一喜一憂
ゆうきからの久し振りの電話で急遽逢う事になったのに…
仕事の同僚達とカラオケに行ったり、飲みに行ったりする事はたまにあったけど、
ホテルのフロント勤務なのもあり、土日祝日、さらには時間も関係なく、
ローテーションで休みも不規則な事もあって、皆で集まれると言う事が少ないんだよね。
気が付けば1人…また1人と、彼氏彼女が出来て行って、いつの間にか取り残されていた。
休みの日は、ひたすら家で動画を見てたり、スマホゲームをしたりして、
まったり過ごすことが多かったので、久し振りの友人と逢うのにドキドキしてた。
就職してからコミュ障になってしまったのかも知れない…。
今日は早出なので、PM3:00で仕事終わりの予定。
待ち合わせがPM5:00なので、少しゆっくりとブラブラしながら行くつもりだったのに…。
「──小夏さん。今日3階の会議室で会議入ってるからお茶出しお願いします。」
先輩から向けられた言葉にヒヤリとする。
「─会議何時入りですか?」
いや、待てよ…これ嫌な予感しかしないんだけど…。
「──14時からだから~…。ん~そうだなぁ。13時にはテーブルセットで…」
14時…残業にはならなさそう…?
「─はい。そしたら13時セット入ってお茶出ししておきます。」
「──あ~14時開始だから、13時セットで14時お茶出し、15時にお茶請け出したらあがって~」
えぇ…凄い微妙な時間!…って言ってもやるしかないんだけど…。
「─分かりました。」
…ああぁぁーっ!!久し振りのこのワクワク感が一気に崖っぷちにぃぃぃ!!
はぁ。一つ大きい溜息をついて、フロントの引継ぎ作業を再び開始。
何が何でも時間に間に合わせてやる!!
─12時50分
そそくさとテーブルセットの支度をしに3階会議室へ向かう。
「─8名様か…。」
手馴れた段取りで支度を20分で済ませ、今度はお茶出しの準備に取り掛かる。
14時前には、もう数名のお客様が席に座っており、先にお茶を出して行く。
─15時
お茶請けはどうしようか悩んだ結果、簡単にお出し出来て、尚且つ食べやすい…
一つずつ梱包されたお花モチーフの抹茶バームクーヘンにした。
小皿に2つずつ並べ配って行く。
全員にお茶請けを配り、更にお水とお茶の減りを確認し、継ぎ足して行く。
よっし!業務完了!!!
急いで更衣室で着替えを済ませて、早歩きで職場を後にする。
時計を見ると、15時50分が過ぎようとしていた。
ここから電車で乗り換え込で1時間…。
…間に合うかな。少し不安だったのもあって、先に友人に「少し遅れるかも」の連絡だけしておいた。
あぁ~…。何でこうタイミング悪く会議入っちゃうかなぁ~。
だいたい前持って予約が入っている事が多いのだが、時たまこの様に急遽入る時もある…。
明日は休みだし…今日は飲むぞっ!
謎のやる気を入れて待ち合わせ場所に向かう。
─17時13分
やっと待ち合わせのカフェに辿り着けたー!
分かりやすい窓側に座ってくれていたお陰で、外から友人の姿が確認出来ていたので、
足早に駆け寄る。
「─ごめん!!遅くなっちゃった。」
息を整えながら、謝る。
「──あははっ!そんなに息荒くして急がなくても大丈夫だったのに~w」
スマホを弄っていた手を止めて、パっと顔を上げて笑ってくれた…。
学生時代あまり絡みはなかったから知らなかったけど…いい人!!
「─せっかく誘ってくれたのに、ほんとごめん!ここ私奢るね!」
「──いいよー!私結構早く着いちゃったから、何か色々食べちゃったしw」
(皿がたくさん…)
「─ううん~。誘ってくれて嬉しかったから、出させて~!私もお腹空いたし軽く何か食べようかな~」
「──ああああっ!待って待って!」
「─ん?」
メニューを開く私の手を軽く抑えてきた。
「──実はさ…この後にお店予約してるんだよね~」
「─えっ!?何時…?!え!予約?時間大丈夫?ほんっと遅れてごめん!!」
「──いやいや、時間は19時からにしてるから大丈夫なんだけど…そこでゆっくりご飯にしない?」
チラッと皿の山に目が行く…。
(これ結構食べてるよね…。これが痩せの大食いってやつなのか。)
「─うん、分かった!そうしよう~」
「──今から向かったら丁度いい時間だし、行きますかぁ~!」
伝票を取ろうとした横から、ささっと抜かれて持って行かれた。
「─あっ!」
「──いいって。大丈夫だから~!その代わり今日はとことん付き合ってもらうよっ!」
「─おけおけ!お安い御用だよ♪」
カフェを後にして、少し歩いた通りに飲み屋街があった。
まだ19時前だと言うのに、仕事帰りのサラリーマン風の軍団(軍団?)や、
客引きの人まで出て賑わい始めていた。
予約のお店に着くまでに、居酒屋の割引クーポンをもらったり、
カラオケの呼び込みに道を塞がれたり。(ナンパはされなかったな。。)
思えばこんな通りを歩く事がこれまでなかったな…。
色んなライトがキラキラしてて、良く行くチェーン店のカラオケ屋さんですら違った店に見える。
「──人まだ少ないから歩きやすくていいね~。」
「─えっ?!これ、少ない方なの!?」
「──えーっ!全然少ないよー!」
「─えぇ…。そうなんだ…。」
ゆうきが立ち止まって一件のお店…?を指さした。
「──ここっ、ここ~!」
指の先を見ると、地下に続く階段と古びた扉しか見えない。
キラキラしたお店を想像してただけに、こんな派手な通りに、古びた…いや、古風なお店。
「──何してんの?行くよ~」
ぽかんとして階段の前で立ちすくんでる私に声をかけてきたので、我を取り戻した。
「─あ、う…うん!」
─ガチャ
ドアノブ、回すやつ!?ええぇ…大丈夫なのこのお店…。
不安いっぱいでお店の中に入ってみる。
…っ!
ちんまりとした階段とドアしかないお店なのに、中は凄いたくさんの人で溢れかえっていた。
「──ここねぇ、予約取るの大変なんだよ~。今日平日だったからまだ空いてて良かった~!」
「─へぇ~、そんな人気なお店だったんだ。」
「──知る人しか知らない、"隠れ家"ってやつだね♪芸能人さんとかも御用達って噂だよ~」
「─へぇぇぇ~…」
古びたとか言ってごめんなさい。
カウンターで予約の件を伝えると、奥の席に通された。
奥は、隠れ家is隠れ家!個室になっていて、席毎に扉で仕切られていた。
「──ふぅ~。やっとゆっくり出来る~♪とりあえず生でいい?」
「─あ、う、うん。」
ゆっくり出来る…?確かに部屋区切られてて2人だけど、何か落ち着かない!
「──何か適当にツマミ頼んじゃうけど、いい?」
「─はっ…!う、うん。任せるよー」
動揺しまくりで、どもった返事しか出来ない私を見て、ゆうきが笑った。
「──何きょどってんのwww大丈夫だから、ここのお店ちゃんと料理も美味しいから♪」
「─いやいや、料理の心配とかじゃなくて…。」
こういう雰囲気になれてるゆうきが少し大人っぽく色っぽく見えた。