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竜魔伝説  作者: 融合
暗黒大陸編
146/234

145話 ダンジョン融合

 西側領土。

 オルタコアス地下にて、二つのダンジョンが融合してしまうという事態が発生していた。

 『創生世界魔法』により作り出されたマルティプルマジックアカデミーが存在する空間が、神人との戦いの影響により消滅してしまう直前、勇者は地下にあるダンジョンを丸ごと別の場所へと転移させたのだ。

 その転移先がオルタコアスの地下であり、ドラゴニュートたちが暮らすダンジョンのすぐ隣へと出現した。

 転移して三日ほど経過した段階で剣聖村が存在するダンジョンへと変化が見られるようになる。

 元々オルタコアスの地下に存在するダンジョンは、世界樹から伸びる根と繋がっている。というより根が突き刺さっているのだが、三日という短い時間を要しただけで、新たに出現したダンジョンにまで世界樹の根が突き刺さり始めたのだ。

 根が突き刺さった部分は、丁度剣聖村が存在する部分であり、根を通して物理的にダンジョン間を行き来できる仕組みが構築されたわけだ。

 そうして転移して来てから約一週間。

 当然、地下の騒ぎは地上にいるフレーゴたちも感知しており、今まさにドラゴニュートの住処にて、勇者、フレーゴ、ポルド、護衛の兵士数名と、ビヨンド、オータル、ブルジブの剣聖魔三名、そしてその他数名の剣魔たち。ドラゴニュートたちが一堂に玉座のある広間へと会している。

 そうして現在行われている話し合いの議題は、神陣営による人類への侵攻が開始されたことについての今後の方針。

 話し合いをするにあたり、魔物たちは地上への知識がほとんどないため、フレーゴ、ポルド、そして勇者からの説明を受ける。

 なぜ侵攻とは関係のない魔物たちまで真剣に話し合いへの参加の意思を示しているのかというと。皆の中に共通して人間が「好き」である感情が存在しているためである。

 剣魔たちは、今年の夏前に行われたダンジョン試験にて、ユーラシアやシェティーネ、レインたち学園の生徒と親しい関係を築き上げている。

 ドラゴニュートたちは、尊敬し崇める竜王の転生体であるユーラシアを大切に思う気持ちに、ユーラシアが大切に思う友人たちを守りたいという意思が存在している。

 フレーゴやポルドにおいても、ユーラシアを、ユーラシアの大切な者たちを、オルタコアスの民たちを守るために恐怖に打ち勝ち、戦う意思を示しこの場にいる。

 皆が皆、共通する意志の下に集っているのだ。

 そんな中、勇者だけは一人異なる思考に浸っていた。

 今現在、勇者の思考を占領しているのは、ユキの安否を心配する気持ちと、魔王の『アベオス』と同等以上の威力を宿していた灼熱の咆哮を放っていた存在の正体について。

 まず前者に関しては、雪が敵であることを承知の上で敵と見なすことができておらず、ただただ純粋に雪が無事であることを祈っている。

 かつて勇者がまだマサムネとヒナタの二人であった頃。それは即ち、この世界へと転生して来る前のこと。

 それはまだマサムネとヒナタが二十代半ばくらいの年齢の頃で、将来の結婚を視野に入れていた時期のこと。

 そう。二人はかつて恋人同士であったのだ。

 今は結婚は叶わない体になってしまったが。

 二人は、家族を失い孤独であった一人ぼっちの雪と出会った。

 それからは、まるで本物の家族のような関係となっていくのだが、ある日を境に雪は二人の下からいなくなってしまう。

 そして二度と雪と再会することができずに生を終えたマサムネとヒナタは、勇者として転生したこの世界で、かつて家族のような存在だった雪とそっくりな少女を魔導祭の侵攻時に目撃したのだ。

 思考が追いつかず、フリーズしてしまった。

 死んだと思っていた大切な存在が目の前にいたのだから。

 しかし、もう二度と失いたくない・・・・・一番大切な存在が敵となる現状。

 勇者である以上、人類に敵対するわけにはいかない。しかし、雪とまたかつてのように共に暮らせる未来を実現したい思いが溢れて来てしまうため、葛藤により精神的に追い詰められてしまっているのだ。

 そしてもう一つの灼熱の咆哮を放った正体に関しては、既に答えへと辿り着いている。

 その者の正体は、ユーラシア・スレイロット。世界樹の宿主であり、竜王の転生体である存在。

 その答えに行き着いた理由は、勇者———マサムネがダビュール王であった時、ユーラシアたちが学園の夏休み最終日にドラゴントゥースのギルドへ訪れていた際に接触した時のこと。『真実の魔眼』の力でユーラシアの内にある擬似魔力樹により抑えられている力の存在に気が付き、世界樹=ユーラシアとなったこと。

