110話 魔導祭開幕!
いよいよ迎えた『魔導祭当日』。
王都クリメシアはその前夜から盛り上がりを見せていた。
魔導祭が開かれるコロシアムへ行くためには、王都クリメシアを経由するしかないため、普段ならば夜中は閉鎖されている入場門は特別に開場しっぱなしの状態となっている。入国して来る多くの者たちの姿が前日の正午から深夜にかけて絶えず見られる状況。
そのため、酒場などもほぼ当日の明け方まで営業されており、まだ魔導祭は始まってもいないと言うのに王都はお祭り騒ぎとなっていた。
まぁ、これは毎年同様のこと。彼らは更に、魔導祭の会場となるコロシアムでも熱き声援を送り、更なる盛り上がりを見せる。
そして今回は魔導祭の開催にあたって、魔導列車のお披露目も兼ねている。
時刻は朝七時付近だと言うのに王都の森林地帯から始まりそれはそれは長い長蛇の列ができていた。
この長蛇の列の目的は勿論、魔導列車。
一回に三百人程度しか乗れないため、初めてということもありどうしても非効率になりかねない。
王都にある魔導列車専用の停留所には十名の魔法科学科生徒の姿が見え、彼らは乗客から渡される切符を確認する役割を果たしている。今回、事前に購入してもらったこの切符は、魔導列車の乗車券兼魔導祭観戦チケットとなるのだ。
当然、待つのが嫌だと言う人もいるわけで、そういう人たちには、通常通りコロシアムへと転移魔法陣を使用しての移動をしてもらっている。
今回、魔導祭チケットの総売り上げ枚数は、三万九百枚弱。コロシアムは立ち見客が現れるほどの大盛況であり、魔導列車の乗車券は、約二万枚。
全体の半分以上の売り上げを叩き出せたとなれば、十分満足な結果と言える。
魔導列車の一回の乗車時間は約一分弱。一周するごとに約三分かかるため、観客全員がコロシアムへと揃うまでに三時間半程度かかってしまう計算になる。
転移魔法陣で直接移動した人たちには多少の不満が募るかもしれないが、魔導列車に乗車した人々は、長い列を並んだ甲斐があり、素晴らしい景色を魔導列車の窓から一望できたのだ。
地上約百メートルに造られた線路を走る魔導列車からは、王都の景色がまるでオモチャのように小さく見える。更に、今日は雲一つない快晴ということもあり、朝日に車内が照らされることで、より幻想的な体験ができるのだ。
また、ミラエラの氷界創造のせいで王都の民たちは魔導列車が走ることになる線路を目にしてしまっているが、実際に走る姿を見るのは初となるため、並んでいる人々も何度見ても意識を奪われ、待ってる時間などあっという間に過ぎていく。そして、列車を降りた後も友人や家族、連れとの会話の種となり、その余韻が長いこと消えることはない。
正午。
コロシアム内には計三万人を超える全ての観客の姿。
生徒たちは学科学年ごとに分かれて席に着いている。
そして、会場にいる全てのゴッドスレイヤーたちは、コロシアムの至るところに各々配置し、細心の警戒を試みている。
唯一、クリメシア王であるダビュールのために設けられた席のみ空席。
ゴッドスレイヤーたちは今年、スカウトのために会場にいるのではなく、神による侵攻を受けて立つためにこの場にいる。
そしていよいよ、魔導祭の開催の時を迎える。
勿論司会進行を務めるのは校長であるエルナスと、そのルームメイトであるミラエラ。二人は、司会役の特設ブースにて席を設けられていた。
コロシアムの最上部にて皆から見える位置にある。
更に、スコーヴィジョンにより姿が拡大されてコロシアム内に映し出されている。
「私はマルティプルマジックアカデミーの現校長であるエルナス・ファミリナだ。そして私の隣にいるのが今年から新たにこの学園の教師として就任することとなったミラエラ・リンカートン。本日は私たち二人が司会進行を務めさせてもらう。それでは、第三十二回マルティプルマジックアカデミー魔導祭を開会する!」
神の侵攻の気配など微塵も匂わせずに開会の挨拶をするエルナス。
そして盛大に盛り上がりを見せる観客たち。
昨日のお酒がまだ抜けていない者もいるだろうが、会場で売られている飲食を手にする者も多くおり、お酒のアルコールが更に観客たちの熱さをアップさせていく。
魔導祭は今年で三十二回目にはなるが、学園が創立した当初から魔導祭があったわけではない。
「今年も例年通り初日が魔導レース。二日目から三日間のバトルロイヤルを経て五日目からはバトルトーナメントが行われる運びとなる。それでは早速第一競技から始めるとしよう。まず始めに行うのは、魔導レース『地のレース』だ!」
コロシアムの中央に浮かんでいたスコーヴィジョンの映像が切り替わる。
映し出されたのは、地下の映像。
黒っぽい巨大なキューブを前にした多くの生徒たちが今か今かとスターティングポーズを取っている。
しかし、その映像には徐々に光が差されていき、真緑色の巨大なキューブがコロシアムのフィールド上に生徒とともに出現した。
「今からお前たちにはキューブの中に住むレプラコーンを最低でも一体連れてゴールを目指してもらいたい。ルールに反しないことならばどんな手段を用いても構わない。地のレースは、着順に加えて、ゴール時点で連れているレプラコーンの数がレースの結果となる。それでは——————開始ッ!」
開始の合図とほぼ同時に開かれるキューブの入り口。
生徒たちは一気にキューブ内へと姿を消していき、最後の一人がキューブ内へと入ったところで完全に封鎖された。