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◆放課後


「……寒凪」

「おっ、来たね! 生きてたようで何より」

「だから……はぁ、毎回別れ際に不穏なことを言うのはやめろと言っているだろう。面倒くさい」

「めちゃくちゃ過保護だもんね、キミの周りの人間って。……でもまあ、仕方ないよ。キミがそんなんじゃあ、心配してもし足りないだろうね。他にも同じような人はいるけど、周囲の過保護具合で言えばキミはまだマシな方だろうし」


 蒼井月彦はアヤカシモノにとても好かれる。好かれると言っても、親愛だとか恋愛だとか生易しいものではなく、食欲に直結するような好かれ方だ。誰しもが垂涎ものなステーキといったようなご馳走というほうが正しい。

 そのくせ、鈍いのかなんなのか狙われていることに事態が最終段階に至るまで本人は気付かないし、気付けない。結果的に命からがら危機から脱することがほとんどだ。五体満足で今日まで生きてこれたのはほぼ奇跡と言ってよかった。


「うるさい、用事があるならさっさと言え。……いや、『生きてたようで何より』だって? まさか、また何か私に憑いているのか」

「うーん……」

「おい、濁すな。こっちを見ろ」

「そうだねぇ……うーん、キミ、最近なにか普段しないような変なことしなかった?」

「普段しない? そうだな……ああ、そういえば一昨日下校中に朽ちた祠を見つけたからそれを掃除したな」

「え〜……? あおたんが学外でそんなことするなんて意外〜。ていうか絶対それでしょ、それ」

「ふん、すぐ後ろに知った顔がいたからな。優等生アピールとしてはちょうど良かった。それに、私に何かあってもお前がどうにかするだろう」

「あおたんの傲慢! あたしに会うまでどうやって生きてたのか不思議なくらいなのによくやるねぇ。それにしても……祠かぁ」

「なんだ」

「いやあ……祠ってことはさ、神様じゃん?」

「そうだな。それが?」

「だから……蒼井に憑いてるそれ、神様だったんだな〜って。道理でなんか強そうなオーラがビンビンなわけだ。……どろどろのぐっちょんぐっちょんだけど」



 寒凪椎楽の目に映る蒼井月彦という男は、いつだって血濡れだ。薄く、月彦の顔かたちがはっきりと見えるような時もあれば、全身真っ赤で目ばかりが違う色をしている時もある。

 そこまでなら、「関係ないから」と椎楽も無視を決め込めた。見るからに厄介事を抱えているが、関わらなければ無視できる程度のものだ。ちらっと見た澄ましたその横顔は整っていて、日常的に女子に騒がれているだろうということは簡単に予想できた。ただでさえ椎楽は誤解されやすい。"事情"によって転校してきた椎楽にとって、初日から悪目立ちは避けたかった。

 だけど、無理だった。蒼井月彦はアヤカシモノにとってのご馳走に等しい。美味しそう。一目見ただけで椎楽がそう感じてしまう、それが一番ダメだった。

 椎楽は見た目からチャラいだとかギャルであるなどと思われがちだが、根は真面目であり、それなりにお人好しであった。


 寒凪椎楽は人間だ。もちろん、うまれたときから、ずっと。

 しかし厳密なところ、寒凪の一族は人ではない。限りなく人に近しいし、もともとのところは人だ。ただ、寒凪の祖先と言うべきひとが神と結婚したというのだから、薄まってはいるものの、完全な人ではなかった。

 寒凪の一族は神殺しの異名を戴いている祖先──巫女と結婚した神が、妻の喪失に耐えかねて子か、それまた妻本人かは定かではないが、とにかく一族の者に殺させたという、ただそれだけの話だ。それだけの話だった。

 もちろんそうは思わない輩がいるからこそ、現代において神殺しなどと仰々しく呼ばれるのだが。


 そういう意味では、今回の憑き物退治は寒凪椎楽に相性が良かった。なんたって、相手はおそらく零落しているとはいえ神である。

 強い言葉や多くの人に貼られたレッテルは言霊にも、時として事実に変わることすらある。すなわち、逆説的な事象によって、寒凪椎楽は『神殺し』であった。


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