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竜魔伝説  作者: 融合
暗黒大陸編
143/234

142話 信じる想い

 ソルン村。

 重たい瞼を開けた先、心配そうに横たわる自身を覗き込む子供たちの姿が飛び込んで来た。

「シスター。ミラエラさんが目覚ましたぞ!」

「ようやく目を覚ましたかい」

「ここは・・・・・教会?」

「覚えてるかい?あんた自分の家の前で倒れてたんだよ。この子達がそのことを知らせてくれてね、ほんとびっくりしたよ」

 ミラエラの脳裏に気を失う前の出来事が一気にフラッシュバックする。

「全く、古の時代から生きている大魔導師が聞いて呆れるわね。私は——————無力すぎた」

「まずは何があったか、聞かせてもらえる?」

 サーラは子供たちを部屋から退出させると、ミラエラのいるベッドへと腰を下ろす。

 そしてミラエラは、魔導祭中に起きた事の全てを覚えている限り話して聞かせた。

「遂にその時が来たんだね。一週間前に感じたあの邪悪な魔力はやっぱり・・・・・」

「一週間⁉︎ 私はそんなに寝ていたの?」

「魔力も相当消費していたみたいだったけど、何よりも精神面的疲労によるものだろうね」

「それはそうよ。だって私は、自分の手でユーラシアを殺そうとしたようなものだもの」

 ミラエラは半ば自暴自棄となり、淡々と言葉を発する。

 情緒不安定な今の状態の原因は、十中八九ユーラシアによるもの。

 それほどどんなに仕方のなかった状況であったとしても、最愛の存在を失ってしまう苦痛を堪えるのは心に相当なダメージを負った。

「あんたの判断は間違っちゃいないよ。例え私でも同じ決断をしてたはずだよ」

「・・・・・ユーラシアの封印を解く以外にも方法があったかもしれない。私は、その可能性を自ら捨ててしまったのよ」

 サーラが必死にミラエラへと寄り添おうと試みるが、ミラエラはひたすらに自暴自棄に陥ってしまう。

「大丈夫・・・・・なんて無責任なことは言えないね。だけど、ユーラシアは生きていると思ってるんだろう?」

 ここで初めてミラエラはサーラの顔を見上げた。

「ええ。絶対に生きていると信じているわ——————そう信じたいの。こんなことを言ったら人類のほとんどを敵に回してしまうかもしれないけれど、アートなら、魔王なら絶対に竜王の転生体であるユーラシアを見捨てるはずがないわ」

 ミラエラの中には確信がある。しかし、どこか拭えない大きな不安がくすぶる。

「確かに。今の発言は私には理解できないよ。どうして、魔王を信じることができるんだい?」

 サーラはただ怒りを見せるのではなく、ミラエラの考えを理解しようという意思を見せる。

 サーラにとっても、ミラエラにとっても、全人類にとって魔王は最悪の天災。

 人魔戦争を経験していない者たちにも、魔王の残虐非道さはよく伝えられている。

「彼は、いえ魔王は、竜王に憧れているからよ」

 アートのユーラシアに対する思いはミラエラも理解している。

 だからこそサーラにもその情報を共有することが、今の魔王を信頼する理由であると納得させられる。

 しかし、ミラエラ本人がユーラシアのことを考えれば考えるほど、アートに対する信頼が揺らいでいく矛盾が生じる。

 竜王の強大さを最も理解しているのはミラエラだ。

 故に今のユーラシアに竜王の魔力が常に供給されるという恐ろしさを誰よりも理解している。

 魔王は最強であり最恐だ。

 しかし、竜王は最高神を除けば勝る存在などいないほどの圧倒的な存在。

 無敵と称しても許されるほどに。

 次第にミラエラの発言は、ほぼ一人歩きしていき、内に込み上げる不安をポロポロとこぼしていく。

「私たちが信じないでどうすんだい? ねぇ、ミラエラ」

 サーラもミラエラの不安に徐々に触発されていき、先ほどまでユーラシアの無事を疑ってすらいなかった。というよりも、最悪のケースを想像することができなかった。しかし今は違う。

