第一幕「夢との出会い」
世界のどこかで誰かが言った。
「超能力とか、魔法とかそんな意味のわからないものなんてあるわけないでしょ。」
だけど、奇跡・呪い・超能力など生きているとそんな超常現象が存在する、存在しないと考えたり誰かと話したことがある。
奇跡はよく耳にする言葉であり信じている人も多くいるだろう。奇跡的に助かった、この出会いは奇跡だとテレビのコメンテイターが話していたり、体験した人もいるだろう。比較的信じている人が多いと考える。
呪いは、普段生活している時には存在しないと思っているのにホラー番組を見ていると本当に存在するのではと思ってしまう。
超能力は、中二病の人がよく自分の中には特別な力が眠っていると勘違いをする。一番フィクションのものだと思って存在しないものだと考える。
超常現象は小学生の頃からないものだと気が付いて、本気で存在していると信じている人たちを冷たい目でみるようになってくる。
だけど、世界は広く心も体も成長してもそれがあると信じている人はいる。
そんな超常現象を信じ続けている一人である日本の少女はある日、日常から非日常の世界に足を踏み込むことになる。
鳥羽華15歳、中学生。幼い頃の記憶にある超常現象のようなことを目にしてから魔法を信じている少女である。
「森で妖精を見かけた少女は、森の奥へと逃げて行くのを追いかけて小さな池へとたどり着きます。そこで、妖精王と呼ばれる存在に会い、小さな妖精を育ててくれと頼まれた。少女はそれを受け入れてその妖精を両手に包んで家に帰りました。けど、妖精はわがままで横暴でした。過ごして行くうちに打ち解けていき育っていき、ある日の夢に妖精王が出てきて明日のうちに返してもらうと。次の日に泣く泣く別れの時がきて妖精王がお礼として1つだけ『魔法』を与えてくれた。その魔法とは何か?ていう話なの。」
「いやいやいや長すぎ!華、もう少し短くならないの?」
呆れた顔をしながら話しているのは隣の席の穂村 楓。一年生からクラスが一緒で今では親友です。
「短くならないよ。話が長くなるぐらいその話が好きなの。妖精、魔法といか言った異能なことが日常にあったら、私死んでもいいぐらいな気持ちになりそう。」
楓はそんな私の発言を聞くといつも通り少し引いた顔をする。自分の理想がかなったらいいなというあくまでも妄想の話であるのに。
「いつものことだけど華の魔法に対する思いはすごいね。今話していたその漫画って10年前か20年前のものだったけ。」
「うん、そうだよ。お父さんの部屋をこっそり探索してたら見つけたの。まだ1巻の途中までしか読めていないから帰ってから続きを読むんだ。魔法が出てくる話だってネットで書いていたから楽しみだな。」
「相変わらず華は魔法が好きなんだね。」
楓はいきなり後ろから抱き着いてきて頭を掻きまわしてくる。
おかげで髪はぐしゃぐしゃになってしまったけど、悪い気持ちにはならない。
「鳥羽、穂村。まだ残っていたのか。そろそろ最終下校だから帰りなさい。」
「げ、ゴリ先生。部活の指導はどうしたんですか?」
突如声をかけてきたのは学年主任の近藤先生。国語の先生であるのに保健体育の先生より筋肉がついていて見た目も少しゴリラに似ていることからゴリ先生と生徒から呼ばれている。
体がごつくて顔をいかついので初対面の人からしたら怖いという印象だけど、
「それなら終わったぞ。あと穂村、ゴリ先生と次に言ったらお前には特別課題をプレゼントするからな。」
「ごめんて、許してね近藤先生。」
楓は体の目の前で手を合わせて謝罪のポーズを笑顔で取った。同性の私から見ても彼女はかなり可愛いので大抵の男の人はこれで鼻の下を伸ばして何でも許してしまう。
『魅了』のスキル持ちの能力者なのかなと疑ってしまうことがよくある。
「先生の名前はあだ名で呼ばないようにしろ。そんなことよりさっさと家に帰れ。」
しかし、ゴリ先生は鼻の下を伸ばすことなくちゃんと先生の仕事をしているのでスキルとかの超常現象ではなく、楓の魅力に抗えなかった人がいるだけだった。
「わかりました~。それじゃあ帰ろうか、華。」
「そうだね。近藤先生またね。」
「おう、鳥羽、穂村、気を付けて帰れよ。」
楓とは帰り道は途中まで同じであるので長期休暇は何をするのか、今日の晩御飯は何なのかといったことを話しながら話して帰った。
家から最寄りの公園のところで楓とは別れた。
「明日からは長期休暇の夏休み。中学生最後だから何か有意義に過ごしたいよね。魔法の痕跡探しの旅行に出かけるのはありかも。」
