孤独な彼女とありったけの恋をする
十二月二四日。
「日方ー! 早く早く―!」
俺達は東京に訪れていた。
「……迷子になるなよ。探すの私なんだからな」
「ネエネ、ごめんね。なんか監督役任せちゃって」
「シンが気に病む事はないよ。別にシンが選んだ訳じゃなくて、私が掛け合ったんだし」
蟲毒の解呪から、俺達は当然の如く町を追われる事となった。追う人間なんていないという揚げ足取りはともかく、あれ以上死人の町に住む事は出来ない。だが遠くに親族が居る訳でもない二人は、放り出されれば身の着のまま一寸先も見えない人生を歩む事になる。
それを助けてくれたのがネエネと、ディースだ。蟲毒の解呪という功績を理由に、組織に掛け合って避難先を用意してくれた。
『いやあ、君のお姉ちゃんは再会してからブラコンが爆発してるのか、上の人を非世界に拉致してまで説得するんだから困ったよ。弟を助けないなら非世界の総力を挙げてこの組織を潰すとかいいだじゃじゃじゃじゃじゃじゃ!』
『余計な事は、言うな』
とまあそんな感じで、俺と澪雨は無事に脱出。今やネットでしかあの町の情報を知る事はないが、神話の崩壊した町はあらゆる界隈の恰好の的。とにもかくにも噂が立つようになって、警察による一帯のシャットアウトはちょっとした事件として報道もされた。
『組織』的に不都合が生じているかと思いきや、警察と話し合って決めた落とし所だそうだ。曰く『あれだけ死者を出しておいてカバーストーリーを作るのは難しい』との事。それを作って、違和感を炙り出されるよりはありのままをただ遮断した方がいいらしい。俺にはその辺りが、良く分からない。
修学旅行先のホテルも、内部の人間が全滅しているが、これは世間的には無関係と判断された様だ。ただ、シンクロニシティを感じて、世界終焉の第一歩だとか騒ぐ陰謀論者が増えたとか増えてないとか。
澪雨に追いついて、エレベーターに乗り込む。ネエネも普段はすり抜けるが、人目が多い今だけはきちんと物理に従っていた。
「私、ここに来るの初めて! どんな景色なんだろう、ワクワクするねッ」
「こういう子は、人気が多いと委縮すると思ってたよ」
「巫女様だったし、人気だけは慣れてるんだと思う」
あれから四か月と少し。
失う物ばかりだったが、得るものは確かにあった。俺は澪雨と恋人になって、澪雨は巫女の役目から解放されるとともに世間を知り、そして―――
「うわー! いい眺め!」
東京タワーに来ていた。
スカイツリーの方に行かないのは、澪雨の注文だ。単に高い所が好きかどうかというよりも、興味を惹いた。理由は特にないらしい。何じゃそりゃと言いたいが、要望は要望だ。俺も初めての都会に舞い上がっていたし、ネエネは監督役という名前を持ってるだけで特に制限はかけてこない。
ならば行くだろうと。
澪雨は窓に近づいて、眼下に並ぶビル群を見て嬉しそうだ。キラキラと目を輝かせて、あちこち走り回っている。
「いや、走るなよ」
「だってだって! こんなの見た事ない! 凄い! 都会ってこういう所なんだ!」
巫女の教育は異常だった。アイツがこっそり矯正してくれていたとはいえ、それにも限度がある。産まれたのが人混みに慣れているだけの世間知らずだ。子供じゃないんだから走るなと言いたくても、成熟を止められていたのだからまだ子供だ。
「わわ、何これ。足元が硝子張りになってる……!」
「おお、怖いな。そんな訳ないんだけど、割れたらッて思うと背筋が寒い」
