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竜魔伝説  作者: 融合
神攻編
106/234

105話 魔導列車の試験走行

 九月二十日。

 今年の魔導祭が稼働初となる計三年間を費やして創り上げた魔導列車が、ついに完成の時を迎える。

 汗水垂らして情熱を注ぎ込んだ魔法科学科は、皆が同様に喜びの涙を浮かべている。

 そして、その光景を目にしていたレイン、ヴァロ、シェティーネを含めた魔戦科生徒たちも同様に喜びを分かち合っていた。

 夏休み後の約三週間。魔導列車の準備を手伝わされていた魔戦科生徒たちは、放課後は決まって魔力が枯渇した状態になっていた。

 その甲斐あって、魔導列車の動力源となる魔力が蓄えられた貯蔵用タンクの本数は、なんと三千本にも及ぶ(だいたいだが、貯蔵用タンク三百本分が、列車全体の〇から百までの燃料量に等しい)。

 エネルギー効率などの問題は後々考えていくとして、魔導祭における魔導列車の運行は、一先ず問題なく行うことができそうだ。

 世の中には既に、一般運行されている列車が存在しているが、魔法科学科の集大成となる魔導列車は一味違う。

「一先ずおめでとうと言っておくよ。君たちは紛れもなく凡人だ。だけど、凡人である君たちがいなければ、この魔導列車は完成しなった」

 魔法科学科生徒たちは、少し驚いたような表情を浮かべる。

 普段、自分たちを下にしか見ていないマユルが、素直に自分たちのことを褒めてくれたからだ。

「けれど忘れてはいけないよ。集大成とは言っても、魔導列車に詰め込まれている知識の全ては、私と彼女によるものだからね。科学者は他人の成果を嫌うのと同じくらい、自らの成果を奪われるのを嫌う生き物なんだ」

 マユルの奇妙な顔面と、一人一人を試すかのように向けられる視線に、魔法科学科の生徒たちは息を呑む。

 ここで誰一人マユルに対して言い返すことをしないのは、マユルの意見は正しいからである。

 魔導祭は例年、王都クリメシアの森の中に存在している転移魔法陣を使用して観客をコロシアムへと誘導していた。しかしそれではその過程を楽しむことができないことになる。そこで魔導列車という考えを発案したのが、当時魔法科学科三年生だったオリナ・ワオールという女子生徒だった。彼女こそ、マユルが魔法科学科で唯一天才と認めた人物である。

 そして三年という学生にしてみれば長い月日を要して完成した魔導列車の仕組み全てを、〇からマユルとオリナの二人のみで作り上げた。

 要するに、マユルの言う凡人生徒は、二人が作り上げた設計図を元に組み立て作業をしていただけなのだ。

 しかしそれを屈辱とは思わないのは、魔法科学科の生徒たちは、マユルとオリナを認め、尊敬しているからに他ならない。

 二人についていけば自分たちはどこまでも成長することができると信じている。

「こらこらマユル、魔導列車はみんなの成果なのです。それを独占しようという心行きはよくありませんね」

 魔導列車の最終点検を終えたオリナが、柔らかな笑顔を浮かべてマユルへ向けると、マユルもまた真っ白な歯を見せたキミの悪い笑みを浮かべる。

「いや、別に成果を独り占めしようなどとは思ってませんよ。ただ、特権云々の話が出た際には、開発者の名前に私と貴方の名前が乗ると言う話ですよ」

「なるほど、そういうことでしたか。ですけど、その際は貴方だけの名前で大丈夫ですよ。私も彼らと同じ凡人。ただ、運良く閃いてしまうだけですからね」

 魔導列車の仕組みを考えていく際、主な骨組みとなる案はマユルが出していくスタンスだったが、そこへちょくちょくマユルでは思いつきもしなかった天然の天才的なオリナの発想が加わっていったのだ。