明日からは夏休みであり、やりたいことをしたり、高校受験のための勉強をしたりするなど人それぞれの過ごし方になる。
私は魔法についての調査や痕跡探しに費やすつもりでいた。夏休みの間は親は仕事の関係で海外にいるのでこっそり旅行に行くことが出来る。
「さてと、楓は明日から家族旅行だし。今日は電話の相手がいないな。」
そう思いながら家に帰ろうとすると、何かざわざわとしたものを感じる。
感じた方向を見てみると公園がある。いつも通りに遊具があり、この時間で人がいないのが珍しいぐらいで何もおかしな点はない。
「何かを感じるのは間違いないね。もしかして、この感覚は魔法に繋がるものかも。行くしかないね。」
公園は普段よることはないので、少しワクワクする。
敷地内に入る瞬間に薄い膜を指を入れてすり抜けるような感覚を全身で感じた。なんとも不思議な感覚は思うよりも今視界に入ったことにかき消された。
「さっき見た光景と全然違う。いたるところが壊れてて変な生き物がいる。」
公園に設置されている遊具はいたるところが壊れており、地面はでこぼこにえぐれている個所がある。
さらに、自分よりも小さな体をしていて、人型や動物の格好をして空中で静止している不思議な生き物がこちらを驚いた顔で見ている。
「おい!なんで人族がこのエリアに入ってきているんだ。結界をちゃんと張っているんだろうな。」
「それはしっかりとこの世界の人族が立ち入らない結界を張りましたし機能もしてます。恐らく勘の鋭いのか、何も考えていない馬鹿な女だと。」
まさか、公園に入っただけで馬鹿にされてしまった。自分の女性としての魅力はないのだろうとは思っているけど正面切って言われると傷つく。
「まぁいい。あんな人族の小娘を相手にしている状況ではない。そこの小僧の持っている魔石の回収が優先じゃ。あれの回収だけで莫大な金がもらえるんじゃ。」
「私は無視されるってことなのかな?ていうか、空飛んでしゃべっているのって魔法?」
空中で静止して喋る動物は地球上には存在しない。やっぱり魔法なのかな。
そう思っていると他の生物達に狙われていた一匹の小さな生物が近づいてきた。何かをようやく見つけたと言わんばかりの顔?でおでこに突撃してきた。
四足歩行の見たことのない動物の姿をしているので表情が読み取りづらい。
「やっぱり、君は魔法に適性があるようだ。他にも何かあるようだけど今は適性があるだけで十分だ。」
「いきなりおでこにぶつかってきて痛いじゃん。女の子にケガさせる気?」
小さな生物はいきなりぶつかってきたことを謝ることなく人の体をポンポンと叩きながらぶつぶつとつぶやいている。ある程度触ったら満足したのか頭を抱きかかえるように乗っかっている気がした。
「僕の運命はここまでかと思ったけど幸運だ。ここを乗り切るための手段が見つかった。」
頭を叩かれるとそこから暖かいものが流れ込んで全身を巡っていく。暖かい滝に突然打たれたような想像と同時に頭を叩かれたことで血が流れたのではとも思った。
「ちょっと人の頭に乗ってきたと思ったら何をしたの。」
「何をしたって僕の魔力を君に譲渡しただけだよ。だから暴れないで、魔法の構築が難しくなる。」
『魔法の構築』って言葉を聞いて思考が停止しそうになる。
けど、少し離れてたところにいる他の小さな生物達から怖い視線を感じ始めるので、恐る恐る見てみると
「あのガキ、妖精族の秘術をあんな小娘を触媒にして使うつもりだ。お前らさっさと妨害しろ。」
「少し遅いよ。お嬢さん両手を前に突き出して、早く!」
頭上の生物は頭を叩いて催促しているので言われたとおりに両手を前に突き出すと、手が光を放ち始める。現代の科学の力で通りすがりの人手をまぶしいほどの光らせる技術はないはず。
「お嬢さん目を閉じて!閃光魔法『フラッシュ』」
「やっぱり魔法だ!魔法は本当に存在したんだ!」
小さい頃から夢を見て、周りからは冷たい目や酷いことを言われたこともあって傷ついたこともあったけど、探し求め続けたことは間違いはなかった。
私が追い求めた魔法を発見するだけじゃなくて自分自身で使っているんだ。
「くそ!閃光魔法なんて品のねぇやつ使いやがって。このまま逃げれると思うなよ!」
「さて、ここからは逃げさせてもらうからね。それじゃ。」
突如、身体が浮くような浮遊感を感じるとすぐさま地球の重力を感じた。
言われたとおりに目を瞑ったけどそろそろ開けても大丈夫なのかな?
