自問自答・・・
ゆうきが注文してくれた料理が少しづつ運ばれてくる。
「居酒屋あたみ」・・・居酒屋?らしいんだけど、特有のガヤガヤ感はなくて、
落ち着いた雰囲気の、どっちかって言うと料亭に近い感じのお店で、
料理もお洒落に盛り付けされたものが運ばれてきた。
刺身の盛り合わせをはじめ・・焼き鳥のちらしネギ餡・・サラダのキュウリも扇子の様な細工がされて・・
大人になった気分♪(もう既に立派な大人なんだけど)
「──ゆきも食べなよー!見てるだけじゃお腹いっぱいになんないっしょ?w」
ゆうきがサラダを取り分けながら、小皿を私の席にコトンっと置いてくれた。
(手慣れてるなぁ・・・)
料理の多さと華やかさに目を奪われすぎて、きっとマヌケな顔してたんだろうなぁ。ハァ・・
自分が子供っぽく見えてちょっと恥ずかしくなってきた・・・。
「─ん、あ・・そうだね!食べよ食べよ~」
取り分けてくれたサラダを食べながら、ゆうきがテキパキと小皿に取り分けていく姿を見ていた。
「─ゆうき気配り凄いよね~・・」
心の声が出ちゃった!!!
「──え?気配り?私なんかしたっけ?w」
え・・・分かってないでこれまでの仕草が自然に出来てたって事?!
「─いやいや、横で見てて凄い女子力だよ?」
「──??」
ほんとに分かってないでやってたんだ・・・。なおさら凄いよ。
「─いや、ほらさ。運ばれてきた料理を小皿に分けてくれたり?細かい気配りって言うか・・」
「──??これって女子力なの?w」
「─多分・・・?」
確かに、小皿に取り分けたりテーブル周りをキチンとするのが女子力か?って言われたら、
普通な事な様な気もする・・・。
あ~、そういう事か。分かりました。えぇ。きっと私がズボラなのかもですね。
「──ん~。だとしたら、職業病ってヤツかもだね~wあはははっ」
あー、そう言われれば、今キャバ嬢やってるって言ってたもんなぁ。
そもそも今日逢う話になったのも、その相談で逢う事になったんだよね。
「─なるほどね~。座ってお喋りするだけじゃないんだね~。」
「──ゆき!!それ他の嬢の前とかで絶対言っちゃいけないワードだからね!!」
「─え・・・」
さっきまでニコニコしながら料理を堪能してる楽しそうな顔が一気に曇った。
ヤバ・・・マズイ事言ったかも・・。
「──そもそも、そんな楽な仕事じゃないし。色々事情があってこの仕事してる子の方が多いし。
周りにはそういう風に見えるかも知れないけど、そんな単純なもんじゃないから。」
「─ごめん・・・。」
さっきまでのホンワカ空気が一瞬にしてピリっとした冷たい空気に変わった。
「──いや、ごめんね。私もちょっと言い過ぎた!!w」
真面目な顔からフワッと優しい目に変わってく。
「──いやさ~、お客さんとかにも良く言われるんだよねぇー。毎回笑ってかわしてるけどさ~。」
「─あぁ・・そういう嫌な事言われて我慢するのも仕事なのかぁ・・・ほんとにごめんね・・」
何も事情が分からない事だったとは言え、楽な仕事だって決めつけてしまってた。
「──いや、もう大丈夫だからw 飲も飲もーーー!!」
「──かんぱーい!」
ゆうきが差し出したグラスに自分のグラスを軽く当てた。
再び料理を楽しみながら、ゆうきに聞いてみた。
「─そういえば、ゆうき何か悩んでるって言ってたけど、大丈夫なの?」
「──あ~・・・。私どこまで話たっけ?ww」
絶対酔って電話してきたパターンやん。
「─何か、お客さんを好きになったがどうの・・・」
「──わああああ!!!それ言っちゃったかー!!!」
え、何?!私またヤバイ事言った!?
「──あはは・・まぁ・・・うん・・・そうなんだよね。。」
あれ?さっきまでのキャピキャピしてたゆきちゃんはどこへ・・・Wats?
「─私からしたら好きな人が出来るの事がうらやましいけどな~」
仕事と家の往復。職場には男性は居るけど堅苦しい上司の方たちばかり。
たまに同期と飲みに行くけど、シフトが中々合わないし・・・。
飲み会や合コンなんてものもほとんど行かない。(誰か誘ってくれえええ!!)
「──ゆき~?キャバ嬢は恋愛とか出会いを探すとこじゃないからね?」
「─う・・・うん。軽率でした。すみません」
今日の私ヤラカシまくりだ!