 それを運一つで片付けられてしまうなど、笑い話だ。

「フッ、時に天才とは、本人すら自覚していないケースが存在しているもの。私に思いつきもしない発想が思い浮かぶ時点で、貴方は紛れもなく天才なんですよ」

「そうですかねぇ〜?」

 オリナは、真剣に頭を傾けて悩む仕草を見せる。

「まぁいいでしょう。今は列車列車です!みなさん、試験走行と参りましょう!」

「彼女といれば、私は人生に飽きることなく生きていける」

 マユルはポツリとそう呟いた。

 しかしオリナは六年生。マユルは五年生。

 二人の間に生じるのは、一年という分厚い壁。

 オリナは、マユルよりも一年早く外の世界へと旅立ってしまう。そうなれば、マユルの人生はまたつまらないものとなってしまうだろう。

 だからこそマユルは決めている。

 もし、この試験走行がうまくいったら・・・・・

 そして迎える試験走行。

 まず、南館に置いてある魔導列車を車両ごとに、床に記した魔法陣で海底通路へと転移させ、連結。

 海底通路を形作る透過トンネルは、白銀世界事変の影響など一切見られない広大な透き通る海の景色を一望できる造りとなっている。(※このトンネルは、発明科が作成したものである)

 そしてその海底トンネルは、魔導祭の舞台となるコロシアムに設けられた列車の停留所まで繋がっている(予備燃料の入った貯蔵用タンクは全て、ここに置かれる)

 そしてこの魔導列車の醍醐味となる要素は、トンネルの端に記した転移魔法陣を通って王都の空を駆ける点。

 それらの実現には、エルナスがクリメシアの王であるダビュールへと、魔導列車が通るためのトンネルと路線、停留所の設置を頼み込んでくれたことが大きく関係している。その結果、空路におけるそれらの使用許可が降りた。

 こうして発明科は海底トンネルだけでなく、海底トンネルから王都へと続くトンネルの製作に、全てを繋げる路線の作成を行った(この際、王都から海底トンネルへと繋ぐ転移魔法陣も忘れずに施した)。更に、王都の空中に架かる線路は、またまた発明科が開発した魔道具「透明シート」により、その姿を隠している。ちなみに停留所に関しては、森の中に記された転移魔法陣の上空へと設置されることとなった。

 

 まぁ、今回の試験走行では王都への走行はしないため、コロシアムまでの走行が行われた結果、成功。

 その後南館へと戻ってきたマユルは、他の生徒たちの目があることなどお構いなしにオリナの手を握りしめる。

 当然、皆の視線はマユルたちに注がれる。

「何のつもりですか?」

「一つ提案をさせてください」

「はい?」

「人生のパートナーになってはくれませんか?」

 マユルは自信満々な顔つきでオリナに視線を向ける。

「えっとー、それは要するに、私に貴方の彼女になれということですか?」

「そう捉えてもらって結構ですよ」

 マユルの表情は、オリナの返答を聞くまでもなく勝ち誇ったものとなっていた。

 しかし、オリナの発した一言により、マユルの笑みは消え失せる。

「ごめんなさい。遠慮させてもらいます」

 マユルはよっぽど信じられなかったのか、無表情のまま数秒の間硬直をしてしまう。

「私としたことが聞き間違えるとは、疲れが溜まっている証拠かね」

 現実逃避しようと試みるマユルだが、オリナはマユルの視線を逃さない。

「マユル。私は、貴方の声が好きじゃありません」


「声⁉︎」


「貴方の話し方が好きじゃありません」


「話し方⁉︎」


 マユルの膝はガクリッと崩れ落ち、お尻を地面へとつける。そして、目の焦点がズレてしまい唖然とした表情となる。


「けれど、一番嫌なのは、その顔です」


「顔⁉︎」


 マユルは拳銃で撃たれてしまったように飛んでくる言葉の弾丸により、後頭部を思いきり地面へと打ちつける。

「どうしてそんなに真っ白なのかは分かりませんけど、そんな気持ちの悪い見た目では、女の子にモテないですよぉ」

 わざとなのか天然なのかは分からないオリナの一切の悪意のない笑みと言葉の攻撃。

 しかしそれを受けたマユルは、あまりのショックにより失神してしまっていた。

 何はともあれ、魔導祭まで残り約一週間。

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