第1章 第6話 情報
「きゃぁっ!? 先輩なに急に服脱ぎだしたんですか!? わたしそういうのは好きな人とじゃないと……」
「お前を危険な目には遭わせないって言っただろ」
しかも脱いだと言ってもジャケットとネクタイだけ。後は普通の制服だ。
「制服なんて学校もバイトも会社だって基本ワイシャツにパンツ。まぁ細かな違いはあるだろうが、カラオケボックスなんて暗い空間じゃどれも一緒だ」
そして俺は眼鏡を外し、髪をかき上げる。本当なら多少メイクもしたかったが、あまり時間がない。やはりカラオケの暗さに期待するとしよう。
「先輩……それ店員さんのコスプレですか……?」
「コスプレってほどじゃない。変装だよ。中々印象変わるだろ?」
「中々っていうか……普通に……アリです……」
容姿なんて所詮はこの程度。眼鏡を外して髪型を変えただけで印象は一変する。だからこそ本当に容姿がいい人間には価値があるそれは努力や工夫では決して手の届かない、本物の才能だからだ。
「じゃあ行ってく痛いっ!?」
「あ、普通に目は悪いんですね……」
ソファにつまずいた俺を光がツッコんだが、気にせず用意しておいたメロンソーダを手に個室を出る。行き先はもちろん時雨がいる隣の部屋だ。
「失礼しまーす」
普段と声音を変え、ドアを叩いてから中に入る。うーん、見えない……。辛うじてわかるのは人数くらい。男女だって判別つかないぞ……。
「すいせ……あ!」
だがそんな中で一際輝くのは時雨の姿。いや、これは完全に声のおかげだけど。ということはそのやたら近くに座っているのがイーダーか……。顔が見えなくてよかった。実際に見てしまったらとても店員のままごとなんてしていられないから。
「メロンソーダご注文のお客様はどなたですか?」
「え? うちらドリンクバーなんですけど……」
「そうでしたか失礼しました」
そんなことは知っている。これは個室に入る大義名分。目的はただ一つ。
「あれ? もしかしてイーダーさんじゃないですか!?」
顔も見えない俺たちの敵をぶちのめす。それだけだ。
「え? あぁそうスけど……」
「うわぁ俺ファンなんですよ! 会えて光栄だなぁ!」
俺の役目は時雨の夢を叶えること。そして時雨との約束を守ること。その二つのためなら何だってやってやる。
「イーダー。本名飯田圭介。児玉高校3年3組で、SNSのフォロワーは13万1421人。主に流行のネタを投稿し、自分と同年代の学生とのコラボで人気を集めている。それで得た知名度と情報網を駆使して知り合った女性と遊ぶことが趣味で、去年の9月に女性と寝ている画像がネットに流れ、一昨年の9月には妊娠させた女性に金を握らせて黙らせた。いや、金を握らせたのはそれだけじゃない。目当てだが自分になびかない女性には飲み物に睡眠剤を盛り、揉めないよう金を渡して黙らせている。現在は大学受験を言い分にして活動を減らしているが、その実態は遊ぶ時間を増やしているだけ。いや本当に尊敬してるんですようらやましい。どうせ今日も睡眠剤盛ったんでしょ? 俺も常盤時雨さんと遊ばせてくれませんか」
情報とは力だ。だから時雨には飲み物は飲むなと伝えてあるし、接触は控えろと念押ししておいた。だから今のところは被害はないはずだ。
そう。本当に情報は力なのだ。だからこそ俺と時雨の関係は誰にも明かせない。俺みたいな陰キャとの関りがばれたらそれだけで時雨のブランドが落ちる。時雨が幸せになるのに、俺みたいな存在は邪魔なんだ。
「喧嘩売ってんのかてめぇ」
「買うかはそっちの自由だよ」
蹴ってこい殴ってこい。時雨を守るためならどんな痛みでも受け入れてやる。
「……チッ」
だが結局イーダーが手を出してくることはなく、一度テーブルを蹴って荷物を持って立ち上がる。そしてぼんやりとした人影が俺へと迫ってきた。
「どけよ!」
「暴行罪お買い上げありがとうございます」
「っ……!」
せめてもの抵抗で俺を突き飛ばしたイーダーにそう煽ると、彼は足早に個室を出ていった。この程度じゃ通報しても意味ないだろうし店員じゃない以上できないが、牽制にはなっただろう。ひとまず安心といったところか。
「お騒がせしました」
一度頭を下げ、俺も個室を出ようとする。手さぐりでドアノブを探していると、背中で声がした。
「ごめん時雨ちゃん! こんなことになるなんて思ってなかったの!」
「あんなことする人だって知ってたら絶対呼ばなかった……本当にごめんね!」
クラスメイトの女子たちが口々に時雨に謝罪する。それは保身のためか本心からか。それはわからないが、どちらでも時雨の対応は変わらない。
「もちろんみんなのことを疑うわけないよ! 今度は仲のいいみんなとだけでカラオケしようね!」
時雨は本心でも演技でも、そう言うに決まっているのだから。
「ふぅ……」
隣の部屋に帰り、髪を下ろして眼鏡をかける。これでいつも通り。いや、クラスメイトからの信頼を稼げた。俺はそれなりに危ない橋を渡ったが、それはどうでもいい。時雨が無事なら……。
「うぇーん! 怖かったよすいせー!」
俺についてきていたのか。個室の扉が勢いよく開かれ、一直線に時雨が抱きついてきた。
「なんかあの人触ろうとしてくるしジュース飲ませようとしてきて気持ち悪かったー! でもね! すいせーの言いつけ守って触らせなかったよ! でもでも隣座られていっぱいやな感じになっちゃったからちゅーさせて!」
ま……まずい……今は……今だけは……!
「え……時雨先輩……!?」
光に、俺と時雨の関係がばれてしまった。
ずっとタイトルのてにをは気持ち悪いなーと思っていたのでちょっと変更しました。一文字しか変わっていないので気にしないでください。そして次回、主人公と時雨ちゃんの関係が少し明らかになります。
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