景色の奥で動く豆粒は通過する人の往来。たまたま同じ場所に来ていた子供が足踏みするのに倣って彼女も足踏みしていた。巫女時代、恐らくそれは許されなかった。無駄を省いた教育は、情緒のゆとりに厳しかったのかもしれない。
「日方、写真撮ろ写真ッ! 思い出作り!」
「はいはい。好きなポーズをどうぞ、お嬢様」
仕方なし、という雰囲気を出す。
恋人、とは言ったものの、どちらかが告白した訳ではなかった。
以前にそういう約束をしたと言ったらそれまでだが、そうでなければなし崩しだ。何となくそう思って、それっぽく振舞っている。しない理由は色々あるのだが、それよりも今は彼女を楽しませる方が優先だろうと思った。
「ネエネさん、撮影お願いします!」
「私、そういう名前じゃないんだけど」
「本当の名前なんかないって言ったじゃんネエネ」
「……言ったけどさ」
余談だがネエネは身を置く場所が場所なので写真には写りたくないらしい。撮ったのは一回、俺とのツーショットだけ。しかもその在処は首に掛けたロケットに収められている。
腰に手を回して、ピース。澪雨は奥ゆかしくも俺に合わせてピースをしてくれた。したかったのかもしれない。撮影された写真を見て、ニコニコ笑っていた。
「一切ブレてない! また綺麗な思い出が出来ちゃったッ」
「もう少し見て回るか?」
「ううん、次は買い物に行きたいっ! 時間は有限だものね」
寿命の話、ではない。
そもそも俺達は、もうすぐ日本から離れる事になる。
約束通りというか、ディースの手配で世界旅行のチケットを手に入れたのだ。それはお手製で、料金は『お土産話』と彼は言った。本来『組織』の人間たる二人とは、保護されないならいずれ関係を絶つ事になっていたのだが、弟と切り離されるなら仕事に従事しないと反発して原則を破壊。
力関係は、ネエネ圧倒的有利で決着していた。首輪を置いているだけで、その気になればいつでもという具合だ。ただし、旅行中、ネエネもディースも同行はしない。火種が無ければ近くにも居ない。
二人きりの世界旅行。協力してくれるのは金銭面だけ。
これはその、前夜祭みたいな物だ。好きなだけ散財していいという事で、澪雨と二人して遠慮なしに歩き回っている。
「日方は何食べたい?」
「うーん。無難にトッピング増し増しのバニラアイスかな」
「無難…………? シン、それは無難じゃないよ」
アイスクリーム屋に出会ったので、流れで注文した。今か今かと既に待ちくたびれそうな彼女を掴んで、席に座る。アイスが完成するまでの、ほんの待ち時間。ネエネが独り言のように呟いた。
「出発の日はこっちで調整が利くんだから焦らなくてもいいさ。好きなだけこの国を楽しむといい。シンも行きたい場所やしたい事があったら行ってね。お姉ちゃん、なるべく叶えるから」
「ありがとネエネ♪ この季節だし、スキーとか興味あるかも。澪雨はどうだ? スキー興味あるか?」
学校や地域にも因るとはいえ、あの町にスキーの概念はなさそうだ。外に出るにしても、それなら夜更かしをする一年前の何処かでスキーの話題は耳にしていた筈。蟲毒の事情を考慮するなら校外学習さえ行うべきではない、まして巫女が参加などと。
帰ってきた答えは、俺の予想に反して単純だった。
「スキー好きー!」
多分。返答の意味とかは考えていないという意味で。
「アイス食べる前に凍えるぞ」
「………………え。ひょっとして馬鹿にしてる?」
「うん」
机の下で繋いでいた手を、思い切りつねられた。幾らアイツでも、巫女様の壊滅的なギャグセンスまでは矯正出来なかったかと文句を零す。凍えるかどうかという話をしたら季節は冬だが、ここは暖かいので無問題。