 ヒナタに宿る神の力に刻まれた竜王の記憶が蘇ったこと。

 マサムネとヒナタの両者の記憶を擦り合わせた時、一つの答えが導き出されたのだ。

 マサムネがダビュール王であった頃は、魔力を失っていたために、オルタコアスで放たれた『竜王の咆哮』の魔力を感じることができなかったが、神人との戦闘が終了して落ち着いて考えてみると、容易に真実へと辿り着くことができたのだ。

 世界樹=ユーラシア=竜王であると。

 

「ちょいと意見よろしいですかい?」

 ブルジブが許可を求めた相手は、この場のリーダーとなる勇者である。

「うん。勿論」

 勇者は一人異なる思考に浸っていたことがバレないよう、意識を現実へと引き戻す。

「あっしら剣魔やダンジョンの魔物たちは、敵さんの力を全く理解できていやせん。ですが、剣聖村にまで伝わって来た勇者様たちの戦いの衝撃から、この場にはちと足手纏いな者たちが混ざっていると思うんでやすが」

 そう言うブルジブの鋭い視線は、フレーゴやポルドたち人類側へと向けられている。

「確かに私たちはこの場には相応しくない実力かもしれない。だが、大切な者を守りたいという意思と覚悟まで負けているつもりはない」

「そういう問題じゃないことくらい分かっているでしょうに。無駄死にするだけだと言っているんですがね」

 その無駄死にが己のみの死ならばまだいいが、先頭で戦う者たちの足枷となってしまえば、無駄死にだけでは済まされなくなってしまう。

 今回の敵は魔王、そして勇者以上の存在である「最高神」。

 この世の全ての創造主とされている絶対者であり、神人もまた最高神による創造物にすぎない。

 故に神人の一人であるウェルポネスに圧勝した勇者や、バーベルドを打ち倒した魔王であったとしても必ず勝てる保証などない。むしろ、勝てる可能性の方が現状では低い。

 この場でそのことを理解していない者はいない。

 しかし、具体的な相手の戦力が分からないため、今はやる気に満ちているだけ。

 すぐにその希望は、絶望と化す。

 ブルジブは限られた情報の中で逸早くそのことを悟り、戦力を選別するべきだと言っているのだ。

 それが分からないフレーゴたちではないが、ただ指を咥えることしかできないなど、プライドが許さない。

「そこまで言うのならば、今ここで私の実力を試していただきたい。もしもこの場で認められる実力を示せたならば、私も仲間であると認めて欲しい」

「別に仲間でないとは思っていやせんが、そこまでの覚悟を示されたのならば、あっしも引くわけにはいきやせんね」

「待たれよ!そう言うことならば、俺のことも試してはくれないか?」

「失礼ですが、遊びじゃないんですよ?」

 ブルジブのより一層凄みを増した鋭い視線に臆すことなく、ポルドは胸を張ってブルジブへと一歩詰め寄る。

「自分の身。そして民の身を守ることは当然の義務!そして、友であるユーラシア殿の力になりたいと思うのは至極当然のこと!」

「ユーラシア。確か、ダンジョン試験の時はオータルのところで過ごしていた少年のことですかい。カリュオスとの戦いも見事でやしたね」

「そうか。お前もユーラシアの力になりたいと思う者の一人なんだな」

 そうポルドに言葉を向けるのは、ユーラシアの師匠であるオータル。

「貴殿は?」

「ユーラシアの師匠をやらせてもらっているオータルという者だ。ただ、今のあいつとは互角か、既に抜かされている可能性もあるが」

 オータルからは悔しさなどの感情は微塵も感じ取れず、ただただ嬉しそうな表情を浮かべている。

「おぉ、なんと!ユーラシア殿のお師匠様でしたか! これはとんだ失礼を」

 ポルドは多少慌て気味にオータルへと頭を下げる。

「畏まる必要などない。確かポルドと言ったか?」

「はい!」

「俺もブルジブ同様、この場の戦力は選別すべきだと考えている。よって、俺を認めさせることができたならば、お前を戦力として認めてもいい」

「本当ですか!そういうことならば、全力で参らせていただきます!」

 そうして、ブルジブ、オータル、フレーゴ、ポルドの四名を除いた後の者たちは、広場の中央から退く形で住処の端へと移動する。

「ほっほっほ。皆、何か勘違いしておるようじゃの」

「勘違いと、言いやすと?」

「その者たちだけではない。わしら剣聖魔やドラゴニュートたちとて試される立場と言うこと」

 そう言うと、ビヨンドは住処の隅にいる勇者へと視線を向ける。

「実力だけで考えるなら、この場で神たちと互角に戦えるのは勇者様だけじゃろう。じゃが、それだけでは戦力が足りないため、勇者様はわしらの話し合いに敢えて口を出さないでいてくれておる」