 意思とは無関係に、最悪のケースであるユーラシアの死を想像できてしまっている。

 そんな悪しき思考を消し去ろうと言葉による思考の切り替えを促すが、一度抱かれた不安は決して消えることはない。

 そんな時、部屋の扉が勢いよく開かれ一人の少年が両の瞳に大粒の涙を浮かべて飛び込んで来た。

「ケンちゃん⁉︎」

 ミラエラとサーラは、突然のケンタの登場に言葉を失う。

 今の話は、子供達に聞かせていい話ではない。ましてやユーラシアを心の底から慕っているケンタになど、絶対に聞かれてはいけなかった。

「竜とか、魔王とか、俺には何のこと言ってんのか全然分かんねぇよ。だけど、兄ちゃんが死んだって・・・・・それ本気で思ってんのかよ」

「そんなこと思っちゃいないよ」

「さっきから信じてるだとか、信じなくちゃとか言ってるけどさ、全然そんな風に思ってないじゃんかよ!俺はまだ子供だけど、それくらい分かるんだよ」

 子供とは、まだまともに言葉も話せない赤子の段階から周囲の状況を自分なりに把握しようと試みている。

 言葉が話せなくとも目の前で両親が喧嘩している姿などを見た際には、自分自身でも自覚していない「嫌だ」という意思の元に泣く動作が引き起こされるケースがある。

 つまり、子供とは大人よりも環境の変化に敏感であるが故、些細な変化も感じ取ってしまう。

 ましてやケンタはまだ六歳。後二週間ほどで七歳にはなるが、まだまだ幼子である。

 ケンタは部屋を出る際、ミラエラとサーラの僅かながらの異変に勘づきこっそり聞き耳を立てていたところ、案の定とんでもない話を聞いてしまったのだ。

 話を聞いている際、始めは憧れの兄が死んでしまったのでは? と不安と絶望に駆られそうになったが、ケンタは強い意思で不安を払拭し、ユーラシアは生きているのだと全力で信じることに決めた。

「兄ちゃんに約束したんだ。次会う時までにめちゃくちゃ強くなって待ってるって」

 ケンタは毎日、遊ぶ時間を削ってまで、ご飯時以外は一人森の中で修行をしている。

 今のケンタの目標は、ユーラシアと肩を並べられるくらい強くなること。

 ユーラシアの凄さを全て理解した訳ではないものの、圧倒的な実力差があることは理解している。

 それでも自ら抱いた目標が叶わないなんて思ったことは一度もない。

「それから、兄ちゃんの兄ちゃんになった人のことも今度帰って来た時話してくれる約束もしたんだ」

 あの時のユーラシアの様子から、その人がどうなってしまったのか、ケンタは大方予想がついていた。

 しかし、ケンタにとってユーラシアが兄と認めた人ならば、自分の兄も同然。

 色々な理由を胸に抱き、ケンタはユーラシアの帰りを待ち遠しく思っている。

「神様がどんなに強かったとしても、兄ちゃんは絶対に生きてる——————生きてるんだよ‼︎」

 そう言い残すと、ケンタはサーラとミラエラの下から逃げるように部屋を飛び出して行った。

「——————ユーラシアは生きてるわ」

 不安が消える具体的な根拠はない。

 しかし、ユーラシアを信じてはいる。

 その思いだけは、誰にも負けない自負がミラエラにはある。

 そのことをケンタによって改めて自覚させられたミラエラの表情からは、先ほど浮かんでいた不安の色は綺麗さっぱり消えていた。

 そして、ケンタの言葉に感化されたのはミラエラだけではない。

「全く、おばあさんになっても心は動かされるもんだね。きっとケンちゃんは、ユーラシアと同じくらいすごい存在になるだろうね」

「ええ、そうなったら嬉しいわね」

 ミラエラは優しい微笑みを浮かべて立ち上がる。

「ケンタのところに行ってくるわ。サーラは、他の子供達をお願いできる?」

「ケンちゃんのこと、よろしくね。あの子、この間の休みにユーラシアが帰って来て以来、一人でずっと頑張ってるみたいなの」

 

 そうしてミラエラは森の中で修行をするケンタの下へと向かった。

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