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竜魔伝説  作者: 融合
神攻編
100/233

99話 神攻対策会議(前編)

 九月五日。

 東西南北の中間地点には、巨大なシェルターが設けられている。

 万が一の有事の際に東西南北の誰しもが使用できるように相当の規模を誇っており、様々な衣食住の環境設備が整えられている。

 このシェルターへ繋がる魔法陣は、東西南北の至る箇所に設置されているのだが、緊急時以外での立ち入りは固く禁じられている。そのため、シェルターへ繋がる魔法陣を緊急時でないのに起動した者がいた場合、その者には厳罰が課せらる。

 このシェルターは、最後の光や小さき光、単純に光という意味から一文字で「L」と称されている。また、最終防衛ラインとの呼ばれ方もされており、人類が長年かけて作り上げたほぼ無敵に近い防壁を展開しているのだ。

 まさに無敵の要塞である。

 

 このシェルターには、ホープァルの予備施設的な空間も一部設けられている。

 滅多に使用されることなどないが、唯一の例外を除くと、それは、緊急を要する会議などが開かれる場合。 

 

 この世界には転移という一瞬にして空間と空間を移動できる概念が存在しているが、基本的に東西南北間を跨いでの使用は制限されている。魔法による転移は制限のかけようがない。

 主な理由としては、魔法陣による転移は、移動先と移動前の両地点に転移魔法陣が設置されていることが条件となるが、相手国へと一瞬にして移動できるということはつまり、戦争の際、かなりの脅威となってしまう。

 神放暦に突入する以前は、人類同士の戦争が行われていたこともあり、人々による争いへの警戒心は今も尚強いのだ。

 そのため、領域を跨ぐ一週間以上の設置は認められていないが、それ以下であれば転移魔法陣の使用は認められている。しかし、そんな短い期間では、帰宅の際には役立つものの、再度異なる領域へと向かおうとすると既に魔法陣は消されてしまっている。

 それでいうとミラエラの使用していた転移魔法陣は、ほぼ反則のようなもの。

 魔法陣とは、先人の人々が編み出した魔法が保存されているものや、魔法の補助を行ってくれるもの。転移魔法陣は、主に前者である。何が言いたいかというと、魔法陣とは『真実の魔眼』を持つ者にしか作ることが不可能な代物であるにも関わらず、ミラエラは転移先ごとに多少の情報を書き加えられる。その情報というのが転移先の情報であり、ミラエラは一度赴いた際の場所の情報は魔法陣に記入することができるため、移動先に予め魔法陣が用意されている必要がないのだ。

 まぁ、真実の魔眼を持っていないのにそんな芸当ができるのは、何千年と生きた大魔導師故の特権なのだろう。

 

 話を戻すとしよう。

 先ほど述べたように、シェルターにはホープァルの予備施設が設けられている。

 東西南北のホープァル間にも同様、その周辺地域にも領域を跨ぐ長期による転移魔法陣の設置は許されていないため、ユーリは苦労させられたわけだが、中間地点に存在するホープァルには、それぞれのホープァル各本部とを繋ぐ転移魔法陣が施されている。

 そして今、東西南北各五名ずつ、計十九名のゴッドスレイヤーたちが巨大な会議場にて四方面に座り向き合って座っている。

「な〜んか、そっちの若いのに面倒かけさせちまったみたいで悪かったな」

 向かい合ってまず、始めに発言したのは、西側のゴッドスレイヤーたちを取りまとめる王「ヤム・スケイル」。

 重要な会議の場とは思えないほどいつもと変わらぬ上下ピチピチの私服に、所持品はタバコと目の前に置かれたナイフのような短剣のみ。

 しかし、そんなヤムの自由気ままな格好にツッコミを入れる者は誰一人としていない。

「心配はいらない。こいつは俺の右腕だからな」

「右腕って・・・・・あれ?なんか前見た時と比べてそのゴツい腕新しくなってない?いや、気のせいか」

「フッ相変わらずだなヤム。お前のその自由な性格と格好は」

「まぁ、これが俺だからな。他人にとやかく言われても俺は俺の道を行く!けどまぁ、転移魔法を使える奴がこの世に少ないのも事実だ。転移魔法陣には制限もかかってるし、いっそのこと世界中どこにいても連絡の取れる魔道具なんかが開発されたらとは思うな」

