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竜魔伝説  作者: 融合
神攻編
114/233

113話 天のレース

 コロシアム上空にいくつもの列を成し整列するペガサス一堂。

 学年順に前から六年→五年→四年生という順番になっている。そしてユーラシアはというと、ラウロラの隣にいた。

 ペガサスの背中には生徒たちが跨り、馬の背につけるような鞍を用いて生徒とペガサスとが離れないように物理的に繋がれている。

 天のレースでは、もちろん速さも大切ではあるが、速さと美しさ。その両方を兼ね備えたペアが勝者となる。

 天のレースは水のレースとは異なり、スタートからゴールまでは光の道筋が既にできている状態。上下左右へと黄金色に光るいくつもの球状の光が半径十メートル間隔で置かれており、コースは光に囲まれたトンネルのような造りとなっている。

 万が一コースを外れてしまっても、脱線した地点からやり直せば問題ない。しかし、地上にあるコロシアムや水面などにペガサス、あるいは生徒の体の一部が少しでも接触してしまえば、失格扱いとなる。

 また、魔法による他生徒への攻撃は可。その際も水のレースと同様で重傷を負わせることになれば、その生徒は失格となる。

「以上、ルールを守り全力で戦ってくれ——————」

 始まる直前、ラウロラは満面の笑みでユーラシアへと言葉を送る。

「私たちはライバルだけどさ、正々堂々、思いっきり楽しもうねっ!」


「——————スタートッ!」


 本日三度目となるエルナスの開始の合図。

 ラウロラに話しかけられたからと言って、決してユーラシアは油断していたわけじゃない。

 しかし、上級生たちの迫力満点のスタートダッシュに呆気に取られ、出だし早々遅れを取ってしまう。

「まずいっ、エルピス!」

 ユーラシアとエルピスはこの日のためにウィザードファミリアで練習を積んできた。けれど、それは皆同じこと。

 皆が勝つために全力で練習してきた成果をこの「魔導祭」という大舞台で発揮することを望んでいる。

 ユーラシアは一呼吸挟み、焦りの感情を落ち着かせる。

 そしてエルピスも余裕の態度で堂々と、まるで自身を観客たちにアピールするかの如く翼を全開に広げる。

 そして、先ほど飛び立ったどのペガサスよりも速く、静かにスタートする。

 ユーラシアの耳に届くのは「ピュー——————」というペガサスの風を切る音のみ。


 エルピスの心は満たされていた。

 かつての相棒であるフェンメルを失ったことは確かに悲しかったが、エルピスにとってユーラシアのパートナーになれることほど光栄なことはない。

 封印されていたとしても感じられる。

 このお方は、『竜王様』であるという真実。

 自分の体にも流れる血液に混ざっている竜王の細胞がユーラシアを竜王の生まれ変わりであると判断させた。

 ペガサスはかつて竜王に血を分けられた存在であり、人類の味方。それ故に神側の存在にはよく思われてはいない。

 エルピスはこの場にいる全てのペガサスの嫉妬心を真正面から受け止めている。

 ペガサスならば皆、ユーラシアとパートナーを組みたいと本能から思ってしまう。だからこそ、エルピスだけには負けられないといつも以上にペガサスたちの気合いは増しているのだが、エルピスは今この瞬間、覚悟を試しているのだ。

 ユーラシアが命じたわけではないが、自分こそが王の隣にいるのに相応しいペガサスであると。それをこの場で証明するためにも、絶対にこのレースは負けられないのだ。

 そんな強いエルピスの意志が限界以上に力を発揮させることになる。

 出だし遅れていたはずのユーラシアだったが、気がつくと先頭にいるラウロラたちの後ろ姿を捉える。

 けれどまだ尚エルピスのスピードは上がっていく。

 上がって上がって上がって上がって、ラウロラと並んだ。

 そう思った直後、全身に衝撃が走るとともにエルピスの鳴き声がユーラシアの耳へと届く。

「エルピス⁉︎」

 背後を見ると、エルピスの尻尾からは若干の煙が上がっている。

「もしかして、ボクたち狙われてるの?」

 天のレースでは生徒同士の妨害行為が許されている。

 ユーラシアは、これまで何度か殺意に触れてきた。

 だからこそ分かる。

 向けられているのは殺意まではいかないものの、自分よりも後ろにいる生徒たちのほとんどが、自分のみに敵意を剥き出しにしている状況を。

 それに気がつくと同時に第二波が放たれる。

 そこから連鎖的に仕掛けられるユーラシアとエルピスを妨害するための魔法の数々。

 弱い魔法ならばと、直接当てようとして来る攻撃や、始めから当たらないギリギリを狙い動きのみを止めようとする攻撃。

 当然、攻撃を仕掛けようとすればその者たちの順位も下がっていくわけだが、そんなことよりも、ユーラシアを勝たせたくないという気持ちが一致団結を生じさせている。

 例を見ない下級生。それも、一年生からの出場者というだけでも先輩たちにしてみればプライドを完膚なきまでにギタギタにされるに値する仕打ち。その上、その一年生が優勝までしてしまったとなれば、嫉妬心はやがて猛烈な殺意へと転化する。

