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第1章 第5話 こじらせ

「ねぇ先輩、そろそろ歌っていいですか? いいですよね?」

「うるさい静かにしてろ」



 放課後俺と光の2人は、カラオケボックスの中にいた。そう、かわいい女子と2人きり。だがこれは決して浮気などではない。この隣の個室に。時雨とその他有象無象がいるのだ。



「時雨ちゃ……かわいいね……」

「ありが……ございます……」



 時雨には連絡用のスマホを俺との通話状態にしてもらっているが、他の奴らのたいして上手くもない歌声のせいであまり声が聞こえない。だが確実なのは。



「あの野郎……俺の時雨に馴れ馴れしくしやがって……!」



 有名配信者、イーダー。そいつの無駄にいい声がイヤホンを通じて俺の耳に流れ込んでくる。そう。声だけしか聞こえない。もし手を握られていたら……身体に触られていたら……。



「ああああああああっ!」

「ちょっ、先輩うるさい!」



 駄目だ……いてもたってもいられない! 今すぐにでも乗り込んで時雨を安全な場所に閉じ込めておきたい! でもそれはできない。俺の関与は時雨の評判に関わる。もう光を入れてしまっていいだろうか……クソ……ちゃんと声が聞こえてたら指示を出せるのに……!



「ていうか先輩。今さらですけど時雨先輩のストーカーですか?」



 無駄にマイクを通した一言が俺に突き刺さる。



「そういうのやめた方がいいですよ。いくら相手が女遊び激しいとは言ってもストーカーの方が危険ですし。盗聴器まで仕掛けるのやばいですって。だからやめときましょ? わたしなら構ってあげますから」

「…………」



 そうだよな。光にはそう映っているんだよな。俺と時雨の関係は誰も知らないんだから。



「女遊び激しい奴より手出さないって断言できるストーカーの方が安全だろ……」

「いや先輩こう言っちゃあれですけど……正直異常ですよ? 時雨先輩も女の子なんだしイケメンと遊ぶのうれしいんじゃないですか?」


「んなわけないだろ! 時雨のこと何も知らないのに口出すなよ!」

「うわぁ……」



 あー……駄目だ駄目だ。光に当たってどうする。別に異常者に見られたっていいだろ。俺なら。



「ごめん……ちょっと頭に血が上ってた」

「まぁ……そうですね。気をつけてください」



 もうマイクを通すこともしない。ただ純粋な犯罪者を見るような冷たい声音が俺の心を揺さぶる。思えば時雨以外の女子とこんなに話したのはひさしぶりだ。ここまで話す相手に明確に嫌われるのって……こんなに辛いのか。



「ふぅ……」



 いや本当に落ち着け。まさか時雨との関係を明かそうとしたのか? 同じミスコンで戦うライバルに? ありえない。それだけはあってはならない。



「ごめんなさ……事務所からそういうのは……」

「!?」



 わずかに声が聞こえてきた。時雨の声が。



「いいじゃん。ちょっと遊ぼ……」

「っ」



 我慢できなかった。立ち上がっていた。走っていた。だがそれを、光が制した。



「そういうのはわたしの役目でしょ? ストーカー先輩。先輩がおかしいのはしょうがないとして、時雨先輩のことを大切に思ってるのは伝わりましたから。イーダーを追っ払えばいいんですよね?」



 ああ駄目だ……違う。俺は甘えていた。このちょっとポンコツな女の子に時雨を重ねていた。



 でも違うんだ。光は時雨じゃない。時雨の敵だ。時雨と俺の夢の敵だ。俺たち2人以外、全てが敵なんだ。



 俺と時雨の関係は誰にも明かせない。明かしてはならない。ストーカーだと思われることすら失敗だと思え。



「ごめん、光は何もしなくていい。後は俺がやる」



 時雨を助けるのは、俺だ。

ブクマ100件突破ありがとうございます! ですがちょっと暗い展開が続きましたね。次回解決編で、本日も2話更新致します。主人公と時雨ちゃんの関係性についてもそろそろ明かせたらなーと思っているので、よろしければお待ちください。

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