 実際、ダビュールが極秘でそれらしい魔道具を開発していることは、この場ではミラエラしか知らない。

 そんなミラエラへと、ヤムは視線を向ける。

「なぁ、ロッド。ところでこれってツッコんでいいのか分かんなかったけど、お前んとこの白髪の嬢ちゃんって、誰それ?ゴッドスレイヤーにそんな人いたっけ?」

「ヤム。もしも彼女がゴッドスレイヤーだった場合、相当な失礼にあたる発言だぞ?」

 ヤムの方は見向きもせず、ひたすらに対角線上に座るユーリへと無表情の視線を向け続けるローズ。

「ヤムって、俺一応お前の上司なんだけど?まっ、別に構わないけど」

「確かにそうだね、ヤムの言う通りだ。僕の記憶にも彼女は存在しない。となると、ロッドは一体誰を連れてきたんだろうねっ」

 楽しそうな声色で発言するのは、南側のゴッドスレイヤーたちを取りまとめる王「ゲト・シュグール」。

 南側領土は、南の土地自らが有する魔力の質のせいで、天体の自転公転関係なく年間通して真夏日が続く地。

 そのため、今は東は夏、西は冬であるため、中間地点も暑すぎず、寒すぎずの気温となっている。

 そしてそれがゲトたち南側領土の連中には寒いらしく、真冬着の格好をしている。

「どいつもこいつも少し肩の荷を下ろしたらどうだ?」

 エルナスからミラエラについて聞いているロッドからすれば警戒する必要のない人物なだけに、周囲から伝わる多少の警戒心を解こうとする。

「彼女の名前はミラエラ・リンカートン。知ってる奴は知ってるだろうが、氷の女王の二つ名を持つ大魔導師だ。だが、そんなことでこの場に呼んだわけじゃない。ここにいるエルナス同様、このミラエラも、実際にバベル試練の時に神からの襲撃を受けた被害者だ。そして、約一ヶ月前にオルタコアスへと仕掛けられたゴッドティアーの被害者でもある」

 その瞬間、東側、西側陣営以外の者たちが一斉にロッドへと驚愕の視線を向けた。

「フッ、いい感じにスイッチが入ったところで、会議を始めるとしよう」

 まず行ったことは、意見のすり合わせ。ユーリからの情報がしっかりと伝わっているかの確認である。

「バベルの件にしろ、オルタコアスの件にしろ、それが本格的な侵攻の合図じゃないことは確かだ。となるとだ。それじゃあ、侵攻が開始されるのはいつになるのか疑問が浮上するわけだ。まずはそれを話し合うことにしよう」

 そう言うと、ロッドは目線で隣に座るユーリへと合図を送る。

「了解です」

 ユーリは皆の視線を集めながら堂々とした態度で立ち上がる。

「結論から申しますと、俺たちは神による侵攻が開始されるのは、マルティプルマジックアカデミーで行われる魔導祭の時期であると目星を付けています」

「魔導祭か。言われてみれば確かにそうだな。俺たちゴッドスレイヤーが多く集まる一大イベントで人類を襲おうってことか」

「確かにヤムの言う通り納得もできるんだけど、腑に落ちない点もあるよね」

 すると、ゲトが何かの違和感に気がついた様子で発言を始めた。

「事前に聞いていた話から考えれば、見えてくる。僕たちの思考が敵に誘導されている可能性」

「ほぅ、そこに気がつくとは南さんも中々やりますね」

「お褒めに預かり光栄だよっ」

「え、何?どういうこと?」

 早くも会話に置いていかれるヤム。

 しかし、この場にはヤム以外にも何名かついて行けていない者たちが現れていた。

「バベル試練とオルタコアス。この二つが侵攻の合図ではなかったのだとすると、それじゃあ、何のために仕掛けられた攻撃なんだろうね?」

「そりゃあ、アレだろ。敵さんは我慢できなくなっちゃったんじゃないの?」

 ヤムの考えなしの発言に対し、隣に座るローズが額に手を置き呆れた仕草を見せる。

「バカなんですか?そんな単純な考えなわけがない」

「ああ?お前今バカって言った?言ったよね?それじゃあ、そう言うお前は分かんのかよ」

「それは・・・・・」

 口籠るローズを横目に勝ち誇ったような笑みを浮かべるヤム。

 そんなヤムを睨みつけるローズ。

「具体的なことは分からないけど、個人的な目的があったことは確かだろうね」

「ああ、俺もお前と同じ意見だぜ、ゲト。神による奇襲があったにしろ、その二回ともが狭範囲の限定的なものときた。まず間違いなく、私情が絡んでることは間違いないだろう」