そうこうしている内にアイスが運ばれてきて、途端に笑顔になる澪雨。解放された顔所の笑顔は純朴で、見る度俺の胸を高鳴らせた。だから食べ歩きをしているのか、というツッコミは厳禁だ。
図星なので。
「日方、あーん!」
「……恥ずかしいな、ちょっと」
言いつつ口を開けて、澪雨の一口を歓迎する。冬にアイスを食べる背徳感には得も知れぬ中毒性があった。嚥下すると、今度は自分の分を俺に渡して、何も言わずに見つめている。これでも彼氏ですので、言いたい事は伝わった。
「……―あーん」
「ッ! あーん♪ …………おいひー♡ 甘くて、冷たくて、もーさいこー! ふふふふ! きっと、貴方が食べさせてくれるから美味しいんだよね!」
「へえ。じゃあ俺もさっきのが美味しかったのは、お前が食べさせてくれたからかな……」
「………………そ、そうなの。かな」
「…………バカップル」
ネエネの呟きは、澪雨には意味のない言葉に聞こえたようだ。その表情には嫉妬も嫌悪も感じられない、むしろそれとは逆の―――安堵の表情が見え隠れしていた。
「日方のも食べさせてくれる?」
「いいぞ。何処から食べたい?」
「上のチョコレートから食べたいな……あ、でも。日方も食べたい?」
「食べたかったらもう一個頼む。今はお前が食べてる顔が見たい。ほらどうぞ」
「――――――! や、やだ。なんか恥ずかしい…………」
白いダウンジャケットをもこもこ動かしながら澪雨が途端にもじもじと恥ずかしがる。凄く今更だと思うが、情緒が歪んでいても彼女だって年頃の女の子だ。浮かれた気分から我に返って、恥に赤面する事はある。
知ったようなそぶりくらいは許してもらいたい。俺だって先程から顔が赤くて熱くて、今は夏かと勘違いしているくらいだ。
「食べないなら普通に食べるぞ」
「ま、待って! 食べる、食べるから!」
「ん」
小さな口にアイスを運んで、中身が消えたのを見て手を引っ込める。直後、澪雨が両手で力一杯俺を抱きしめたかと思うと。
「え、ちょ。澪雨―――!」
「んー! んー!」
「…………私が一番恥ずかしいんだけどね。何してんだか」
口移しのキスに、ネエネは今度こそ呆れた溜め息を吐いた。
或いは、巫女の反動か。
ゲームを禁止されたがばかりに自立した途端、取り返しのつかないくらいのめり込んでしまうように、彼女もまたのめり込んでしまったのかもしれない。普通の生活、普通の日常、恋人との、普通の行為。
いや、口移しはどうだろう。やるのだろうか。里々子とはした記憶が無かった。
「はぁ~。こんな所で待たせるなんてネエネも酷いなあ。何処か入ればいいのに、何でこんな駐車場の隅っこなんか」
「寒くなってきたね」
せっかくボウリングで遊んで暑くなったと思ったのに、日が落ちてからの冷え込みは想像を絶していた。いつぞやの神社には及ばないが、上位を知っているから下位は大した事がないという理屈は暴論だ。澪雨のマフラーを半分借りても、寒い物は寒い。
「…………ちょっと待ってろ。温まる物買ってくる」
コンビニでも良かったが、物珍しかったので立ち寄りたかった。流石にこういうのは、お目にかかった事がない。実在するとも思わなかった。
「すみません。肉まん二つ」
今どき屋台なんて、と思うかもしれないが、屋台だったからこそ俺は興味を引かれた。もしもそこにやる理由が必要ならそれで十分ではないか。物珍しさは強力な武器だ。値段は少々張ったが、ネエネが居なくても手持ちのお金で何とかなるくらいだった。
「ほい、これ食べようぜ」
