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竜魔伝説  作者: 融合
神攻編
113/233

112話 水のレース

 約二時間という過去に例を見ない長さの地のレースを終えた会場の盛り上がりは、今も尚冷めやらぬ。

 一時間を超えたあたりで誰もキューブから出てこない状況に厳しい表情を浮かべる者たちは少なからずいたものの、ラストにカオスが見せたエンターテインメイトは観客たちの心を打った。

 そうして昂りは最高潮のまま、前座を終え、メインレースへと移っていく。

 続いて行われるのは水のレース。

 参加生徒の百八名はコロシアムの外周に設けられた幅一メートルほどの足場へと、口元に魔道具『ボンベ』を装着した状態で位置についている様子をスコーヴィジョンにより会場内へと映し出される。

 魔道具『ボンベ』は、直径十五センチほどのシャボン玉のような見た目のアイテムであり、水中で三十分間の呼吸を可能としてくれる魔道具。

 水のレースは、基本的に魔法の使用は禁じられていない。勿論、意図的に重傷を負わせるなどの悪質な行為は反則とされているが、生徒同士の戦闘は許されている。

 そして水のレースでは、パートナーとなるマーメイドは予め水中のどこかへ捕らえられた状態にある。

「囚われのマーメイドを救い、規定のコースを通り早くゴールした者が勝者となる。そして、レースのコースとなる道筋は、パートナーのマーメイドを助け出せた者にだけ導き出される仕組みとなっている」

 水のレースはただ単にマーメイドを助け出してゴールすればよいのではない。決められたコースを経てゴールする必要がある。

 地上からでも海の底が見通せるほど水の濁りが全くないが、マーメイドらしき姿は一体たりとも見当たらない。しかし先ほどから、鋭い背びれを生やし、素早く水中を移動している人間並みの大きさをしている魔法生物が潜んでいる。

「最後に今回は新たな要素を設けることにした。例年では、フィールド内に煙幕を張ることで視覚を封殺していたが、今回は違う。「シャークネス」と呼ばれる魔法生物がお前たちの行手を阻む刺客となるだろう。奴らは肉食生物であるが、安全面を考慮し、口元は専用器具で拘束してある。ただし、その本能は剥き出しのままだから気をつけろ」

 シャークネスはいわゆる鮫のような見た目をしており、表皮は魔力が具現化したいくつもの鋭い突起が生じている上、牙は剣の素材ともなり得る魔鉱石と同等か、個体によってはそれよりも強い強度の牙を持つ個体も存在する。更に、水中で秒速三百メートルほどの瞬間的速さを出すと言われている。

「念の為、参加生徒一人につき二人の救護班がついて回ることとなる。それでは、レース開始だッ!」

 地のレース同様にエルナスの掛け声を合図に一斉に海へ飛び込む生徒たち。

 そして当然始めに行われることは、マーメイドの姿を見つけること。

 例年ならば視界が悪くとも、魔力の位置などでマーメイドを見つけることができていた。そのため、生徒同士による妨害行為なども見られたのだが、今年は不思議なことに探せど探せど、一体たりともマーメイドは見当たらない。レースの範囲は決められているため、それより先にマーメイドがいることはない。

 そうこうしている間にも、シャークネスの被害者が次々と出始める。

 開始十分という短時間で既に一割から二割の生徒が救護班により退場させられていく。

 今年の水のレースでは、誰が速くゴールをするのかという皆の思考は、ゴールまで生き残るという思考に切り替えさせられていた。

 

『おかしいわね・・・・・』


 アイリスは、光属性の弱点属性でもある闇属性の『暗殺魔法』を扱う。闇属性は、特別に得意属性などもない代わり、光属性以外は、不得意な属性も存在しない。

 『暗殺魔法』は、その名の通り暗殺に特化した魔法を扱うことのできる魔法であり、アイリスが今現在使用している魔法は、「隠密」である。

「隠密」・・・一定時間全ての気配を絶つことのできる魔法。

 アイリスは隠密を使用しながら、何体ものシャークネスを観察していき、気がついたことがあった。

『遠方まで見渡せるほど透明な水の中で一体のマーメイドも見つからないなんてのは、どう考えてもおかしいわね。それに、群れで行動しているシャークネスがいれば、個々で行動しているシャークネスもいる』

 その違いのみに焦点を絞り、そうしてアイリスは一つの結論に辿り着く。

『なるほどね。個々で行動しているのはスコーヴィジョンを背負っていることからもおそらく撮影役と言ったところかしら。そして、群れで行動しているシャークネスの中には必ず、スコーヴィジョンを背負っていない個体が混じっているわ。つ・ま・り』

 アイリスは一切の気配を悟られずに己の勘のみを頼りに数ある群れの中へと忍び込み、一体のシャークネスにそっと触れると、自身の魔力を流す。

 すると次の瞬間、シャークネスが美しいマーメイドへと姿を変えた。

 このマーメイドは、アイリスのパートナー。

 例え姿を変えられていて魔力を感じずとも、培われた信頼は裏切らない。

『やっぱり思った通りね。個々で行動しているのは撹乱役。そして、本命のマーメイドたちは複数のシャークネスによって守られていたというわけ。安全を考えた結果なのでしょうけど、教育を受けさせられているおかげで、その規則性に気がつきやすかったわ』

 教育とは、良くも悪くも何かしらの癖を生じさせることになる。

 今回は、従順にシャークネスたちに命令を守らせた結果、容易にアイリスに規則性を見破られてしまった。

 そしてマーメイドがシャークネスに姿を変えていたカラクリは、レプラコーンよる力。予めマーメイドたちをシャークネスへと姿を変えさせていたのだ。

 レプラコーンの能力は、能力をかけた個体を幻の姿に変えられるというもの。そのため、本来の力や実際の大きさなどは変えられないが、表面上から漂う魔力の気配は変えられるのだ。

 アイリスは、自身とマーメイドとの間に生じる回路を利用して己の魔力でレプラコーンの魔法からマーメイドを解放することに成功。

「さて、何人がこのカラクリに気づくのかしら?」

 アイリスは余裕の一位でゴールを果たした。

 そしてその後は、数分遅れてシズレットとジョレーヌが同率二位ゴール。

 その後は十分以上の差が開いてのゴールとなり、合計で全体の三割の生徒が無事にゴールを果たすことができたが、七割の生徒はカラクリは分かってもパートナーを見つけられなかったか、そもそもカラクリに気づけなかったか、シャークネスにリタイアさせられたか、いずれかのケースでゴールすることはできなかった。

 こうして水のレースは終わり、いよいよラスト天のレースの時間がやって来る。

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