 そうして一斉に勇者へと向けられる視線。

 しかし勇者からしてみれば、他のことを考えていただけであり、かつ、大勢を取りまとめることがあまり得意ではない故に客観的立場に徹しようとしていた。

 勇者は事あるごとにマサムネとヒナタの人格同士が言い合いをしている。そんな状況でどうやって他の者たちをまとめようと言うのか。

 そのため、本来勇者は人前に立つのが苦手なのである。

「というわけでこういうのはどうじゃ?」

 そうしてビヨンドから勇者へと提案された案は、勇者自ら共に戦うメンバーを選出するというもの。

 いつ再開されるかも分からない神攻をただ待っているなど論外。

 危険を犯してでも、今度はこちらから攻めるあるいは、できる限り備えておく必要がある。

 しかし手掛かりも何もない現状、まずは戦力を絞るところから始める必要がある。

「え、えっと・・・・・どうしたらいいのかな?」

 勇者は小声で独り言を漏らす。

「んなこと私に聞かれても分かんねぇよ」

「ちょっと、僕だけに責任押し付ける気? なんかそれってズルくない?」

「は?」

「いや、何でもないです」

 ボソボソ独り言を漏らし続ける勇者。

 その間、気まずいほどに空間内には静寂が流れ続ける。

「勇者様?」

「は、はい」

 一先ず皆の前へと出るために階段を経た玉座へと向かうことに。

「その椅子には決して座らないようお願いします」

「あっ、そうなの?」

「そこは竜王様専用の玉座となっていまして、勇者様には申し訳ないのですが、それだけは譲れないので、ご理解いただけたら嬉しいです」

 ドラゴニュートの長であるイグドルが勇者へと敬意を払いつつ、頭を垂れる。

 しかし以前アートを座らせていたイグドルであるが、あの時はアートの竜王への尊敬話に胸躍らせてしまっていたため、失念してしまっていた。

「う〜ん、どうしよっかな」

 ぱっと見数百はいる魔物。加えて、数名の人間たち。

 一人一人の実力をちまちま確かめていては時間の無駄でしかない。

 と、ここで妙案が浮かぶ。

「そうだ。確認なんだけど、ダンジョンから外部に魔力って漏れないよね?」

「はい。勿論でございます」

 ダンジョンはどれもこれも特殊で、ただの異次元空間などではなく、どんな魔力であっても、決して外部へと、そして外部から内部へと魔力が、その気配が届かぬ仕組みとなっている。

「それじゃあ、一応手加減するけど、今から僕たちが君たち全員に向ける殺気に堪えることができたら、合格ってことで」

 


「「「「「ッ‼︎」」」」」

 


 勇者から笑みが消えた直後、この場にいる者。そして、ダンジョン内にいる全ての存在に対して意識を保っていることすらままならないほどのとてつもなく濃い殺気が向けられる。

 ほんの一瞬の出来事だったが、立っていられた者たちはごく僅か。

 フレーゴは意識を失い、ポルドも何とか粘ったものの結局は意識を失ってしまった。

 そして剣聖魔たちは三名ともが意識を失うことなく立っており、その他剣魔たちは全滅。

 ドラゴニュートに関しては、三分の二ほどが意識を保った状態にある。

「今の殺気は相当なものでやした。気を失ってしまったものの、あそこまで耐えられたのは称賛に値しやす」

 ブルジブは横たわるポルドへと称賛の言葉を贈る。

「それにしても、あの殺気をああも易々耐えるとは、竜の力とは恐ろしいな」

 ビヨンドも易々と耐えて見せているが、ドラゴニュートたちはそのほとんどが意識を保てている。

「それじゃあ、みんな。少し聞いて欲しいんだけど、僕たちはこれから他の仲間たちがいる『エルフの都』に行こうと思っているんだ。今意識のある人たちは僕について来てくれるってことでいいんだよね?」

 皆がバラバラに頷く。

「オッケー。そんじゃ、早速向かうとしますか」

 『エルフの都』は、伝説上のお伽話のような場所。

 その認識は当然、魔物と言えど持ち合わせている。

「エルフの都とは、あのエルフの都のことかの?」

「そっ。あのエルフの都。てことで、準備はいいかな?」

 気がつくと、ビヨンドたち意識のある者の足元には巨大な魔法陣が描かれており、かつ、気を失った者たちは既に空間の端へと移動させられている。

「いやはや、恐れ入ったの。全く衰えていないようじゃ」

 ビヨンドは、初代剣聖にも会ったことのあるほどの古参剣魔なのである。

 そんなビヨンドは、かつての勇者と現在の勇者を比べ、嬉しそうにその感想を述べる。

「それじゃあ、行こうか!」

 そうして勇者含め、試練を乗り越えた魔物たちは『エルフの都』へと転移したのだった。

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