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竜魔伝説  作者: 融合
神攻編
126/234

125話 勇者 vs フローラ

 勇者とウェルポネスは、皆のいるコロシアム地点から離れた上空へと移動していた。

 神人一人一人が絶大なる力を持っているため、各々の戦いの邪魔になるのを避け、勇者はウェルポネスを他の神人から離れた地点へと連れてきたわけだ。

「一つ聞いてもいいかな?」

「どうぞ」

「私のことを憎んでるみたいだけど、初めましてだよね?」

 当然、ウェルポネスは神人である以上、最高神の恩恵を与えられた勇者の存在を知らないわけではない。しかし、直接対面するのは今回が初めて。

「私何か恨まれるようなことしちゃったかな?そりゃあ人類を滅ぼそうとする私をよく思わないのは理解できるけど、それだけじゃないよね?」

「もしも僕が未来から来たと言ったら、君は信じるかな?」

 ウェルポネスは少しの間考える仕草を見せる。

「う〜ん・・・・・ちょっと想像できない、かな?」

「それでも構わないよ。どの道、ここで君を倒せば未来は変えられる。他の神人の問題もあるけど、それはまた後で考えればいいことだからね」

「確かに私の力は、アクエリアスやネメシスと違って戦闘に特化したものじゃないけど、例え勇者が相手でも、私は負けるつもりなんてないよ」

 自信満々なウェルポネスの発言に対して、勇者は薄らと笑みをこぼす。

「始める前に一つ宣言しておくよ。君の力は僕たちには通用しない」

 ウェルポネスは挑発に乗ったわけではなく、勇者の強さを認めているからこそ、一切の手加減なく己の力を解放する。


「神器『神糸』」


 ウェルポネスの創造した神器『神糸』は、ユキやバーベルドにすら切られたことがないほどの強度を誇っている。

 ウェルポネスが操る神糸の規模はクリメシア王国ならば簡単に飲み込めてしまうほど大きく、使用方法は無限にその可能性が秘められている力。

 しかしウェルポネスは、神糸を自らのコレクション作りのためにしか使用したことがないのだ。その内の一つが今着ている真っ赤なドレスであり、今現在もコレクション作りの脳は顕在している。

 ウェルポネスは、全身からほぼ無色透明な神糸を勇者を大きく囲うようにして形作ると、その一本一本を巧みに操り勇者の四肢をあっという間に拘束してしまう。

「この糸は絶対に切れない。ちょっと残念だな。最高神様も認めた勇者がこんなにも呆気ないだなんて」

 そう微笑みを浮かべるウェルポネスに対する勇者も同じく笑みを浮かべる。

「何がおかしいのかな?状況理解してるよね?これから私のコレクションになっちゃうんだよ?」

「どこに目、付けてんだ?」

 

「ッ⁉︎」

 

 突如ウェルポネスの首筋から腰にかけた胴体へと一本の切り込みが生じ、体から血が吹き出す。


「へ?」


 更に勇者の体に纏わりついていた神糸はバラバラに切り裂かれており、勇者はいつの間にか自由の身に。

「絶対に切れない糸だ?どこの世界にも絶対なんて存在しねぇんだよ。ていうか言ったよな?お前の攻撃なんか効かないってさ」

 ウェルポネスは、目の前で起きていることが信じられないあまり硬直してしまう。

 これまで神糸が切られた記憶などない。そう、誰であっても切ることなんて不可能なはずなのに、目の前の勇者は最も容易く幾度も切断を成し得ている。

「未来のお前は確かこんなことを言ってた。神糸だっけ?それには、あらゆるモノ、事象までも縫い合わせることができる力があるってな」

「どうしてそれを——————」

 ウェルポネスは信じるしかなくなる。勇者が本当に未来から来たのだと。

 『神糸』の真骨頂は、今勇者が述べた通り、あらゆるモノや事象を繋ぎ合わせること。

 それ故に、ウェルポネスは勇者と周囲の環境を神糸により繋ぎ合わせ、一着の服を作り出そうとしていたわけだ。

「それってつまり、因果をも操れる可能性があるってことじゃない?なのに君は私欲を満たすためだけにその力を使うんだね。あの時もそうだった。僕に力がなかったばっかりに国を君に滅ぼされてしまった・・・・・」

 だからこそ、未来を変えるために勇者は過去へと戻ってきたのだ。

「それに君は何か忘れてることはない? 僕たちにも神の力が存在しているんだよ」

 ウェルポネスは己の鈍感さに怒りが込み上げる。

 世界樹と呼ばれるユーラシアの魔力樹と同程度の大きさを誇る魔力樹を宿す勇者だが、最高神に恩恵を授けられたということは、巨大な魔力だけでなく、神の力も当然宿していることになる。

「僕たちは二人で一人の存在だ。そしてその理不尽が成立しているのは、神の力の恩恵」

 つまり、神人たちのように神の力を行使することはできないが、放出する魔力を含めたエネルギーには、全て神の力が混じっている。

「君たち神人と対等にやりあえるのは、僕たちのように圧倒的な魔力を宿した存在か、同じく神の力を宿す存在くらいなもの」

 神の力を宿すと言っても、神人は神ではない。

「最高神様助けてくださいっ!私はまだ死にたくありません‼︎これからはもっともっとお役に立つとお約束します。だからどうか、どうかッ——————」

「もう手遅れだよ。自分の体を見てみな」

 ウェルポネスの体中に張り巡らされるいくつもの小さな魔法陣。

「僕は未来で君の力を経験した。そして君を倒すためには十分な時間が僕にはあったこと。君自身が力を発揮しきれていなかったことが君の敗因だ」

「嫌だ、嫌だー‼︎」

 まるで子供のように泣きじゃくり方向転換してコロシアム方面へと逃走するウェルポネス。

 しかし勇者はそんなウェルポネスを追うことはしない。

「君に仕掛けた魔法は二つ」

 その二種類の魔法を魔法陣に乗せて多段掛けしておいた。

「一つ目は君の体から神の力を破壊する魔法。二つ目は、君の細胞を破壊して蝕んでいく魔法。急速に肉体は老い、そして死を迎える。美しさを何よりも好む君には最悪の死に方だろう?」

 神人は神ではない。しかし、神の力によりその生をほぼ永遠なまでに享受できている。つまり、神人の肉体は不死ではないのだ。

「またえげつい魔法を作ったじゃんよ」

「そうだね。だけど、これでもまだ彼女に対する怒りは消えたわけじゃない」

「まぁけど、これでクリメシアの人たちはあいつに殺されずに済むんだよな?」

「そうだね」

 勇者は一人でに会話をする。

 その瞳は白銀色に輝いていた。

「君に宿った神の力のおかげで、僕たちは今ここにいられる。ありがとう」

「何言ってんだよ。あんたの力があったからあの野郎をぶっとばせたんじゃねぇか」

 ヒナタは一つの体に二つの生命を留まらせるという世の摂理に反した神の力を、勇者は『真実の魔眼』を授かったことであらゆる魔法の力を有した魔法陣を作り出すことができる。

 言うなれば、勇者とは「半神人」。

「クリメシアは任せたよ。ダビュール」

 遠方で地上に落ちてゆくウェルポネスを視界に捉えながら、安心した優しい笑みを浮かべて、改めて勇者の元付き人であるダビュール・サラン・クリメシアに王国の未来を託すのだった。

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