 と、ここでミラエラが挙手をする。

「いいかしら?」

「もちろんさ」

 ゲトは優しげな笑みをミラエラへと向ける。

「オルタコアスの件に関しては分からないけれど、バベル試練の件には、おそらく私が関係しているわ」

「ほほう」

 ロッドは興味深そうにミラエラの顔を見る。

「これから言うことにあまり突っ込まないで欲しいとだけ言っておくわね。今から約二百年前、私は彼女、ユキ・ヒイラギと戦ったことがあるの」

「それは初耳だな」

 エルナスは、いやエルナスだけでなく、ほとんどの者たちが驚いた表情を浮かべている。

 まさか、神の遣いとかつて一戦交えているなど誰も思いもしなかっただろう。

「そうよね。多分だけど彼女は、その時の屈辱的な敗北を今も根に持っているのでしょうね。だからバベル試練の件は、いわゆる私に対する復讐ということになるわ」

「その可能性は大いにあり得る。そして、オルタコアスの件は、あの時感じた巨大な魔力が関係していそうだね」

「あのぉ〜、どんどん新しい情報が出てきて訳わからなくなって来てますんで、敵さんに思考が誘導されてる件について説明してもらえる?」

 ヤムが眉間にシワを寄せた渋い表情で発言する。

 しかしこれは怒っているとかではなく、話の内容を必死に理解しようとしてのもの。

 ゲトは先ほどの話へ切り替える。

「そうだね。それじゃあ続きだけど、この二回の襲撃。目的は異なるかもしれないけど、どちらも侵攻の前触れに過ぎないわけだよ。つまり、敵は敢えて侵攻が近々あることを僕たちに匂わせていたことにならないかな?」

「あー、そう言われりゃそうかもな」

「そして今この世界で神たちにとって最も厄介な存在は僕たちゴッドスレイヤーだ。となると、僕たちが一箇所に集中する魔導祭を侵攻の時とすること。そして、そう考えることを敵は読んでいる。というか敢えて匂わせることでそう考えるように仕向けて来たと取れるよね?」

 ここに来てようやくほとんどの者たちが話の内容を理解し、より一層室内には緊張の空気が漂う。

「神の侵攻があるからこそ僕たちは予定よりも多くのゴッドスレイヤーたちを魔導祭の会場へと集めることになる。そうなることが敵にとっては理想の状況なんだろうね」

「そんなら中止にしちゃえばいいんじゃねぇの?魔導祭」

「クック、なぁに言ってやがる?中止になんかする必要ねぇだろが。テメェの頭ん中はお花畑か?」

 すると、ここで初めて北のゴッドスレイヤーたちを取りまとめる王たる人物が口を開いた。

「さっきからお絵描きしかしてない野郎が、何でそんなに偉そうにしてんの?ガキなんですか?バカやろう」

「ヤム。お前にはお絵描きにしか見えねぇこの作業は、北側領土を維持していくためには必要で大事な作業なんだ。魔導祭を中止にしたらいいとかわけの分かんねぇことほざく余裕なんざ、こちとら一ミリたりともねぇんだよ」

 彼女の名は「センク・ストーカム」。

 極寒の地の住人であるため、部下共々南側の者たちとは対極的で、この場では真夏着の格好をしている。

 王であるセンクにいたっては、袖のないノースリーブシャツを着ているため、その大きな乳の綺麗なラインがくっきりと現れてしまっている。

 言い合いをするヤムと似たような格好をしているが、ヤムとは異なりチラチラと視線を向けられているのは、センクが女だからだろう。しかし、そんな視線など一切気にした様子を見せない堂々とした態度。流石、男顔負けの性格である。

 センクは右手に握るペンをまっすぐヤムへと向ける。

「いいか?せっかく侵攻を開始する時期が分かってんならよ、それを逆手に取って捕まえちまうのが一番だろうが。まだ魔導祭までには一カ月ある。それに、そこのミラエラとかいう魔導師が生き残ってるってことは、以前感じた巨大な魔力を宿すそいつがゴッドティアーを止めたってことにはならねぇか?」

「ええ・・・・・その通りよ」

「それなら、そいつも使って神の侵攻に対する対抗策を考えていくのが、この会議の本筋だろうが」

「そんな正論並べられたら、何も言い返せないんですけど?はぁ、どうやら俺は聞き手に回った方が良さそうだ」

 ヤムとセンクの言い合いが収まったところで、再びユーリがこの場を取り仕切る。

 まぁ、言い合いと呼ぶにはあまりにも一方的なセンクの攻撃が、ヤムのハートをぐさりぐさりと刺激していただけ。

「さて、それじゃあ、先ほど名前の上がったユキ・ヒイラギとは何者か?再度そこから話を進めていきますか」

「彼女については私から話させてもらうわね」

「これを使え」

「ええ、ありがとう」

 ユキ・ヒイラギとは一体何者か?

 エルナスはミラエラへと一枚の写真を手渡し、ミラエラはそれを会議室の中央に置かれた魔道具へとセットする。途端、宙へと三百六十度どの角度からでも同じ画像を見ることのできる映像が浮かび上がった。

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