第1章 第4話 条件
「門矢光! 門矢光をお願いします! 門矢光に清き一票を!」
「……選挙かよ」
翌日学校に行くと、校門前の敷地で門矢が馬鹿でかい旗を背負ってチラシを配っていた。だがその奇怪な姿に誰もが離れ、門矢自身も旗のせいでまともに動けていない。……まぁインパクトはあるから作戦としてはアリだよな。程度が致命的なだけで。
さて、俺も裏門から入ろう。時雨は先に行かせているとはいえ、関わっている姿を見られたらまたふてくされそうだ。第一として俺が関わりたくないし……。
「あ、先輩!」
「…………」
だが一足遅かった。俺の姿を見つけた門矢が旗に身体を持っていかれながらも俺の方に走ってきている。……さすがにこの事故誘発女を校外には出せないな。
「おはよう。じゃあな」
「待ってくださいよ! 先輩に言われた通りチラシ作り直してきたんです! 見てください!」
ドヤ顔でチラシを手渡してくる門矢。……ああそうだな。もっと写真使ったりカラフルにしろって言ったな。でもこんな自撮り感アリアリの背景も処理していない写真で溢れさせろなんて言った覚えはないぞ。しかもちょっとポーズが違うだけで全部普段の制服姿。たとえるなら画像フォルダとしか言えない。
「どうですか!? わたしのかわいい姿がたっくさん! いい感じですよね!?」
「……ああ、そうだな。すごくいいと思う」
でもこれならこれでいい。相手にならないとはいえ、門矢は時雨のライバルだ。敵が勝手に潰れてくれるのならこんなにありがたいことはない。
「でもなんかカラフル感が足りないんですよね……そうだ! 文字を虹色にしましょう!」
「……うん。良いと思う」
「あ、でも手書き感も大事なんでしたっけ? クレヨン用意しないと……」
「クレ……!? ……いや、アリだよアリアリ」
「……? なんか言いたそうですね」
「いや別に……ちょっとクレヨンは見づらいんじゃないかな……文字を虹色にしても読みづらくなるだけだし……」
「……なるほど確かにそうですね……他には何かありますか?」
「まず写真は宣材っぽい一枚か二枚で充分だし普段見れる制服からイメージ変えられる私服にして背景もグリーンバックにして光焚いて……」
……しまった。本当にポンコツ具合が時雨と似ていて口が出てしまう……。光が、目を光らせている……!
「やっぱりわたしのプロデューサーになってください! わたしのかわいさと先輩の知略! 合わされば時雨先輩にも勝てるはずです!」
「だから俺は時雨のファンだって言ってるだろ!?」
「時代は移り変わるものです! 今ならファン一号の称号を名乗れますよ!」
「いやいいよ普通に……」
本気でどうしたものか。これ以上時雨を不安な思いにさせたくないんだよな……。と考えていた時。俺の背後をクラスメイトの女子が通った。
「よかったね時雨ちゃん誘えて」
「これでイーダーくんカラオケに来てくれるんでしょ? 楽しみー!」
俺の時雨を餌に使ったと笑い合いながら。
「……おい。イーダーって、一人しかいないよな」
「え? あー人気高校生インフルエンサーのですか? なんかこの辺の高校に通ってるみたいですね」
そう……だから情報を集めていたし警戒もしていた。時雨はまだSNSとかに手を出させてはいないが、ここら辺に住んでいるならその存在は広く知られているし、よく恥知らずの配信者どもがコラボしようと連絡先を聞き出そうとしてくる。そのリストの中にいたはずだ。イーダーとかいう顔がかっこいいくらいしか取り柄のない奴が。
イケメンインフルエンサーとしてネットでは人気だが、確か女癖が悪かったはず。女と寝ている姿も画像で見たことがあるくらいには。そいつが時雨目当てで今日の放課後のカラオケに来る……。
有名人だからこそ事務所の名刺で退くだろうか。おそらくそうなるだろう。でも最悪の場合は想定しておくべきだ。門矢光というライバルとイーダー。どちらが危険か。いや、そこはどうでもいい。一番大切なのは、時雨の安全だ。
「門矢……チラシまでなら協力してもいい。ただし今日の放課後空いてればだ」
「空いてます空いてます! あ、でもデートはダメですよ? わたしはみんなのわたしなので!」
「いや、付き合ってもらう」
「え!? そ、それは……ちょっと……まだ知り合ったばっかですし……」
「そっちの意味じゃない。事情は後で話すけど、カラオケの個室に行ってもらうかもしれない。身の安全は俺がいる以上保証する」
「な……なんか危険なことするんですか……?」
「最悪するけど、するなら俺だ。お前は時雨と一緒に逃げてくれればいい」
「何だかわからないですけど……ミスコンのためなら……わかりました」
門矢と一緒にいるところを見られたら時雨に怒られるだろうか。場合によってはイーダーに多少の暴力を受けるだろう。最低限クラスの女子たちに嫌われるのは間違いない。
でも構わない。時雨のためだ。時雨の幸せのためならいくらでも泥を被ってやる。
それが俺の、時雨にしてしまったことへの償いだ。
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