118話 神花の脅威
「こりゃあ、面白れぇことになってんじゃねぇか」
「だね!私の力をまさかこんな形で使うなんて、やっぱりアクエリアスはすごいなぁ〜」
ウェルポネスは、配下にする者、養殖用を問わずある程度は始めから支配下に置けるよう、一人一人に神花を植えておく。そして、自身の美貌に対する嫉妬欲などを意図的に刺激するなどして無理矢理感情を昂らせ神花を成長させることで、意のままに宿主となった者の感情を操作しているのだ(養殖用とは、フローラが自身の作り出した特設空間内で育てている人間花のこと。媒体の感情を複数種類コントロールするなどして、複数色の花を作ったりている。そのため、その空間内に咲く花たちのおかげで、色彩豊かな景観美が広がっているのだ)。
当然この感情操作には限界もあり、その上、ウェルポネスは予め全員に神花を植えてから始めるため、花粉による開花の派生に気がついてはいなかったのだ。
今回ユキが行ったことは、神花を植え付けたシュットゥの憎悪と嫉妬の感情を最大限まで高めさせることにより、本来開花するはずの規定値を大きく超えて爆発的に開花させること。それにより、シュットゥから撒き散らされた花粉を吸い込んだ者の中に、ユーラシアへと向けられる同系統の欲望が存在すれば、その者たちも開花するという現象が多発的に起こったのだ。
側から見れば恵まれすぎているユーラシアの環境に、嫉妬を抱かぬ生徒はほとんどいないだろう。もしかすると、観客の中にも生徒たちと似たような感情をユーラシアへと向ける者が多くいたかもしれない。
いや、いたのだ。
その証拠に、会場にいたほとんどの者たちが開花して人の姿を脱ぎ捨ててしまっている現状。
ウェルポネスはこの時初めて知ることになる。
神花は、植えていない者にまで花粉を吸い込ませることで派生させることができるというコトを。
今までは、これほどまで限界値に近く宿主の感情を高めることはしなかったため、気がつくことはなかった。そもそも、全ての媒体を宿主としてしまっていたために派生要員がいなかったのだ。
ウェルポネスにとって神花とは、己の趣味である養殖をするための手段でしかなかった。
そのため、花粉のみで神花を派生させるほどの感情の昂りまでは育てられなかった。
今回、侵攻の先陣を任されているのはユキであるのにも関わらず自分を頼ってきたことに、ウェルポネスは始めわけが分からなかった。しかし、そのための計画を進行しているのだということはすぐに理解した。
けれど、ユキからは一切の説明もないため、ユキが神花で何をしようとしているのかまでは詳しい事情を探ることはできなかった。
例え、一人のみ開花させたとしてもそれが何になるのか?
だからこそ今回、ウェルポネスは神花の新たな可能性を提示してくれたユキに驚愕、感心すると同時に感謝をする。けれど、神花は自分の力だというプライドもあるだけに、少し嫉妬してしまう。
では、なぜユキは博打のような方法で侵攻の先陣を切ることができたのか?
それは昔、一度だけウェルポネスの養殖を見に行った際、宙に舞う花粉を吸い込み、様々な感情の渦がユキの内に入り込んできたことで多少感情を揺らされた体験をしていたからに他ならない。
神人である自身の感情を動かせるとなれば、更に育成していき感情を爆発的に高めた時、神花を派生させることができるのではないのか?と思いついたわけだ。
その後、こっそりウェルポネスの養殖場へと連れてきた捕虜の人間が時間をかけて開花した様を見て、ユキは一人確信したのだった。
そして現在コロシアムは、シュットゥと同じ感情を宿す者たちの開花が終了したかと思った矢先、次に感情が操作され、更に開花が伝染していく第二波の被害に襲われるのだった。