139話 暗黒大陸
暗黒大陸。
そう称される空間内は、外部と内部とが結界による透明な壁で隔絶されている空間。荒れ狂う砂煙が外部から見た内部の景色全てを遮っているため、今現在その地には何が存在しているのか誰一人として知る者は存在しない。
しかし、かつてそこは魔王城があった地であり、魔大陸ディアステッロと称され、近づくことも恐れられていた魔王領であった。
そして今現在も、魔王城は存在している。
魔王に次ぐ強さを誇った十大魔人なる魔人たちが人魔戦争で負った傷一つすら残すことなく、かつての魔王城を完璧に再建し、保管してある。
魔人は、全て滅んだとされている。
しかしその事実には一部誤りが存在している。
確かに、勇者は魔王、十大魔人含めた全ての魔族を一掃した。
しかし魔王は命尽きる瞬間に、とある魔法を発動していたのだ。
それは『蘇生魔法』。
倒される一瞬の時に創り出した魔法。命尽きる瞬間に内に秘める力を外部へと発散することにより、周囲には甚大なる魔王の魔力が鎮座することとなる。
元々魔大陸全土が濃密な魔力に支配されていたため、魔物の大量発生が常に見られていたわけだが、魔王の発動した『蘇生魔法』は、戦闘中は常に発動していた結界内に留まっていた十大魔人たちの魂を肉体諸共蘇らせるというものだった。
結界というのは、魔導祭侵攻時のネメシス戦でも施していたエネルギーを外へと発散させないために周囲に施す異次元結界のこと。
十大魔人たちは復活を遂げるために大量の魔力を必要としたため、魔王が死に際に発散した魔力は、あっという間に吸い取られてしまった。
勇者との戦闘によりかなりの魔力が消費されていたとはいえ、かなりの量であったはず。
おかげで第二の生を得た十大魔人たちは、以前よりもその力を増すことになる。
更に、『蘇生魔法』のために発散した魔力は、その全てを十大魔人たちが吸い取ってしまったわけではない。
僅かながらも魔大陸全土に魔王の魔力は行き渡り、副産物として、魔物よりも高位な存在である魔怪獣が誕生した。
そして誕生した魔怪獣から発せられる魔王因子が含まれた魔力が更に大陸中に広まっていき、人魔戦争時以上の魔力濃度に大陸全土は支配されるようになっていた。
魔王城付近以外の環境はあまりの魔力密度の影響で荒れ狂い、視界も遮られてしまうほどの砂煙を年中立ち込めている。
十大魔人たちは、魔王が再び復活する時まで人類へ攻撃することを諦め、自分たちの世界を創るために魔大陸全土とそれ以外の外部とを結界により隔絶した。
隔絶したとは言っても、結界内に踏み入ることができる存在はいる。
それは、結界を創り出した十大魔人たちに他ならない。
魔王城にいた計九名の十大魔人たちは、突如結界内に出現したとてつもない魔力の気配を感じ取る。
その存在が放つとてつもなく巨大な魔力は、何百年と魔大陸の魔力を抑え込んできた結界の壁を崩壊させてしまいそうなほどの威力を宿している。
焦った十大魔人たちが即座に気配の下へ向かうと、そこには見慣れない三名の姿と、一体の魔法生物の姿があった。