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竜魔伝説  作者: 融合
神攻編
122/233

121話 加速する絶望

「ミラ。お願いしたいことがあるんだ」

 そう言ってユーラシアが懐から取り出したのは、青白く発光する液体が入れられた小さなカプセル。

「これは何?」

 ユーラシアは一度言うのを躊躇う仕草を見せるが、すぐさま覚悟を決めた表情をミラエラへと向ける。

 ロッド、ヤム、ゲト、センク。彼ら四人の王だけでなく、誰一人として余裕のないこの状況。

 打開策があるとすれば、最早竜王の力に頼る他ない。

「これは樹の雫。これをボクの擬似魔力樹にかければ、ボクにかかってる封印を解くことができるんだ」

「封印を解くって、そんなことしたら貴方の命に関わるわ」

「このまま何もしなければ勝てるの?たくさんの命が奪われたし、もうみんなだってボロボロじゃないか・・・・・ボクが、ボクが助けなきゃ。助けられる力があるのに何もできずに見てるだけなんて、嫌なんだよ。だからボクの擬似魔力樹にこの雫を垂らして来て欲しい。ミラにしかお願いできないことなんだ」

「戦争中におしゃべりかよ。随分と余裕じゃねぇか!」

 ロッドが地に伏し、他のゴッドスレイヤーたちも手が離せない今、バーベルドの次の標的はユーラシアとなる。

 直後振るわれたバーベルドの拳を、ユーラシアはもろともしない。

「あ?」

 バーベルドはユーラシアに振るった直後の拳に何やら違和感を覚えたらしく、拳に視線を向けて眉を顰める。

「硬ぇじゃねぇかよ」

「気をつけてユーラシア。彼からはユキ以上の圧を感じるわ」

「あ?ユーラシアだと?」

 バーベルドは少し思考に浸った後、何を思ったのか企みのある満面の笑みを浮かべる。

「お前が竜王の転生体か。ほとんどお前からは力を感じねぇが、さっきの一撃を平然と耐えたこと自体普通じゃねぇ証拠だ。面白れぇ、てめぇを倒して俺が最強になってやらぁ」

 


 先ほどから高みの見物を決め込んでいるウェルポネスだが、徐々に感情を昂らせるバーベルドを不安そうな視線で眺めている。

 元々、ユキの先陣を合図にウェルポネス、バーベルドも人類への侵攻を開始する予定であり、人類を殲滅させることを第一に暴れることを条件に、ウェルポネスは手を出さずコロシアムにいるゴッドスレイヤーたちを相手取ることをバーベルドに許可していた。

 しかし、徐々に己の快感を満たすためにわざと遊ぶような真似をしないか不安になって来てしまった。なぜならば、ユーラシアと対峙するバーベルドが浮かべる笑みは、オモチャを見つけた時の嬉しそうな表情そのものだったから。

 このまま全力で人類を殲滅してくれればいいのだが、余計な遊び心で手加減をされてしまえばそれが失敗の種になりかねない。

 それに、ウェルポネスには二つの不安要素があった。

 まず一つ目は、ユキから予め聞かされていたことで。侵攻当日に自分が人類に囚われる可能性があるというものだった。

 これは、敢えて前触れにより侵攻時期を人類側へと悟らせていたため(侵攻を匂わせていた)、一部の人間にはユキの正体がバレていることになる。つまり、確実にユキを捕らえに来ると踏んでいたわけだ。

 そして案の定、ウェルポネスとバーベルドが現場に訪れた時にはユキの姿は見当たらなかった。

 一つ、異様な存在感を放つ漆黒の球体が目に止まり、バーベルド同様、ウェルポネスはその球体に目星をつけていた。要するに、わざわざバーベルドに聞きに行くように言う必要はなかったのだが、まぁそこはウェルポネスなりの意地悪。

 そして二つ目。これはあくまでも直感という曖昧な感覚でしかないのだが、そこら中が絶望に侵されている状況下で、一人優雅にその光景を眺めている存在を警戒せずにはいられない。

 ユキと似たような黒っぽい髪色の少年。

 目線の先にいるのは、バーベルドに目をつけられた赤髪の少年だ。

 黒髪の少年は、赤髪の少年に興味津々な様子で視線を向けている。

 ウェルポネスはどんな状況にも即座に対応するため、周囲の観察を続ける。

 同時に、囚われたユキを取り戻す方法を模索する。

 