「肉まんだ……食べた事ない。なんか熱そう」
「実際熱いから気をつけて持てよ」
忠告をしたくらいではどうにもならず、澪雨は早速お手玉を始めた。このまま道路に落とされても困るので掠め取り、自分の分を半分に割って、息で冷ましてから渡す。マジマジとそれを見つめてから被りつく彼女を見て、俺はその場に腰を下ろした。
―――全部、嘘みたいだ。
あの日の事も、今までの夜更かしも。全ては夢か幻だったのではないか。駆られる思いは望郷。一年も経っていないのに、あれはまるで遠い昔の事だったのではないかと思い始めている。俺に生を願ったアイツも、最後は笑顔で別れたアイツも、まだしっかりと思いだせるのに。
「はふはふ…………あつぅい」
「まだ冷ますか?」
首だけで応対され、そうかと言って自分の分に目を向ける。残る半分に被りつくと、確かに想定よりは熱かった。流れで残る一つも半分こして、今度はゆっくりと食べ進める。ふと、俺が離れていた事を思い出したのか、澪雨がマフラーを掛けてくれた。身を寄せ合って、肩を触れさせて。『用事を思い出した』と言って姿を消したネエネの帰りを待っている最中。
電話が掛かって来た。
相手は、ディース。
『もしもし?』
『やあやあ。東京観光は楽しんでる? そうかそれは良かったね』
『何も言ってないぞ』
『世間話をしに来た訳じゃないが、話のきっかけは欲しい。そういう事ってあるよね。本題に入ろう。三人の状態について』
隣で澪雨が首を傾げている。三人というのはサクモ、壱夏、晴の事だ。あの町に生まれれば多少の差はあれど澪雨を信仰する。当然、影響が出ない道理はなかった。
『直後は昏睡状態になっていたが、左雲君と鮫島ちゃんは回復した。莱古ちゃんは何をされたか知らないが、殆ど障害もなく眠っていただけだ。強いて言えば記憶の欠落があったくらいかな』
『欠落?』
『君と外で遊んで以降の記憶が全くないらしい。ま、あんまり蟲毒周りを知ってる人が多いとちょっと面倒だから手間が省けたよ……検査入院が終わって、退院した。他の高校に入れる予定だけど、あの町の出身だってバレたら面倒だからなー。そこはまだ協議中』
『……なら良かった。良い結果を期待してる』
晴とはもう会えなくなる―――なんて事はないが、暫くは無理だ。世界旅行は日帰りで終わらない。ディースかネエネが居ればその内会う事もある。約束を守れなかったし、時間を作れたら今度はUFO探しをしようか。
『で、近況報告は嬉しいけど、話はそれで終わりか?』
『いや、面白い事が分かったんだ。君が僕に人形の事で電話してきただろ。後々立ち入って調べたら……なんと、紅無さまは完全に成仏した。きっかけがあればこの町は普通の町として再生していくだろうが、もうその時、怪異を収めてくれる存在は居ない。や、厳しいねここは。蟲毒が無いと住みにくくて仕方ない』
『いいじゃないか。あの人も散々苦しんだんだ。もう……いいだろ。ていうかそんな事俺に言われても、これくらいしか言えないぞ』
『話はお終いまで聞けよ。実はあの人形だが……名前まで何処かに消えてしまってね。何処にも名前が刻まれていない。不思議な事だが、存在証明を奪われてしまったみたいだ』
『まあ、お姫様に名前を返したんだから当然じゃないか?』
『返したっていうか、あれは元々お姫様に名前が無くて、姿を真似していたのが紅無さまと書かれた人形だったって流れだよ。ただ、お陰様であの人形は空っぽだ。それだけじゃなくて―――なんとびっくり、あの人形は。自動人形だ。しかも動力が見えない』
―――ん?