「お嬢さん、目はもう開けてもいいんだよ。ごめんね、こちらの都合に巻き込んでしまって。」
「え、ええと。それはいいのだけど、君は一体何者なのかな?」
魔法については心臓の音がうるさくなるほど聞きたくなっているが、少し押さえつけて聞きたいことがあるのでそちらを優先する。
「そうだね。人間から言われている種族名は妖精族。魔力が高く、種族特性上、空を飛ぶことが出来る代わりに体は大きくない。そんな種族の中で魔力が多くてちょっと身分が高いのが僕、二コラ。身分が高いことで権力争いで命を狙われていてね、人の世界に逃げてきて追い込まれたところに君が現れたんだ。」
「、、、長いよ説明。もう少し短くならない?」
二コラという妖精は固まっている。
おかしなことを言ったつもりはないのだけどどうしたのだろうか?
「ええと、つまりは僕は命を狙われて追われている身なんだ。その逃走劇に君を巻き込んでしまったんだ。」
「なるほど、君の逃亡の手助けをした私は君に似た生物達に狙われることになるのか。」
「そういうことになるね。だけど、しばらく身を隠していればまた日常に戻れることになるはず。僕の都合に巻き込んでしまってすまない。」
私は妖精族の問題に巻き込まれてしばらく隠れないと日常に戻れないという。
それなら、彼?に巻き込んでもらった代償を払ってもらわないいけないということになる。
「明日から1か月近くの夏休みだからそれまでは隠れることが出来る。だけど、巻き込んだ代償は支払ってもらうよ。」
「今の僕に出来ることならなんでもするよ。約束する。」
「そう、それなら私が魔法を使えるようにして!魔法の適正があるって言ってたでしょ。」
「それなら問題はないけどいいの?僕が身分が高いって聞いたら権力とかお金とかを要求するものじゃないの?」
二コラは私が要求することに対しておかしいと思っているようだけど、お金や権力よりも優先するものが魔法についてだ。魔法を無償で教えてくれる生物がいるのなら有効活用しない手はない。
「この世界で魔法は存在しない認識なの。普通に生きているだけでは見ることすら敵わないけど、今目の前に魔法を使えるようにしてくれる存在がいるのならお金や権力よりそっちが優先なの。」
「わかった、わかったよ。とりあえず、ここから立ち去ろうか。」
顔を近づけてどうしても魔法が使えるようになりたいと伝えることに成功したようで、首を何度も縦に強く振っている。
「そういえばここってどこなの?今更なんだけど匂いがひどいけど。」
「僕が知っているところに似ているけど、恐らく下水道じゃないかな?妖精族はこういう汚い場所には絶対に近づこうとはしないからね。あれ?なんでそんなに怖い顔をしているのかな。」
この妖精は女の子がこういう場所に連れてこられた時の気持ちがわかっていないようだ。
下水道と聞いて辺りを見るといろいろと汚いものがあちらこちらに散乱しており、どぶの匂いが鼻の奥まで伝わってきているだけじゃなくて、身体に染みついているのではないのか?という感覚に襲われる。
「二コラは女の子の気持ちがわからないって誰かに言われたことがない?絶対にあるでしょ。」
「あるけど、よく意味がわからなくていつも怒られたよ。」
「、、、、。もういいから早く私の家に帰ろう。早くシャワーをしたい。」
夢にまで見た魔法を目撃して、自分で使ったわけではないけど魔法を使うことが出来、魔法を教えてくれる生物?まで見つけることが出来た。気分は過去最高なのだけど、下水道から出た体からはドブの匂いでまみれている。
夢を追い求めた代償なのでは?と思ったが絶対に神のいたずらで笑いものにされているだけだと納得して、複雑な気分で帰路についた。
「シャワーだけでこの匂い取れるかな、、、。」