 バーベルドから繰り出される拳は、これまで受けて来たどんな攻撃よりも重たく痛い。

 魔王の転生体であるアートの拳を受けた時も、コキュートスを破壊した時も、圧倒的な破壊力を誇るカリュオスと対峙した時も、ユーラシアは竜の硬さで耐え抜いてきた。

 しかし、バーベルドの攻撃は、その一撃一撃が意識が飛びそうになる程のダメージをユーラシアへと与えている。

「グハッ!」

 速さも強さもあらゆるステータスがユーラシアを凌駕している。

 『竜王完全体』は、完全体と名のつく通り、次第にかつての魔力・魔法抜きの純粋な竜王としての能力を取り戻していくことのできる力。

 これまでで思考領域、竜眼などを取り戻して来たが、成長とともに更に様々な能力を取り戻していく。それに伴い、表皮の硬さや筋力の増強も当然ながら行われるため、今以上に将来は防御力も攻撃力も増していくわけだが、それでも今の段階でも充分チートな能力を獲得している。

 しかしバーベルドは、楽しそうな笑みを崩すことなく、ひたすらに力技だけでユーラシアの体を蝕んでいく。

「オラオラんなもんかよ!正直、あん時感じた巨大な魔力とか、最高神様の力に刻まれた竜王の記憶を思い出した時は多少恐怖しちまったけど、全然カスじゃねぇかよ。てめぇ本当に竜王の生まれ変わりか?」

「ミラ・・・・・お願い、早く・・・・・早く」

 バーベルドの言葉など無視してミラエラへと力の封印解除を必死にお願いするユーラシア。

 そんなユーラシアの態度がバーベルドの怒りの感情を刺激する。

「俺には興味ねぇってか、ざけんなよクソが」

 そう言うと、バーベルドは口の中へと自らの腕を突っ込み、そして何かを取り出した。

 それは、ドス黒い炎のような揺らめく何かを周囲に纏う短剣。

「神器は使うつもりはなかったんだが、てめぇはとっておきで一思いに殺してやる」

 バーベルドの神器によってつけられた傷は、一生癒えることはない。つまり、致命症を与えられた瞬間、その者の死が確定する。

「死ね!」

 容赦なく振り下ろされる神器。

 しかし神器はユーラシアに届くことはなく、バーベルドは自身の頬に痛みを感じて立ち眩む。

「イテェじゃねぇかよ」

「今、ユーラシアを失うわけにはいかないからな。悪いがここからは俺がお前の相手をするとしよう」

 アートのその上から目線な態度に怒りを覚えるバーベルド。

「は?誰に向かって口聞いてんのか分かってんのかよ」

「お前しかいないだろう?」

「殺す」

 バーベルドは竜眼を持つユーラシアですら避けることが困難なスピードで神器をアートへ向けて突き出す。

 しかしアートは難なくバーベルドの一撃を躱し、そのままバーベルドの顔面を思い切り地面へと叩き付ける。

「てめぇ——————」

「さて、もう逃げるのはやめにしよう」

「ネメシス。手伝った方が良さそうかな? 良さそうだよね」

 ウェルポネスもようやく地上へと降り立つと、アートの目の前へと歩み寄る。

「余計なことすんじゃねぇよ。これは俺の戦いだろうが」

「違うよ。私たちのすべきことは、人類を滅ぼすこと。ネメシスの個人的な感情で動くことは許されないよ。それに、私たちの思い通りに動いてくれるって言ってたよね?」

「あ?それは、魔王が復活してなかったらの話だろうが」

「そうだったね。魔王かぁ、本当に復活してると思う?」

「ああ。だからちょっと黙ってろ。なぁお前、そこのユーラシアとかいうガキが竜王の転生体だとすると、お前は一体何モンだよ」

 バーベルドの視線はまっすぐとアートへと向けられている。

「魔力も全く感じねぇ、それなのに人間とは思えねぇ馬鹿力。普通じゃねぇ・・・・・ひょっとしててめぇは——————」

 バーベルドの言葉を遮り発せられる一人の人物の叫び声。

 

「マザー——————ッ‼︎」

 それは、マルティプルマジックアカデミーの男子生徒 ユウキ・モラトレアから発せられたものだった。

 次の瞬間、ユウキは勢いよく球体結界へと飛び込み、それに続いて次々と四方八方から光の線が球体結界へと飛び込んでいく。

 そして、人類の勝利のカギである球体結界は、粉々に砕け散る。

 絶望は音を立てて加速していくのだった。

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