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第1章 第1話 学園のアイドル

 光森高校2年B組常盤時雨(ときわしぐれ)は学園のアイドルだ。



 その名を知らない者はこの学校において存在せず、今の1年生には時雨がいるからこの学校に進学したという生徒もいるほどである。



 その容姿を一言で表すなら、女神。彼女を目撃した人間はまず長い銀髪に目を引かれ、細身ながらも出るところは出たスタイルに息を呑む。次に幼さと妖艶さが入り混じった人形のような美しすぎる顔に我を忘れ、人間性に触れて恋に落ちる。それは同性すら同様で、羨む声は当然後を絶たないが、陰口を叩く余地すらもない。あらゆる意味で完璧な美少女だ。



「ねぇ、常盤さんって気になってる男子いるの?」



 時雨と親しくなることで自身のカーストを上げようとした格をわきまえない女子が低俗な話題を持ちかける。その返事は当然こうだ。



黒魚水星(くろうおすいせい)くん……」

『以外』

「……以外の人ならみんな……かな」



 その返事に一瞬驚いた周囲の人々が同時に安堵のため息をついた。



「びっくりしたー、黒魚のこと好きなのかと思った」

「ありえないでしょ、だってあのパソコンが友だちのクソ陰キャだよ?」

「あれを好きになる女子なんていないって」



 時雨の周りを囲んでいた女子たちが口々に悪口を吐く。そしてその対象は他でもない、俺である。



 だがそんなことに一々腹を立てるほど俺も子どもじゃない。ずっとこうだったし、そう言われて当然のことをしている。常にパソコンを弄っている冴えない陰キャ眼鏡。周りからの評価はそれ以上でもそれ以下でもないだろう。ただ一人を除いては。



「水星の悪口は……」

『時雨、ステイ』


「だめ……我慢できない……」

『ちょっと外来い』



 パソコンを閉じ教室を出る。そして人気のない階段裏に佇みしばらく待つ。するとやって来た。



「すいせー、つかれたー」

「はいはい、おつかれ」



 教室での凛々しくも可憐な表情とは正反対の、よだれを垂らしそうなほどにだらけきった顔をした時雨が。



「あの人たちひどいよー、すいせーの悪口ばっか言うー」

「お前も程々に混ざってろ。そこまでひどくなければ評価が落ちることはないから」


「やだー。うそでもすいせーの悪口なんて言いたくなーい」

「はぁ……しょうがないな……」



 倒れるように抱きついてきた時雨を抱え、頭を撫でる。今は2限と3限の間……そろそろアイドルモードを保てなくなるか。



「ぇへへ……すいせーに頭なでなでされるの好きー」



 常盤時雨は学園のアイドルだ。しかしそれは偽りの姿。いや、仮面をつけた姿と言った方が近いだろう。



 本当の時雨はこれ。一人じゃ何もできない、俺の幼馴染だ。



 その自立のできなさっぷりは常軌を逸する。俺が起こしに行かなきゃ朝なんて絶対に起きられないし、2年生になるのに制服のネクタイの結び方もまだ覚えられない。学校への道順は数ヶ月前に覚えられたが、帰りはまだ2日に1回は迷ってしまう。勉強は小学生で止まり、運動も断言できるが小学生にドッジボールで勝てないだろう。料理はカップラーメンすら作れないし、シャンプーハットを着けなければ髪だって洗えない。夜は暗いのが苦手で俺と電話しながらじゃないと眠れないが、そもそも22時以降は起きていられない。



 あらゆる面でポンコツ。根本的に幼児。何一つ一人じゃできやしない。そんな時雨が学園のアイドルをやっていけているのは自惚れじゃないが、俺のおかげである。



 時雨の左耳についたワイヤレスイヤホン。これに俺がパソコンで打った文字を長し、常に指示を与える。これでようやく一人前。残りの神々しさは時雨が持つカリスマ性で補っている。が、それが保てるのも3時間が限度。それを超えるとこのポンコツモードがアイドルの仮面を突き破ってくる。だからこうしてガス抜きをしてあげなければならない。



「ねぇ……もうこんなのやだよ……。気ぃ張ってたくなーい」

「我慢しろ。俺とお前の約束のためだろ」

「そうだけどさー……」



 だがこれを辞めることはできない。俺と時雨の約束のため。俺がどれだけ周りから貶されようと、時雨の人気だけは穢すわけにはいかないんだ。



「そろそろ3限が始まる。いけるか?」

「……うん。いけるよ」



 時雨の身体を離すと、教室で見る綺麗な顔が視界に映る。そうだ。それでいい。



「よし、じゃあ先行ってろ。俺も後で行くから」

「うん……がんばってくるね」



 時雨の綺麗な後ろ姿を見送り、一度ため息をつく。時雨のプロデュースをするのも楽じゃない。たまには息抜きを……。



「あのー……」

「!?」



 しばしの休憩をしていると、目の前に女子がいた。すらりと背が高い時雨と比べなくても小さいツインテールのかわいい女子。ネクタイの色からして1年生か……そんなのはどうでもいい。さっきのが見られていたかどうかだ。



「今……見てたか?」

「え? 何のことですか?」



 よかった……見られていない。もし見られていたら多少脅してでも黙らせなければならなかった。



「じゃあ……どうしたの?」

「近く行われる文化祭のミスコンのことです……わたし、どうしても一番になりたいんです」



 その女子は俺に手を伸ばす。



「お願いです! わたしの一番のために協力してください!」



 そしてここから、俺の人生が変わるのだった。

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