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竜魔伝説  作者: 融合
暗黒大陸編
145/234

144話 都からの来訪者

 翌日、ミラエラの下へ一人の訪ね人がやって来た。

 その者はミラエラの姿を見た途端に涙を流す。

「久しゅうございます。あの時と何らお変わりなく、お美しいでございます」

「驚いたわ。まさか貴方が私の下を訪ねてくるなんて」

 男は真っ白な長い髭に白装束を来た耳の尖った老人。

 ミラエラにとって、この者との再会は実に何千年ぶりである。

「はい。最後にお会いしたのは、まだ竜王様が生きていらした時代でしたからです」

「フフ。そのバカっぽい喋り方は相変わらずなのね。とりあえず、中へ入ってちょうだい」

 ミラエラは自宅へと男を招き入れると、暖かい紅茶を淹れたカップを二つ机の上へと置き、対面するように席に着く。

「時代も発展しましたなぁ〜。アタシャはついこの間何千年ぶりに外へ出たんですが、かつて見た景色とはえらい異なっていましたです」

「そうね。だからこそ、絶対に私たち人類は神との戦争に勝たなければならないわ」

「その通りですな」

「それじゃあ、チャンドラ。ここへ来た要件を聞かせてもらえるかしら?」

 チャンドラとは、エルフの長の名である。

 そしてこのチャンドラという名前は、かつて竜王ユグドラシルから授かった名である。

 このチャンドラとは「月」を意味する名であり、竜王が光り輝く太陽ならば、自分は側に佇む月をイメージした存在になりたいと思ったのがきっかけでチャンドラ自らこの名を授けられるよう提案したのである。

「実はミラエラ様がこの村にいるのは、エルナスから聞いたんです」

「ということはつまり、エルナスたちは今、エルフの都にいるということ?」

「でしゅ。マサちゃんたちが創った空間が消滅する直前、間一髪で助けることに成功したんでしゅ。それで今はアタシャたちの都に」

「空間が——————消滅? いえ、感謝するわ。貴方たちが来てくれなかったら助からなかったはずだものね」

 ミラエラは新たに突きつけられる真実に一瞬戸惑いを見せるものの、過ぎてしまったことは仕方のないこと。そのため、思考を切り替え、再度取り乱すことのないよう気を整える。

「それにしても、勇者のことをちゃん付けで呼べるのは、貴方くらいなものね」

「ありがとざいます」

「褒めてないからね」

「え?」

「はぁ。ともかく、貴方たちエルフが動かざるを得ない状況になってしまったということよね」

 エルフとは、都含めてその存在が大抵の者たちの間では伝説上の存在。

 マルティプルマジックアカデミーの魔戦科Sクラス生徒などは、エルナスとエルフの間に繋がりがあるために遠征などが許可されていたが、普通ならば考えられない話。

 エルフはかつて竜王に命を救われた過去があるために竜王の味方ではあるものの、人類全ての味方ということではない。

 巨大な魔力を宿しているが、皆が温厚な性格であり、決して争いを自ら好む種族ではないのだ。故に神の侵攻の対象外であり、本来ならば加勢する必要すらなかった。

 しかし、神攻が開始されたあの場には、弟子である勇者やロッド、ロッドの娘であるエルナス、竜王の付き人であったミラエラもいた。

 そんな彼らがピンチとなれば、駆け付けないわけにはいかない。

 そしてチャンドラたちエルフが助けに参上した最も大きな理由は、咆哮によるユーラシアの竜王の魔力を感知したため。

「かつて救われたこの命、ミラエラ様たちを助けるためなら失うことは惜しまないですよ」

 そう言うチャンドラの表情はどこか曇っている。

「どうしたの?」

「実は今日、ミラエラ様に一つ聞きたいことがあって会いに来ちゃったんです。エルナスから聞いたユーラシアという少年は、あの時感じた魔力から考えるに・・・・・もしかして竜王様の生まれ変わりとかじゃないですか?」

「ええ、そうよ」

 チャンドラは多少身構えていただけに、ミラエラのあっさりとした回答に度肝を抜かれると同時に肩の力が一気に抜ける。

「や、やはり! そ、それで竜王様は今はどこへ?」

 ミラエラは下唇を噛み締め、悔しそうな表情を浮かべる。

「———ここにはいないわ」

「そう、ですか。実は何人か助けられなかった者たちがいて・・・・・」

 チャンドラが口を開くと、気まずい空気が更に濃くなっていく。

「その後どうなったかまでは分からないんですけど、空間の崩壊に巻き込まれてしまった可能性も・・・・・」

「あり得ないわ」

 しかしミラエラは断固たる意思でユーラシアの死を否定してみせる。

「彼なら絶対に生きてるわ。貴方も彼を尊敬しているのなら、信じなさい」

 そんなミラエラの発言を聞き、チャンドラは感嘆したように胸に手を当て、家の天井を見上げる。

「はぁ〜、そうですね。信じましょう!竜王様なら絶対生きてますぞい!」

「ねぇチャンドラ。よかったら私も久しぶりにエルフの都へ案内してもらえないかしら?」

「いいんですか? 実は今、ロッドのもう一人の娘が行方不明になっていたり、竜王様の安否を不安に思う者たちも多く、ミラエラ様を交えて今後の方針を立てたいと思っていたところだったんでしゅよ」

 つまりは始めからミラエラをエルフの都へ迎えるためにソルン村へと足を運んだわけだ。

「そういうことなら話は早いわね。けれど一つだけ、説得に時間がかかりそうなことがあるから待っていてくれる?」

 そう言ってミラエラはケンタのいる教会へと向かい、昨日修行に付き合う約束をしたが、できなくなってしまったことを謝罪する。

 すると、ケンタは不貞腐れた様子は微塵も見せずに快くミラエラを送り出してくれたのだ。

「本当に男の子って、見ない間に随分と成長するものなのね」

 柄にもなくそんな発言をする。

「それじゃあ、行きましょか」

 こうしてミラエラはチャンドラとともに『エルフの都』へと向かうのだった。

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