第二幕「妖精二コル」
公園で妖精族に襲われそうになって、下水道に頭の上の妖精が逃げたおかげで全身がドブの匂いがしています。
下水道から家までの距離が遠くなく、誰ともすれ違うことなく無事に家に辿り着くことができた。
「ここが人族の家になるんだ。結構新しくて木の香りがしていい家じゃないか。」
「家の感想は後で聞いてあげるからさっさとお風呂に行くよ。私はあなたもドブの匂いがすごくして臭いから。」
「一応高貴な身分ですよ、僕は。臭いって言われたの初めてで少しへこむな。」
ニコラはぶつぶつと何か落ち込んでいるけど、臭いっていうのがあまりにも嫌なので頭からつまんで降ろしてお風呂場に向かっていく。
風呂桶にお湯を入れた中で全力で洗い流して、どこぞの妖怪のようにミニ風呂にしてあげる。
私はその後で念入りに体を何度も洗い流してドブの匂いを取り除いていてからお湯につかって満足したらニコルを回収して、晩御飯の準備をする。
「なるほどな、この箱は雷の力をうまいこと使って中にあるものを冷やしたり凍らせたりするんだな。この技術があれば色々と楽が出来るってわけか。こっちは仕組みはよくわからないけど中に入れたら温めることが出来ると。」
「家電に興味を持つのはいいけど、人間のご飯を食べても大丈夫なの?見た目は動物だから駄目なものとかあったら言ってね。」
「妖精をそこら辺の動物と一緒にしないでくれないかな。ちなみに何でも食べるので大丈夫。」
二コルは机の上に座ってご飯が出来るまでじっと待っていた。
簡単なご飯を作り机に置くとすぐさま食べ始めることになった。時間はすでに7時を回って8時になろうとしていたため、お腹がとても空いていた。
二コルもお腹が空いていたのか皿に盛られた肉を中心に次々と口に運んでいく。
「二コル、私たちはどこに逃げることになるの?森の中とかになるの?虫とか嫌だなぁ。」
「まぁ近くに森はあるけど街になるよ。この世界ではないけど。」
二コルの言葉を聞いてご飯が違うところに入ってむせてしまった。
「この世界じゃないってことは異世界ってこと?どうやっていくの?」
「それは神秘の力が満ちていそうなところで僕が持っている秘石を使うことで異世界に行くことが出来るんだ。行き先は決まっているから、行った先の知り合いに宿ぐらいは頼んでみようと思う。」
「秘石?そんなものどこに持っているの?」
「僕のアイテムボックスの中にあるんだよ。身に着けている方が奪われる可能性が高くなるからね。」
二コルは何もない空中に歪んだ空間を生み出してそこに手を突っ込むと私の拳ぐらいの大きさをしたルビー色の宝石を取り出した。女の子としてはこんな宝石を見ると少しうっとりとしてしまう。
けど、それを見ていると不思議な力があるように感じる。
ちょっとだけ二コルが秘石という宝石を指先で触ってみると、少し淡い光を放つ。
「おい、早く手を離すんだ。秘石に魔力が吸われている。」
「え?う、うん。わかった。」
急いで秘石から手を離すと光が徐々に弱くなって消える。元のルビー色の宝石になった。
「驚いたよ。もう魔力の器がしっかりと作られていたんだな。君って本当に人間なの?普通は魔力の器ってもっと時間をかけて成長されていくものなんだけどね。」
「へぇそうなんだ。魔力の器ってことは私にも魔力があるってこと?」
「そういうことだね。生物は魔力の器がなければ体内に魔力を宿すことが出来ないんだ。この世界は魔力がほとんどないから魔力の器をもった生物はいないと思うけど。」
この世界で魔法が存在しないことや使うことが出来ないのは、魔力の器をもった生物がいないからであると。魔法は本当にあるけど、器の問題で魔法が使えなかっただけだと。
「ちなみに魔法を使うにはちゃんと魔法について学ぶことも必要だし、魔力を変質させるイメージも必要だからね。この世界で今まで魔法を使えたのは1000人いたらいい方じゃないのかな。あ、このお肉美味しい。」
「なるほどね。魔法も勉強をしっかりとしないといけないのか。当たり前のことだね。それお肉っていうよりは海産物、エビだからね。」
「これがエビなのか。少しピリッとしているのがいいね。気に入ったよ。」
その後はご飯を食べ終わるまでは魔法のことを話すことはなかった。
二コルはエビチリを気に入ったのか冷凍のパッケージを眺めている。
明日からの予定を早く話したいのでさっさと洗い物を済ませて、二コルの前に座る。
「さっそくなんだけど、明日から異世界に行くでいいんだよね?」
「そうだな、なるべく早く行く方が安全だと思うからね。そのために必要なことは、神秘の力が満ちてそうな場所を探すことと、君の身支度、あとはしっかりと休息を取ることだね。」
「神秘の力が満ちてそうな場所ね。神秘ってことなら神社とかが一番イメージに近いかな。」
「神を祀っているっていうところか。そこを一番に訪れて秘石が使えるのかどうかを試してみるかな。」
この近くで神社と言えば天神山のふもとにあるところになる。神社の周りは木で囲まれていて、かなり昔からあるとのことで神秘性を感じることが出来る場所だ。
「了解。あとは、身支度をする必要があるよね。二コルはどうする?リビングにいる?テレビとか見てる?」
「テレビ?ああ、箱に絵を映し出す映像技術だっけ?」
「箱って昔のテレビじゃん。今のテレビはあれだよ。ほら。」
リモコンでテレビの電源をつけてあげると二コルは驚いていた。
「今のテレビはこんな薄くなっているし映像が綺麗だ。僕はテレビを見ているから準備をしてきな。」
二コルは目を輝かせながらテレビに釘付けとなった。
その姿は友達の愛犬のようで少しおかしくて思わず笑ってしまうが、全然気が付かれない。
もう少しその姿を見て見たかったが、さっさと準備を済ませる方がいいと思うので部屋に向かうことにした。