第1章 第7話 秘密
「お願いしますこのことは黙っててください!」
時雨の部屋で俺は土下座していた。その理由は光に俺と時雨の関係がバレたから。絶対にバレてはいけないこの関係が。
「くふふ。さーて、どうしましょうかねー」
そんな俺の姿を見下ろしながらベッドの上で脚を組む光。屈辱。屈辱でしかないが、この際そんなことは言っていられない。
「あの……チラシめちゃくちゃ急ぐんで……。隣の部屋に撮影部屋あるし、中学生の頃の時雨の服ならサイズ合うと思うから徹夜で明日までには完成させますから……」
「それは最低限ですよねー? 徹夜はしなくていいですけどー、SNSフォロワー少なくて困ってるんですよねー。動画もあんまり伸びてませんしー、アドバイスとかくれたらうれしいんだけどなー」
「はい……できる限り協力させていただきます……」
大丈夫……多少協力しようが根本的に時雨のスペックには敵わないはず。むしろこれで俺と時雨の関係を秘密にしてもらえるなら安いもの……。
「別に話してもいいよ?」
だがそこで口を挟んだのは俺の隣でクッションに座っている時雨。
「私と水星が幼馴染なのは事実。でもだからどうしたの? 異性とはいえ家族ぐるみの付き合いがある家が隣同士の仲良し。それを知られたところで困ることなんてないよ」
運がいい……! 時雨の対外モードが続いてる……! こうなった時の時雨は……あれ? なんか違う……。
「だから水星は渡さない。水星は私だけのものなんだから」
なんか光のことすごい睨んでる……。こんな時雨今まで見たことない……俺が今まで時雨以外の女子と絡んだことがなかったからか? だったらまずい……時雨の行動が予測できない……!
「時雨……その辺で……」
「なんなら今すぐクラスラインに私と水星のラブラブ写真をアップしてやるんだから! これで秘密も何もないでしょ!」
「時雨ストップストップ! 本当に終わる!」
嘘だろ……こうなると時雨の独占欲が暴走するのか……! こうなると本格的に光を排除しなくてはならなくなる。
「あの……わたしが言うのもなんですけど……別にこのくらいバレてもよくないですか……? むしろ友だちのいない黒魚先輩にも優しいってアピールポイントになるじゃないですか」
時雨の暴走っぷりに良心が痛んだのだろう。光がそう言うが、話はそんな小さなスケールでは終わらないのだ。
「俺と時雨の夢にはその程度のメリットなんてカスでしかない。男との関係があるという事実の方が重すぎる」
「夢……ってなんですか? 人気女優になるとか?」
「……世界一の、アイドル」
俺の答えを聞いた光がポカンと口を開ける。そうだろう。土下座までするほどに真剣な奴が掲げる夢ではない。それでもだ。
「時雨は世界一のアイドルになるし、俺は時雨を世界一のアイドルにする。それが子どもの頃からの2人の夢で約束だ。だから俺の存在はバレるわけにはいかないんだよ」
アイドルとは偶像だ。神仏を象った、人々にとっての理想。その隣に俺のような人間がいてはならない。たかだか学校のミスコンなんかで躓いてはいられない。だから俺たちはこんな人生を送っているんだ。
「……まぁ何はともあれストーカー紛いのことまでして時雨先輩を守ろうとした気持ちはわかりました。しかも付き合ってるんじゃ気になってしょうがないですよね」
「え? 私と水星は付き合ってないよ?」
「……は?」
……そろそろ光も気がつくだろうか。時雨の幼児性に。
「付き合ってないって……どういうことですか?」
「だってアイドルは彼氏なんて作っちゃダメでしょ?」
「でも……ハグとかキスはしてるんですよね?」
「そりゃするよー。すいせーと抱き合ってると落ち着くし、すいせーとちゅーしてるといっぱい幸せになるんだもん!」
光が困ったような顔をして俺に顔を向けてくる。それに俺は黙って頷くしかない。時雨とは、こういう人間なんだ。
「だからすいせーは誰にも渡さないんだから!」
「はい……わかりました。じゃあちょっとだけ……時雨先輩がいいよって言うくらいだけ借りますね?」
「んん……それならよし! ちょっとだけ……ちょっとだけなんだからね?」
ちょっと光が言葉を変えただけであっさりと認めてしまった時雨。どっちにしろ口封じはしなければいけないんだ。時雨が許可をくれただけよかったと思おう。
「じゃあとりあえずチラシのデザインをやってもらいます……いいですか?」
「んーいいよー。隣の部屋自由に使っていいからー……」
「時雨、もう眠い?」
「んー……ママとパパにだけ挨拶しておいてー……」
光をベッドから下ろし、時雨の制服を脱がしていく。とりあえずブラウスだけ羽織らせてベッドの中に入れ、制服をハンガーにかけていく。
「あの……時雨先輩のご両親はいつ頃お帰りになりますか?」
「いやいいよ。どうせ風呂入らせたりしなきゃいけないから明日の朝俺から伝えておく」
今が夜の7時だから……たぶん2時くらいには一度目が覚めるな。どうせ徹夜になるんだし今日は時雨の家にいるか。
「じゃあチラシの撮影するか。……言っとくけどほんとに黙っててくれよ。俺と時雨の関係は」
「はい……ていうかさっきの冗談なんで……ちょっとアドバイスほしいだけですから……」
「いや、悪いけど信用できない。でもそれは光が悪いんじゃなくて、俺の問題だ。変に手抜きして後で反故にされるくらいなら、全身全霊で協力して黙らせる。これが俺のやり方だ」
「そう言うんでしたら……遠慮なく手伝ってもらいますけど……」
光が言葉を慎重に選んでいる。でも言いたいことはわかっている。
「あれが時雨の素だよ。ちょっと年齢より子どもっぽい。これも隠してくれると助かる」
「ちょっと……ですかね?」
言いたいことは、本当にわかっている。でもこれ以上話すつもりはない。俺は黙って撮影の準備を始めた。
500pt突破感謝です! 本日は1話しか更新できませんが、とりあえず大事な回です。
次回から第1章後半戦。新ヒロインが登場しますが、ちょっと光ちゃんが話運ぶのに便利すぎて時雨ちゃんがあまり目立てていないので、もっとラブラブさせていきたいと思っています。あくまでメインヒロインは時雨ちゃんのつもりなので。
そして何より主人公の成り上がりストーリーも物語の主軸になっていくのでお楽しみに!
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