第1-4 惑え負のスパイラル
自覚するということ
一歩進むということ
『行ってらっしゃい‥私のカルナ』
シンリー様の声が聞こえる。心臓の音もよく聞こえる。人間は、怒りを通り越すと一周回って冷静になるものなんだと感じた。
この生物は、生かしてはならない。この世界のためにもそして、この世界の人間のためにも‥
私は、腰に携えた刀を抜き、目の前の生物をどのように仕留めるか考えていた。
スキル隠れ蓑の効果により、相手には認識されていない今だからこそ簡単に仕留めることができる‥頭では理解しているが生きている生物を殺すとなると少しだけ気が引けた‥
だが、この生物は何人の人を殺してきたのだろうか‥罪のない何人の命を‥その気持ちだけで先程の引け目のある気持ちは吹き飛んでいった。
「相手は、3匹‥確実に仕留める」
怒りにより絞り出した声は、相手には届いていなかった‥
前方に1匹、これはある意味見張りのようなものなんだろう。後方の2匹より注意力があるみたいだ‥
取り敢えずは、後方の2匹から先に仕留めよう‥逃げられて仲間でも呼ばれたらかなわない‥
時間にしたら数秒であったが、討伐のためのプランが頭に浮かんできた、あとは実行に移すのみだ‥
タイミング見計らっていると、チャンスがきた。前方のゴブリンが後方から少し離れ、排泄をしはじめたのである。
ダンジョンに落ちている小石を一つ掴み後方のゴブリンのいる壁にめがけて投石する。勿論、何もないところからいきなり物音がしたものだから後方のゴブリンたちは慌てた様子で壁を見つめていた。
離れていたおかげで、前方のゴブリンは気がついていない。まずは、左側のゴブリンから確実に首をめがけて刀を振り切った。その勢いのまま、右のゴブリンの首も同時に落とす。
《ギ‥》
《ガ‥》
一度に2匹仕留められた。あとは‥
排泄をしているゴブリンの後ろに立った‥仕留めるのは簡単だ。なんせ相手は無抵抗なのだから。
《ガ‥》
3匹とも絶命した。
なんともあっけない‥そして同時に隠れ蓑のスキルの恐ろしさを実感した。
今回の、討伐にて隠れ蓑のスキルについてある程度の認識ができた。
一つ、隠れ蓑のスキル中は声を出したり物音を立てても相手には認識をされないこと。
二つ、スキルで隠した武器は、相手を攻撃をしていても全く相手には認識をされないこと。
それと憶測ではあるか、このスキルは、解除をしようと思えばいつでも解除することができること。
これでは、私は暗殺者にでもなった方がいいのではないか‥私はこのスキルを全うに扱えるのであろうか‥
3匹目のゴブリンを仕留めた時、そんなことを考えてしまっていた。
きっと、初めて生物を殺したことで精神が疲弊していたのであろう‥ましてや、無抵抗な相手を‥負の考えが頭を支配していたとき‥
『私のカルナ、聞きなさい私のカルナ』
シンリー様の声が聞こえた。あったかい、とても安らかな声であった。
『よく頑張りました。とても怖かったでしょう。とても辛いでしょう。ですが、よく立ち向かいました。私は貴方を誇らしく思います。人のために怒れ、人のために自分を捨てられる。貴方は、これからたくさんの人を救っていくでしょう。今回は、記念すべき第一歩を踏み出したのです。本当によく頑張りました。私のカルナ』
シンリー様の言葉がとても慈愛に満ちていて、今の私の頭を支配していた負の感情が取り除かれていく‥誇りに思うか‥
こんな私でも、シンリー様は、誇りに思ってくださるのだな‥なら、これからも頑張らないと。
この世界のため、ひいては、シンリー教のため!
『シンリー教は作らなくて結構です。貴方がいればそれでいいのです。』
なんと!?私の心の声が筒抜けだったとは‥お恥ずかしい‥
無事、初討伐は成功となった。
なんとか、無事討伐成功です。
この後から、どんどん話が進むと思います。