「─んでも、そのお客さんを好きになっちゃったんでしょ?」
「──わああああああ!!そうなんだよおおおお!!!」
「─分かった!分かったから、とりあず落ち着いてw」
再び持ってたグラスを重ねて乾杯をする。
「──ふぅ~。ここの升酒やっぱウマァァァ♪」
「─落ち着いた?」
「──ん~。どうにか?」
「─そんなにヤバイの?キャバ嬢がお客さんの事を好きになったら」
落ち着いたゆうきに再び地雷を設置してみる。
「──うわああああん・・!!」
「─ハイハイ。もうそのおたけびは良いからw で、どうなの?」
「──非常にマズイ!」
「─へぇ・・・そんなもんなんだ?」
「──相手のスペックをお伝えしよう。28歳・会社員・・・妻子持ち・・・奥方現在2人目妊娠中」
「─・・・・。ダメじゃん!お客さんとかそういうの以前にダメなヤツじゃん!!」
「──いやいや、続きあるから聞いてww」
「─あ・・・続きあるのねw」
「──奥方妊娠中なのですが!実は誰の子供か分からい実情のため、DNA鑑定によっては離婚」
「─なにそれ?ゆうき昼ドラ好きだっけ?」
「──いや、昼ドラの時間は寝てるから見てないw」
「─えー・・っと。色々突っ込みどころが多くて情報大渋滞してるよ?」
「──まぁ、それはそう。私も少しづつ現状を知っていったから整理できたけど、一気に言われたら分かんなくなっちゃうよね。」
「─奥さん妊娠中なんだよね?」
「──そう。」
「─で、DNA鑑定って事は・・?」
「──そう。誰の子か分かんないの」
「─つまり、うわk・・・」
「──のんのんのん。浮気ではなく、不倫ですね。」
ウザッ。
「─あ~。なるほどね~。でもさ?証拠とかあるって事?」
「──ないよ?」
「─ごめん、全然意味が分かんない。」
「──あははははっ!!だよね?w─証拠も、ナニモないのよ!」
「─無謀なのか頭が悪いのか・・・」
「──まぁ~賢い方ではないかな~wそうじゃなくてーナニも!!NANIMO!!ないの」
「─?だから、何も証拠がないんでしょ?」
「──察しが悪いなーゆきー!子供が出来る様な事もしてないのよ!」
「─???シてない・・?で、子供が出来るの?」
あああああ!!!お酒が回ってきたかな・・ゆうきの言ってる事が理解できない!!
「──そう。シてないの!だからDNA鑑定に出すのよ。」
「─え、してないんだったら、DNA鑑定に出すまでもないんじゃない?真っ黒じゃん」
「──それがね、奥方はシたって言ってるんだって。酔って覚えてないだけでしょ。って」
「─昼ドラの話・・・とかじゃないn」
「──しこついwどんだけ昼ドラ好きなんw」
「─まぁまぁ好きかも。人のドロドロは蜜の味だよね♪」
「──”人の不幸は蜜の味”ね。」
「─似たようなもんだよーwんでんで、覚えてないだけだったの?」
「──いや、お酒を飲んで記憶が飛ぶって事がそんなにあるわけじゃないんだって。」
「─たまたま飲みすぎた~とかは?」
「──確かに深酒しちゃうと記憶飛ぶ時はあるみたいだけど、仕事が忙しいのもあってそんなに飲んでないんだって言ってた。」
「─ん~・・何か難しい問題だねぇ。」
「──お客さんを好きになるって事自体良く思われないのにさぁ。妻子持ちの問題ありってえぐすぎ」
「─口で言うだけだったら簡単だもんねぇ。産まれてからどうなるか・・・って感じかぁ」
「──そうなんだけど・・・。待ってる時間って思った以上にキツい!」
「─二人目って出産予定日とかは聞いてるの?」
「──予定日は今月って言うのだけは聞いた・・・。」
「─今月!?今日もう24日だよ?!」
─10月24日 PM10:38 居酒屋個室で私の声が鳴り響く。
「──そう。だから余計に落ち着かないんだってー・・」
今にも泣いちゃいそうなゆうきを見て、恋してるんだなって少しうらやましかった。
「─連絡待ちかぁ。」
「──・・・そう。落ち着いたらお店にも来るだろうけど・・・もしこのまま来なくなっちゃったらとか、連絡も来ないで居なくなっちゃったら・・とか考えたら・・・割としんどい。アハハ・・」
笑いにならない笑顔をつくってお酒を飲み干すゆうき。
やっぱり色んな事を経験してきてるからなのか大人っぽく見えるや。
─その後はお店が閉店する深夜2時まで昔話をしたりして楽しい時間を過ごした。
さすがに飲みすぎたかな~。
お酒は弱い方ではないけど、少しフワフワしちゃってる。
ゆうきも流石にお酒が回ってるのか、足元がおぼつかなくなってる。
「─終電逃しちゃったね。この後どうしようかー」
「──ちょっと飲みすぎたかな~♪まだまだイケるけど~♪」
「─いやぁ~・・・ゆうきお酒強すぎw」
「──え~?♪ゆきだってお酒強いじゃん~♪普通みんなもう潰れてるよ~あはははっ♪」
上機嫌に見えるけど、これは空元気なのかも知れない・・・
そんな事を考えてると、終電の時間に気づいては居たけど放って帰る事が出来なかった。
どこに行こう~とか全く考えてなく、ただ二人で笑いながら喋って歩いてた。
途中にコンビニに寄って、ピザまんとコーヒーを買って近くの公園のベンチに座って、
色々話ながら酔いを冷ましてた。
もうそろそろ11月と言う事もあって、さすがに肌寒く、すぐに酔いは冷めたけどね!