妙な言い方に、引っかかった。
自動人形とは機械やカラクリで動く人形だ。動力が何かと言われたら運動エネルギー……形を成してるなら、内部の機構その物か。
『見えない?』
『簡単に言えば魂だね。魂で動く人形なんて初めて見たよ。こっちはシークレットだから詳しくは語らないけど……明らかに未来の技術で作られてる。適当だけど、二〇年は固いね』
『……それって、つまり。あれか。ほぼ人間って事か?』
『人間が魂で動くと思ってるなら、また随分宗教的な世界だな。血液か、もしくは心臓か。そういう物理的な器官が要らないという意味なら人間以上だ。人形っぽいのは製作者の趣味かな……ああそうだ』
これは前置きと言わんばかりに、ディースはまるで脈絡もなく俺に話を振って来た。
『そろそろ巫女ちゃんとせっせした?』
『ぶっ』
隣で会話を半端に拾う澪雨には分からないだろうが、俺には十分すぎる。こんな時間に何を尋ねるかと思えば、とてつもなく下世話な質問だった。
『してないですよ! する訳ないでしょ! 澪雨が三か月も眠ってたの知ってて言ってますか!?』
そして俺は一か月近く眠っていたらしい。
起きてから、彼女が目覚めるまで泊まり込みで様子を見ていた。手を握っていた二か月は生きた心地がしない。あんな事があって死ぬのはナシだ。俺も彼女も託された側で、きっとそれを無碍にしたら、後で祟られる。
『急に敬語になった。恋人になったんならもうしてるかと思ったよ。あんなに頼りになったのに』
『それはアンタが拗らせてる。する訳ないだろ常識的に考えて!』
『じゃあキスは?』
『それは………………まあ。寝る前とか』
そうそう。目覚めてからの澪雨は少し変わったというか―――本来の姿なのかもしれないが。眠くなると、甘えたがりになる。目覚めてからは寝食を共にしているが、キスを求められなかった日は一度としてない。無自覚ではないだろうが、恋人仕草としてアイツにでも教わったのだろう。馬鹿な事を教えるのに定評がある奴だ。
でも甘えん坊の澪雨が可愛すぎて、つい乗っかってしまう俺にも問題がありそうだ。とろんとした目で無防備に四つん這いで近寄ってきて、「一緒に寝よ」なんて言われた日には。もう。
『いや、人のプライベートに立ち入るのはナンセンスだ。変な事聞くな!』
『―――や、悪いね。これでも寂しがってるんだよ。今はこうして連絡取ってるけど、暫くしたらそれも出来なくなる。あ、君のお姉ちゃんは例外としてね。僕は色々苦労する立場だから。せめてこういう話でも聞かないと安心出来ないなと思って―――ああ、そう言えば今日はクリスマス・イブか』
『サンタさんへのお願い事なんか書いてないですけどね。あ、ネエネってばケーキでも買いに行ったのかな』
ふっ、と。笑い声が漏れる。
『そうだね。だったら僕からも少し早いけどプレゼントを贈ろうかな。最初で最後のプレゼント……のつもりだ。来年があってもこれより凄いのはちょっと難しい』
『期待させますね。何ですか?』
ザッ。
目の前に、フードを被った謎の人物が立っていた。ネエネより背は低く、害意も感じない。
『お、もう届いたか。早いな』
『…………え? この人ですか?』
『本当にせっかちだな君は。せっかちっぽいから進展を聞いたのに、今度は奥手と来た。あのね、これでも感謝してるんだよ。殲滅って色々お金が掛かるからさ。功労者たる君には、これくらいしてやらないと。なんてったって僕は霊媒師。僕にしか出来ないプレゼントだ』
謎の人物がフードを取ると、闇夜で梳いた黒髪と、血の混ざったような暗い紅の瞳。
『メリークリスマス、二人共。いつか本当に関係なくなっちゃっても。幸せを祈ってる。不幸の坩堝に居たんだから、せめてこれからは、ありったけの幸福を』
電話が切れると、澪雨と紅無さまが見つめ合っている事に気が付いた。ネエネはまだ帰ってこない。いや、帰ってくる事はないのかもしれない。少なくともこの瞬間が過ぎるまでは。
「く、紅無さま。何の……用ですか?」
何の用?
それはわざわざ口に出さなくても。
たった、一言で。
「――――――――暫く、無断で暇を取ったらこれとか。心配させるのもいい加減にしてよ、澪雨」