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竜魔伝説  作者: 融合
勇者再生編
138/234

137話 勇者再生物語 其ノ六「初代剣聖」

 ダビュールと別れた勇者は、The 旅人と言った感じの灰色がかった緑色の布を頭から被り、口元も隠しながら各地を彷徨い続けていた。

 当然、魔力・神の力ともに魔法陣効果で意識せずとも気配を遮断することに成功している。

 勇者の目的は、過去へ飛ぶ前の未来の世界でクリメシア王国を滅ぼした神人であるウェルポネスを探し出し、消滅させること。

 例え神人一人を滅ぼしたところで、人類へと侵攻が開始されてしまっては、全てが滅んでしまう可能性は十分にあり得る。

 故に、クリメシア王国が神放暦二六八年十月五日に滅ぶ運命を改変するためにウェルポネスを倒すなどと言う考えは、ある意味建前に過ぎない。

 本心は、自分から大切な者たちを奪った敵をこの手で捻り潰してやりたいという復讐心。

 

 勇者は『原 天×点 界』で育ちはしたが、神人の姿を一度も見たことはない。しかしほぼ確信していた。

 必ずそこにいるのだと。

 けれどそもそも論、地上から『原 天×点 界』までの行き方を知らないのだ。どこにあるかさえ。

 そのため、マルティプルマジックアカデミー第三十二回魔導祭開催日の五日目に仕掛けられる侵攻の時を狙い、計画的に神人たちとの接触を図る作戦を考えていた。

 しかしそのためにはまず、今はまだないマルティプルマジックアカデミーとなる校舎を『創生世界魔法』により創り出した空間内へと新たに造らなければならない。


 

「ヒクッ」

「おいやいマサムネ、もしかして酔っちゃったのかや?」

「そういうヒナッちゃんだって、だいぶ酔ってるじゃんよ!」

「体同じなんだから当たり前だろ、バカ!バカマサムネ!」

 とある酒場にて、勇者は一人でに酔いに浸る。

 突如一人でに話し出した人物を見た周囲の客たちは、勇者が姿を布で隠しているのも相まって気味悪く思ったのか、即座に離れて店を出る。

「そりゃあ、酔いたくもなるさ!」

 勇者として戦っていた頃は、解毒魔法の魔法陣を施した上での飲酒だったため、酔うことはなかった。

 しかし今は違う。

 神放暦が始まる解放暦の間は、平和に暮らすことができる。

「今すぐにあいつをぶっ飛ばしてやりたいよ!でもさ・・・・・でもさ、見つからないじゃん」

「私はあんたから話聞いて、記憶を見ただけだからあんたほどの怒りはないけど、確かに四百年は長いね」

「ほんと、ふざけないでいただきたいよ!」

 同じ体なのに、酔いの回り方が全く異なるマサムネとヒナタ。

 いや、回っている調子に差はないが、一人が普通じゃなくなると、本能的にもう一人はしっかりしなければという本能的作用が作動する。

 そのためヒナタはあっという間に酔いをもろともしなくなる。

「それにしてもあんた、よくこんなオシャレな店知ってたね?ご飯もうまいし、お酒もうまい。ちょっと見直したわ」

「あー、ここ? ここはねぇ、シュバルツァアパイセンに教えてもらったんだよ」

 するとそのタイミングで勇者の元へ、漆黒の鎧に漆黒の大剣を腰に携えた金髪の見るからにヤバそうな男が近づいて来た。

「おい。それは俺のことか? クソガキ」

 男の呼びかけに反応した勇者は、勢いよく背後へと振り向いた。まるで懐かしの親友に会ったような笑みを浮かべて。

 正しく情緒不安定。そしてトラブルとはこういう時に起こり得る。

「おっ!シュバルツ君じゃないかぁ!」

「ちょ、ちょっと!」

 勇者は、片手に持っていた酒瓶を手から滑らせ、男の鎧へと酒をぶちまける。

「貴様・・・・・この俺を剣聖と知っての愚行か?」

 男と勇者の視線が重なる。

「お前、その目⁉︎」

「ん?」

 普段、勇者の瞳は茶色なのだが、今日だけは慣れない酔いのせいで『真実の魔眼』による白銀色の輝きを意思とは関係なく帯びてしまっている。

「勇者?」

 これが勇者と剣聖の出会いの始まり。

 


 マサムネがかつてダビュールだった頃は、勇者の魔力樹が聳え立っていたはずの地にて剣聖と出会っている。

 つまり、どの道剣聖と出会うのならばダビュールの下で剣聖が訪れるのを待てばよかった話なのだが、色々と頭の中がごっちゃになってしまったせいで、そこまで考えが回らなかったのだ。

 そのため、マサムネは剣聖がこの酒場に訪れることを分かっていたからこそ、先に来て待っていたわけだ。なぜそのことを知っていたのかというと、マサムネはダビュールだった頃、剣聖からクリメシア王国となる地を訪れる道のりで訪れたオシャレな店の存在を聞いていたため。

 まぁ、その間に酒に潰れてしまったのだが、この後多少揉めはするものの、正気に戻ったマサムネの謝罪と未来に関する話もあって和解する。

 そして、ダビュールだった頃は、土地の発展という使命を背負っていたためできなかったが、勇者は世間には存在を隠したまま、剣聖と共に旅立つことになる。

 

 その間には様々な出来事があった。

 特に思い出深いのは、共にダンジョンを創ったことだろう。

 勇者はこれまでにも対人魔暦中に数々のダンジョンを創っていたのだが、『創生世界魔法』により誕生させた別世界の空間内の地下に存在するダンジョンは、ダビュールだった頃も、今も解放暦の間に創造した。

 

 地下ダンジョンとは、剣聖村が誕生するダンジョンのことである。

 そしてその剣聖村の考案者こそ、初代剣聖本人。

 ダビュールとなり魔力のない勇者のダンジョン創りを手伝う代わり、興味本位で自身の技を受け継ぐ魔物を後世に残したいと言い出したのだ。

 まぁこれには、子孫たちへの贈り物的な意味合いも込められていただろうが、当時の剣聖は間違いなく楽しんでいた。

 そして過去へと戻った今度は、勇者から剣聖村の提案を剣聖へと持ちかけ、地下ダンジョンを創造したのだった。

 

 正直、ダビュールに別れを告げてしまった手前、クリメシア王国となる地には戻りづらさはあったものの、学園も創設する必要があったため、こっそりと剣聖と共に潜り込んだ。

 

 既にお察しの通り、マサムネがダビュールだった頃、剣聖はダビュールの中身が勇者であることに気がついていたのだ。

 しかし、剣聖は普通の人間と大差ない寿命のため、その真実が広まることは一切なかった。なぜなら、剣聖は勇者がダビュールとして生きていることは己の中だけの思い出にしたからだ。

 

 初代剣聖の名は「シュバルツ・アーノルド」。

 レインやシェティーネの先祖である。

 

 そして勇者は剣聖が亡くなった後も一人旅を続けるのだった。

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