「──ゆきさぁ~・・」
ぼ~っとした時間が過ぎてく中、ボソっとゆうきが呟いた。
「─ん~?」
「──・・・ゆきさぁ~・・・」
「─(何で2回呼んだ?w) どした~??」
「──ゆきさぁ~今の仕事って何でやってるの?」
まだ酔ってるのか・・・?
「─なんでって・・・そりゃ生活のため?」
「──生活出来れば何でもいいの?」
「─何でもってわけじゃないけど・・・。」
そんなこと考えた事もなかった。なんで今の仕事をやり続けているのかなんて。
働く事が当たり前で、就職が決まってからは、仕事のスタイルに不満がないわけでも、
楽しく働いてるでもなく、ただただ至極当たり前の様な日常の一部になってた。
「──けど・・・?」
お酒でただでさえ回ってない頭に追い打ちをかけるかのように、
ゆうきが聞いてくる。
なんでこんなに考える必要があるんだろう・・・。
「─・・・けど・・・。」
「─・・・」
言葉に詰まる。
「─ん~・・・。難しい事はよく分かんないけど。」
「─今の仕事に満足してるか?とか、ずっと続けていくつもりなのかって言われたら、
満足してるわけではない。けど、このまま当たり前の様に続けていくんだろうな。って感じかな。」
心の中にモヤモヤした何かが生まれた。
自分で言っておいて、本当にこのままでいいのかな。
そんな考えがぐるぐる回る。
かと言って、辞めて何かをしたいという夢や目標はない。
じゃあ生きていくためには続けていくしかないんじゃない・・・?
自問自答が繰り返される。
「──ゆきさぁ~×〇※▽・・・?」
いや、でも今の仕事を続けていく意味はあるのかな・・・
安月給だし、シフト制のせいで生活リズムめちゃくちゃだし、
サービス残業なんてあたりm
「──ゆき?」
「─・・・!!あっ!え?ごめん何??」
ゆうきに呼ばれて心の中での葛藤から呼び戻される。
「──だから、ゆきさぁ~。一緒の店で働いてみない?って。」
「─・・・?」
「─・・・??えっ!?」
思考停止。思考停止。タダチニ情報ノ修復ヲイタシマス。
ゆうきの仕事→キャバ嬢→さっき私が甘い言葉を吐いて怒られた
→夜の街→キラキラした街→煌びやかなドレス→華やかな毎日?→また怒られる?
ダメだ。想像がつかな過ぎて無理だ・・・。
「──ゆき、ぼーっとし過ぎw」
「─いや、だってさ?え?一緒の仕事ってさ、ゆうきと一緒のってこと?よね?」
「──そう。」
「─あ、あれか。夜とは別に何かかけもちしてるとか・・・?」
「──NO.」
「─ノー。・・・え?じゃあキャバ・・・?」
「──Yes.」
「─いやいやいやいや、何いってますのんお嬢さんw」
「──いやwwゆきこそ、どこの方言を使ってんのよwwお嬢さんてwww」
「─いや、あれよ?煌びやかな洋服とかもないし。お化粧とかも分からないし。」
「──洋服は、最初は店で用意してくれるから大丈夫。化粧は何とかなる!」
「─なんとかって・・・。」
「──百聞は一見に如かず!行くかー!」
・・・?!?!
「─え?!行くか!?どこにーーー!?」
「──店。」
「─いやあああああああ!!!そんな急には決められないって!!!」
「──www」
「──冗談w最初は体験入店からになるから!で、ゆき、今度いつ休み?」
「─次は・・・明日休みでその次日勤に入って・・・次夜勤で・・・次夕勤・・・で、休み?」
「──って事は、もう日が変わってるから三日後の夕勤後だと、今日くらいの時間に終わる?」
「─何もなければ、もう少し早い時間に終わると思うけど・・・何もなければ。」
「──聞けば聞くほど大変な仕事だねw」
「──OK!じゃぁ~三日後に、今日待ち合わせしたカフェに集合!!」
「─え・・・、あ、うん。わかった。」
やるとも、やらないとも決める前から、ポンポン話が進んでしまって、
勢いで返事しちゃった。
始発が出る時間まで散々喋った後、それぞれの電車に乗って帰った。
家に着いてからシャワーに入る気力もなく、そのまま寝ちゃって起きたら夕方前になってた。
あ~・・・せっかくの休みが後数時間で終わってしまうー!
休みまでの時間って長く感じるのに、休みの日の時間って本当にアッと言う間だよね。
お風呂でも入ってサッパリするか~。
お風呂に入りながら、昨日?今朝?ゆうきと話た内容を思い返す。
三日後かぁ。
興味はある。
体験って言ってたし。無理そうなら断ればいいし。
社会勉強がてらに行ってみるかー。
冷静になった頭で、適切な判断が出来たと思う。
ゆうきは怒っていたけど、想像している夜の世界は、キラキラで笑顔がキレイで、
緊張もするけど、少しワクワクしている。