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竜魔伝説  作者: 融合
神攻編
132/233

131話 消滅

 アートの膨れ上がった魔力が巨大な漆黒の柱となり地上へと降り注がれた直後、勇者はかつての大戦で自身に放たれた魔法と同一の魔法であることを瞬時に悟り、その危険性を体感しているが故、迷いなく『アベオス』に対抗する魔法陣を天空へと出現させる。

 この時勇者の展開させた魔法陣は、学園の存在している空間全体をあらゆる魔法の干渉から守護する鉄壁の魔法を発動できるものであった。

 一度防いだ魔法ならば、二度目は確実に防ぐことができる。

 学園の存在するこの空間は、かつて地下ダンジョンを創造する際に勇者が創り出したものである。

 勇者は、あらゆる魔法を行使できる魔法陣を自由に作り出すことが可能。しかし、複雑な魔法であればあるほど創作の時間は比例的に伸びていく。

 当然、別世界のような空間を創り上げる魔法を発動する魔法陣の制作にはかなりの時間を要したが、多くの者たちがマルティプルマジックアカデミーで学ぶことができたことを考えれば、創った価値は十分にあったと言えるだろう。

 そしてまさしくクリメシア王国王都クリメシアの森林地帯に記される巨大魔法陣こそが、学園の存在する空間の創造魔法が刻まれた魔法陣かつ、転移魔法の効果も有した魔法陣なのである。

 

 知っての通り魔法とは、異なる次元に干渉可能な魔法が存在すれば、不可能な魔法も存在する。しかし、圧倒的なまでの力を持つ者の攻撃は、その魔力だけで異次元に影響を及ぼしてしまう。

 アートから放たれる『アベオス』など、勇者が少し気を抜いただけでクリメシア王国だけでなく、星丸ごと消えてしまう可能性だってある。

 流石は勇者。完璧なまでに『アベオス』を空間内に留めることに成功している。

 

 しかし、僅かながらに安堵したその時だった。

 

 『アベオス』が放たれたほんの数秒後、目の前に出現する灼熱の真っ赤な炎の柱。

 柱は海底から放たれているようで、信じられないことにアートの『アベオス』の規模、そして込められる魔力総量を上回っていたのだ。

 

「んだよ、あれ⁉︎」

 心の声が思わず漏れる。

「魔王の放った魔法以上って——————夢だよね、これ?」

「しっかりしろ!マサムネ。私だってあんなんどうやって止めりゃあいいのか分かんねぇよ」

 勇者は既に『アベオス』から空間を守るので精一杯。

 ウェルポネス程度の敵ならば無理をすれば相手取ることも可能なレベルであり、『アベオス』と同等以上の魔法から守る余力などない。

「僕たちや魔王に匹敵するほどの魔力を、普通の人間が宿せるわけがないよね?」

「ああ、そんな話聞いたことも——————」

 ヒナタはその瞬間、己に宿る神の力に刻まれたある存在の記憶を知る。

「竜王——————」

「何、竜王って?」

 マサムネは、ヒナタが発した言葉の意味が理解できずにパニック状態。

「マサムネ悪いんだけど、詰んだわこれ」

「ちょっ!マジでヤバイッ———————冗談になってないよこんなの」

 魔法陣、空間共に亀裂が生じ始める。

 ヒナタも現実に直面しつつも、最大限の力でマサムネへと力を送るが空間の崩壊は既に時間の問題となってしまった。

 

 魔王と竜王。

 生きた最強の伝説二人の力には、流石の勇者と言えども力及ばず、為す術なし。

 

「僕たちが創り上げた世界が、消えてなくなる・・・・・」

 この空間を創造したのは、元々勇者であるマサムネとヒナタがかつて訪れた『エルフの都』に憧れたのがきっかけだった。

 あまりにも幻想的な人間の世界から逸脱した異次元の『エルフの都』に心奪われてしまい、勇者は自分たちも理想とする自分たちの世界を創造することを決めた。

 世界が落ち着いた時、もう一度理想の世界づくりをしていこうと密かに思っていたため。

 故に逃れられない崩壊を目の前に、悲しさに駆られる。

「しっかりしろ!このままじゃ皆んな死ぬ。空間が完全に崩壊する前に逃がせるだけ逃すぞ!」

 男勝りなヒナタに無理矢理落ち込む心を叩き直されたマサムネは、人の気配が密集する学園へと向かおうとするが、その瞬間に更に崩壊は加速する。

 少しでも手を緩めれば一瞬で空間が崩壊してしまう段階にまで来てしまった。

「ヤバイ、ほんとにヤバイ!」

「チクショー、マジで八方塞がりじゃねえかよ」


 勇者とは、力を授かった瞬間から勇者になったのだろうか?

 否。

 生まれた瞬間、彼らは勇者だったのだ。

 故に運命は勇者へと傾く。世界を救う存在へと。

 

「おひさぁ〜、マサちゃん! ヒナちゃぁん!」

 

 勇者の大ピンチに駆け付けたのは、真っ白な長い髪に髭を生やし、白装束を着た耳の尖った一人の老人だった。

「「老師⁉︎」」

 現れたのは、エルフの長にして勇者の師である存在。

「今アタシャの仲間が空間内に発生してる発散するエネルギー全てを引力に変換してるでね、二人はゆっくり休んじゃってね」

 相変わらず変わらないな。という懐かしい視線を老師へと向ける勇者。

「状況分かってます?休む暇なんてないですって」

「あ、そう?そだね。それじゃあ、ここにいる人たちぜぇーんぶまとめて『エルフの都』に連れてっちゃおっか!」

「悪いんだけどさ、私らは地下のダンジョンを守んなくちゃいけない。エルフのみんなが来てくれたなら、地上は安心できるけど、ダンジョンは流石に私たちじゃなきゃ守れないからさ」

「そっか、そっか。くれぐれも気をつけてな」

 絶望的な状況にすら一切満面の笑みを絶やさない老師に勇者は、尊敬の念を抱く。

「「はい!」」

 そうして勇者は魔法陣を解除して剣聖魔たちの住むダンジョンの守護へ。


 エルフたちは空間内に残る人間を連れて『エルフの都』へ。


 しかしこの時、アートとユーラシアが放つ魔法の威力があまりにも強大すぎたせいで、エルフたちでは空間内に発散するエネルギーを引力へと変換するのが関の山となり、神人とともにアートとユーラシア、そして神の力を宿すエルピスは空間内に取り残されてしまった。

 そして空間がいよいよ崩壊する直前、水色がかった銀髪を靡かせる一人の人物が気を失うアートとユーラシア、そしてエルピスを連れ、姿をくらませる。

 

 勇者が創造した世界は、エルフの協力あって発生するエネルギーを外部へと一切放出することなく、ブラックホールへと吸い込まれるように綺麗さっぱり魔法陣ごと消滅したのだった。

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