前へと、自然百%で作られた大机が出現する。

 各々が机とセットで作られた椅子へと腰を下ろしていく。

「そんじゃ、改めて今後の方針について話していくとしようか」

 今後の方針。それはつまり、神陣営に対する人類側の動き。

 そして話を進めていくにあたり、チャンドラからミラエラと勇者、剣聖魔、ドラゴニュートが合流する以前に話し合われた大まかな内容が伝えられた。

 再び訪れる神攻を待つのではなく、こちらから仕掛ける考えは、勇者たち同様にエルフたちも持っていた。

 その考えを遂行するにあたり、まずは勇者と合流することを条件とした。神の力を宿す勇者を抜いて話を進めることなどできないと判断したためだ。そして、もう一つが竜王を見つけることを条件としていた。

 しかし竜王を見つける手立ては今のところ何もない。それは以前話し合われた際にも分かりきっていたこと。

 エルフには秘奥義なるものが存在し、その中にはどんなに些細な魔力すら、世界中どこからでも見つけ出すことができるというもの。しかし今のユーラシアの魔力だけは、一ミリたりとも感じることができない。

 故に、ミラエラを招いて不安に駆られるエルフたちの心の安定を図ろうとしたのだ。

 

 そして前回からこの会議に引き継がれる内容は、ロッドの娘であるミューラ・オルカーが行方不明となっている件について。

 

「始めに言っておかなくちゃいけないことがあるんだ」

 まず始めに発言したのは勇者。

 しかし、どこか気まずそうな表情を浮かべている。

「僕たちがこの間倒した神人の一人とは、因縁があったから容赦なく力を翳すことができた。だけど、僕はもう情け容赦なく力を振るうことができない」

「それはつまり、力の制限的な問題? それとも、貴方たち自身の心の問題?」

 ミラエラは、後ろめたさで侵食されている勇者へと、冷静に言葉を投げかける。

「僕たちの心の問題だよ」

「そう。話せるなら、その理由を聞かせてもらってもいいかしら?」

 勇者はゆっくり頷くと高鳴る鼓動を鎮めるため、一度大きな深呼吸を経て話し始める。

「老師とミラちゃんには話したことあったよね? 僕たちがこの世界に来る前の話」

「ええ」

 ミラエラと勇者以外は一言も発せずに、ただただ勇者の話へと真剣に耳を傾ける。

「——————柊 雪は、僕たちの家族だったんだ」

 勇者が続けて言葉を発しようとした直後、勢いよく屋上の扉が開かれ、一人の大男が姿を見せる。

「随分と甘いことを言うようになったもんだ」

 現れたのは再度右腕を失ったロッド。

「素直に言うことを聞くとは思わなかったが・・・・・念のため会話が聞けるよう魔法人形を置いていっただろ。無理は体の毒になるだけだ。ここは私に任せて大人しく寝ていろ」

 エルナスは特に驚いた様子もなく、呆れたように言葉を発する。

「悪いが譲れねぇぞ勇者様。エルナスの魔法人形を通して今の話は聞かせてもらったが、ユキ・ヒイラギに俺の娘は攫われてる」

 ロッドはエルナスの発言を無視して勇者の下まで近づくと、座る勇者を力強い視線で見下ろす。

「貴方には人魔戦争の時の借りがある。だが、俺にとってミューラはエルナス同様、命をかけれる家族。俺は奴を殺してでもミューラを必ず取り戻す。例え貴方を敵に回してもだ」

 勇者は立ち上がると、同様にロッドを睨みつける。

「私たちだって引けない。もう二度と私たちから大切な者を奪わせない。例え全人類を敵に回してもね」

 勇者は葛藤していた。

 勇者であることと、雪を助けたい気持ちに。

 しかし勢い任せではあるものの決意した。

 神。人類。その両方の敵になろうとも、雪が望み通り以前の雪に戻ってはくれなくとも、雪の味方であろうと。

「だけど、何も始めからあんたたちと敵対しようってんじゃない。雪を私たち人類の味方につける。そうすればミューラって子も助かるし、雪も助かる。一石二鳥ってわけ」

 しかしそれはミューラがまだ生きていたらの話。

「そんなことが実現できるとでも?」

「私たちはこれまで幾つもの不可能を可能にしてきた勇者だよ。今回だって乗り越えて見せる」

 勇者であること。

 たったそれだけの言葉で聞く者の考えを変えてしまう。

 それほど凄い存在である証明でもある。

「そゆことならアタシャ、マサちゃん、ヒナちゃんのことを信じちゃおうかな」

「雪にこれ以上人殺しなんかさせてたまるかよ」

 そう言って勇者は颯爽と屋上を後にしてしまった。

「いやちょい待ち、マサちゃあぁんヒナちゃあぁん!話し合いはこれからなんだけどぉ・・・・・」

 仕方なくその後は一先ず解散とされ、後日また話し合いの場を設けることとなった。


 そしてミラエラは勇者の後を追いかける。

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