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竜魔伝説  作者: 融合
勇者再生編
139/234

138話 勇者再生物語 其ノ七「再会」

 神放暦二六八年 九月二十五日。

 第三十二回魔導祭開催日の一週間前。

 勇者は剣聖と共に訪れて以来、足を踏み入れていなかった自身の魔力樹が聳え立つ地へと久しぶりに訪れていた。

 当然姿は隠し、気配は絶っている。

 

 剣聖と共に訪れた時は、まだ国と呼ぶには未熟な面が目立つ地であったが、久々に訪れたこの地には、かつてダビュールだった頃に自身が創り上げたクリメシア王国王都クリメシアが誕生していた。

 

 ただ、マサムネ=ダビュールがクリメシア王であった時と、ダビュール本人がクリメシア王となった現在とで異なる点は、クリメシア王の中身が異なる点。そして、クリメシア王国王都クリメシアの中心部に巨大な勇者の魔力樹が聳え立っている点である。

 

 聳え立つ魔力樹のてっぺんからは、未来では失ってしまった国の景色全てを存分に堪能できる。

 景観美は勿論のこと、民たちの笑顔。

 王城に仕える配下たち。

 そして王の自室には、ダビュール。その側近であるカルメとクランの姿があった。

 

 勇者は一人涙を流す。

 心から大切だったからこそ、自然と溢れて来てしまう涙。

 クリメシア王となった勇者=マサムネにとって、その地に生きる人々が何よりの宝物だった。

 確かにあの時、その全てを神人ウェルポネスに奪われた。

 そしてまた、これから失う未来がやって来る。その運命を必ず阻止しなければならない。

 ヒナタもまた、マサムネの記憶を長いこと共有しているからこそ、マサムネの感情を共に味わうことができている。

 そして勇者は再度決意する。

 何を犠牲にしても、必ずクリメシア王国の全てを守って見せると。

 今度は王としてではなく、勇者としての決意である。

 

 勇者は、自室にいるダビュールの下からカルメとクランが離れるのを確認した直後、瞬間移動並みの速さで一瞬にしてダビュールの下へと移動する。

 勇者が立つのは、王室のベランダ。

 大きな窓を挟んだ先には、約四百年ぶりの再会となる親友がいる。

 勇者は、かつて最恐・最凶・最強と恐れられた魔王を倒した存在。

 そんな彼らの前に立ち塞がる王室の壁は、一歩を踏み出せないほどの圧に感じてしまっている。

 再会の約束はしたものの、どう話しかければいい?

 そもそも、約束自体を忘れてしまっている可能性は?

 会った時、自分たちに気がついて貰えるか不安に駆られる。

 そうこう悩んでいると、突然目の前の窓が開かれる。

「ヒナタとマサムネか?」

 突如名前を呼ばれて動揺してしまったが、勇者は被っていたフードを取り、その正体を露わにする。

「久しぶり。元気だった?」

「余は見ての通り、元気にやっている。そういうお前たちは、随分と恥ずかしがり屋になったみたいだな」

「ごめん。会うの久しぶりすぎて、何て声かけようか考えてたんだ」

「私としたことが、ダビュール相手にビビるとか、ほんとダサいわ」

「いい言われようだ。余たちの仲だ。遠慮なんていらないだろう。それに、余はお前たちのことを絶対に忘れないと言ったはずだぞ」

 ダビュールはまっすぐな瞳で勇者の瞳を見据える。

 確かに、全身布で姿を隠した存在がベランダにいては、そっちの方が余程怖いというもの。

「そうだった。忘れてたのは僕たちの方だったね。ごめん」

「よいさ。勇者も人間ということだからな。そういう面があってもいいと思うぞ」

 ダビュールは優しい笑みを浮かべる。

「だけど、ダビュールは僕との約束を忘れないで、しっかりカルメとクランを育ててくれたみたいだね。流石は元勇者の付き人だけはあるよ」

 勇者も笑い返し、互いに友情の証としての握手を交わす。

「もうすっかり王様って感じだな」

「まるでかつての僕を見てるみたいだよ」

「それは、褒め言葉と受け取っても良さそうだな」

「うん」

「ダビュール。実は今日は、君に話さなくちゃいけないことがあって会いに来たんだ」

「別れる前に言っていた、もう一つの目的とやらのことか」

「君には今年の魔導祭を欠席してもらいたいんだ。その理由を今から話すよ」

 勇者は、ウェルポネスと名乗る神人にクリメシア王国を滅ぼされたこと。その未来を変えようとしていることを話した。

「彼女は必ず、十月五日。創生世界空間に現れるはずだ。僕は魔導祭の観客の中に潜り込み、必ず倒す」

「要するに余は、お前たちを信じてここに残ればよいということだな」

「市民たちの危険をなるべく減らすためには、今の段階で避難させた方がいいだろうけど、したら、余計な混乱を起こしちまうだけだからな」

 魔導祭の観客は、国内だけでなく世界各地から訪れて来る。

 物理的に神による侵攻の事実を伝えるのが不可能なだけでなく、前提として信じない者も多くいるだろう。

「安心して、僕たちが必ずみんなを守って、クリメシア王国の運命を変えてみせるから!」

 こうして勇者は長き時を経て再びその力を振るうことになる。

 後日、ちゃっかりとダビュールから魔導列車の乗車券を入手した話は三人だけの秘密。

 


 この先、人類は滅びを迎えてしまうのか。

 それとも、神放暦を乗り越えて新たな時代を切り開けるのかは、最早誰にも分からない。

 しかし一つ確かなこと。それは、人類に、世界に、最強の英雄が帰還したということ。

 



『勇者再生物語』完。

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