 そうして狙い通りにユーラシアとエルピスはコースから外れ、どんどんあらぬ方向へと追いやられてしまう。

「どうしたらいいの?」

 ユーラシアは直接攻撃が当たってもほぼダメージはないが、エルピスはそうではない。飛行に加えて攻撃行為など、エルピスの体力はみるみる削られていく。

 攻撃はユーラシアの判断など待ってはくれず、増していく一方。

 一人一人の威力は大したことがなくとも、最早回避不可能の特大攻撃となる。

 エルナスとしても、ここまで一人の生徒に集中的に牙が向けられることは流石にないだろうと甘く見ていただけに、この状況への対処に戸惑ってしまっていた。

「エルピス。ボクを信じて」

 エルピスは首を捻り、背中に乗るユーラシアへと不安な瞳を向ける。

「これは君とボク、二人の戦いだ。君の翼が折れそうになっている今、ボクが君を支えるよ。だから、ボクを信じて目を瞑ってくれる?」

 エルピスは、ユーラシアの言葉だからこそ信じて目を瞑る。

 迫り来る殺意。

「行くよ!」

 ユーラシアは、ひたすら天へと舞い上がるエルピスを後方へと引っ張り、迫り来る攻撃の群れへと突っ込んでいく。

 そしてユーラシアたちへと初手に届き得る攻撃が目と鼻の先に迫った瞬間、ユーラシアは『竜眼』を使用する。

 直後、一つの攻撃もエルピスに掠らせることなく、コースに向かってものすごいスピードで降下していく。

 後少し、後少しのところで『竜眼』が切れる。

 と、同時に再度猛威を振るう攻撃。

 しかし今度は、エルピスが口から青白い炎を吐き出し相殺すると同時に、余波によるダメージを逸らすため、エルピスは自身の体をドリルのように高速で回転させ、余波で生じた炎をかき消した。

 そしてコースへと戻ったユーラシアとエルピスは、よりキレと速さを増してゴールへと突き進んでいく。


「うわぉいっ、まじかよ⁉︎」


 ゴール直前、ケビンの驚愕の声が耳に届くと同時にゴールした。

 結果、着順は一位ラウロラ。二位マリック。そして三位にユーラシアは食い込んだ。

 最終結果は、同率一位でラウロラとユーラシアという結果となった。

 ビリからのスタートに始まり、あれだけの妨害行為を受けて尚、三位を勝ち取ったことが評価され、一位を獲得。

 そんな苦難を乗り越えたユーラシアと同率一位のラウロラは、誰の目から見ても学生とは思えぬ完璧なパフォーマンスをしてのけた。

 



 向けられる歓喜の声。

 しかしそれらはユーラシアではなく、その他の生徒へ向けられたもの。

「あいつだよな?ユーラシア・スレイロットとかいう一年生」

「入学当初、勇者の息子だとか騒がれてた奴でしょ?」

「あれってマジだったの?」

「本当かどうかは知らねぇけどさ、名前誤魔化してたら流石にすぐバレるだろ」

「ていうかさ、今はそれよりも、あいつの魔力樹が世界樹だって噂本当だと思う?」

「俺に聞かれても分かんねぇよ。ただ、俺たち生徒だけじゃなく、他の観客とかもチラホラ話してるってことは、マジっぽくね?」

「何なんだよ、マジで!勇者の息子で、世界樹で、おまけに入学したばかりの一年のくせして魔導祭出場かよ!」

「ほんと、校長先生は何考えてるんだろうね?もう少し出られない私たちの気持ちとか、死に物狂いで頑張ってる先輩たちの気持ち考えてほしいよね」

「ムカつくな、あの一年」

「うん、マジでムカつく。ほんと気に入らないっ!」

「ラウロラ先輩と同率とか・・・・・何なんだよ、クソッ!」

 向けられる嫉妬心。

 魔導レースで一位を獲得したことにより、ユーラシアと仲の良い者たちを除いたほとんどの生徒から悪意に塗れた嫉妬心を向けられることになってしまった。

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