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「は? どろ……なんだそれは」

「だから、どろどろのぐっちょんぐっちょんなんだって。蒼井に憑いてるやつが」


 いかにも面倒といった態度で先ほどと同じセリフを言った椎楽に、月彦は驚いたような顔をした。


「神なんじゃなかったのか」

「だから? まさか、神だからってキミに目をつけるようなやつが清らかな存在なんかであるわけないだろ。キミのそういうナチュラルに傲慢なとこ、あたしはわりと好きだけどさ……あ、もしかして、自殺趣味でもあったりする? それならあたしはもう助けないけど。あいにく、こっちだって『神殺し』なんて大事を慈善事業なんてやってられるほどの余裕はないんだよね」

「べらべらと勝手なことを言うな。そんなもの、無いに決まっているだろう」

「……だよねー、よかった。で、その祠ってどこ?」

「また唐突な。今から行くのか? もう17時だぞ」


 月彦は足下に置いていたカバンを持ち上げながら眉間にしわを寄せ、右腕にある腕時計を指でカツカツと椎楽に見せつけるようにして叩いた。椎楽のことを露骨に馬鹿にしているような素振りだった。


「下校中に見つけたってことは近いんでしょ? 帰りに寄ってけばいいじゃん」

「違う。私の門限は17時だ」

「ああ……そうだったっけ、忘れてた。蒼井んち、放任のわりに門限が早いってめんどくさいよねぇ、ホント」

「無視してもいいが……少しでも過ぎればどうせあいつがあの人に言うだろうから面倒だ。帰る」

「あいつって言わないの、お世話になってる家政婦さんじゃん。……それにしたって、お父さんじゃなくて、他の人の過保護の門限か。それで死んだら元も子もないのに、よくやるよねぇ」

「は? 死ぬ?」

「あ」

「おい」

「今のなし! 聞かなかったことにして!」

「おい、聞いてないぞ! 別れ際といいさっきといい、もしかして今の私が死ぬか生きるかの瀬戸際だなんて言わないだろうな!」

「も〜〜〜! そうだよ、こうなったら言わせてもらうけど、キミは今生きるか死ぬかの瀬戸際にいるの! ……ていうか毎回そうじゃん、今更慌てることなくない?」

「おまえが過保護で私が死ぬだなんて不穏なことを言うからだろう!」

「過保護で死ぬとは言ってないし、結果的に門限が原因でって言っただけだよ!」

「同じことだろう!」

「違うってば! ……はぁ、無駄に疲れた。あのね、蒼井が死にかけなのは本当。棺桶に片足突っ込んでるようなもん。だからできれば今日中に対処することが望ましいのに、門限で明日に持ち越しにするのか〜ってちょっとムシャクシャしただけ」

「私はその“ちょっとムシャクシャしただけ”で死ぬだなんて脅されたのか」

「いや、だから死にかけなのは本当だって。それが今すぐってわけじゃないだけで」

「……わかった。行くぞ、こっちだ」

「はあ?!」

「さっさとしろ。こうして押し問答をしている時間がもったいない」

「あ〜〜もう、このわがまま坊ちゃんは……! はぁ、で、どっち? キミ、足そんなに速くないんだからあたしが抱えて行ってあげようか」

「ふざけるな、そんなこと頼むわけないだろう! ……正門から出て左手の、森に繋がる辺りだ」

「えっ……な〜んであおたんはそんな分かりやすくめんどくさいところに自分から近づくかなぁ!? ていうか思ってたよりめちゃくちゃ近いんだけど。そんなに門限を気にするほどじゃなくない?」

「おまえ、ふつう『神殺し』が30分以下で終わるなんて考えるわけないだろう」

「……? 終わるよ。終わらせる。それが役割だもん」

「それはおまえが『ふつう』じゃないからだ、まったく……、おい、おかしくないか?」

「なに? あたし普段こっち来ないからなんかおかしくてもわからないよ」

「祠に辿り着かない。一昨日は森に入るギリギリにあったはずだ」

「繋がるどころじゃなくて森に入ってるじゃんか! ……あ〜これ、引きずりこまれたね。はやいな〜、早速じゃん」


 二人の目の前に広がる道は果てしなく続き、逃れようにも右手に森があるだけだった。見上げれば空は夕方というよりも夜に近い、深い青と紫、赤のグラデーションを織り成している。黄昏時だった。

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