【終幕 そして今現在】
トヨは復活して以来、俺を『信徒』ではなく『夫』として慕うようになった。
彼女曰く「寝食を共にし、一つ屋根のした……。最早、夫婦と言っても過言では御座いますまい!」との事。
『食』は兎も角として、『寝』は置物状態の時、それも一回だけだろうが。
因みに、村井君は相変わらず『親戚の子』と信じているようだ。
彼曰く「親戚なら結婚しても問題無いっスね! おめでとうございます!!」との事。
いやいや、この見た目の女の子が30過ぎの独身男性と同棲って完全に事案だぞ?
誤解だと何度言えばいいんだ……。
「平賀さん、ケムたいんで一度窓開けますよ? 今日は秋口とはいえ若干さむいっスけど、我慢してください?」
「あー、了解。すまんね?」
村井君にボヤの後始末を任せ、俺とトヨはアイロンとドライヤーを使い、粛々と原稿を乾かす。
原稿用紙700枚分、濡れているので慎重に剥がす必要があるので、中々に手間の掛かるしんどい作業だ。
「トヨ、乾いた原稿は売り場の商談テーブルに運んでおいてくれ」
「お任せ下さい……、ムム?」
頭上に張った紐に洗濯ばさみで干された原稿を手にしたトヨは、塗れた用紙よろしく眉間にシワを寄せる。
「旦那サマ、まだ少しばかり湿気っております!」
「多少は妥協するしかない。じゃないと何時まで経っても終わらん。残り648枚あんだぞ?」
「それはそうですが…、ハッ、そうです! 吾輩に良い考えが御座います!」
「ッ! い、いや、待てトヨ⁈ お前の『良い考え』はロクなことにならな、」
俺が止めるのも聞かず、トヨは盛大に柏手を打つ。
すると室内で何処からともなく強風が渦巻き、洗濯バサミで止められていた原稿たちがグルグルと宙を舞う。
そして村井君が換気のために開けていた窓の外へ、原稿を次々排出していった。
「「………」」
俺とキッチンの村井君は真顔で顔を見合わせ、呆然としているトヨを同時に見る。
「にゃっ、はは……、少々風がぁ、強過ぎました……」
「やっぱり出ていけ、化け猫‼」
俺はこの同居人のお陰で、今後も『災難』に巻き込まれる訳だが、……その話しはまたの機会に。
【完】
長らくのお付き合いお疲れさまでした、著者の335遼一です。
今回は【世界暦構想シリーズ『色々あって落ちぶれた作家が招き猫を拾ったら実は神様だったけど、ポンコツ過ぎて災難続きになった話(初版』】を読んで頂き、本当にありがとうございます。
今回の作品は如何でしたでしょうか?
〖おもしろい、いいね〗といったプラスの感情、逆に〖つまらん、クソ作品〗というマイナスの思いなどなど、少しでも読んだ方の感情を揺さぶる事が出来たとしたらうれしい限りです。
本作はひとつ前の作品【世界歴構想シリーズ『水没都市のオタク市場』https://ncode.syosetu.com/n9814fl/】の前日談として構想し、C99で刊行しました。
しかし当日は全く見向きもされず、立ち読みはおろか手にすら取って貰えませんでした。
かなり気合を入れて書いただけに、このまま存在すら認知されないのは寂しくて悔しい。
そこで少しでも多くの人に読まれる機会がある筈と、なろうで修正、加筆した『初版版』を公開させていただきました。
※紙媒体版の『第二版』はさらに加筆してます。
なお、主人公が作中に感じている「物書き」としての考え方は、けっこう自己投影が入っていますね。
まぁ「創作物」とは多かれ少なかれ作者の感情の形。
大目に見てください(-_-;)
ところで、今作は舞台が私の生活圏を舞台にしたため、現実に存在する現場などにも取材に行きました。
読んでいて情景が思い浮かべるほど表現できてたら良いのですが、出来てなかったら私の力不足。
日々精進してまいります。
そうそう実は現在、この作品の続編も構想中です。
時間軸的には本作と『水没~』の間になる作品で、そっちでは久々にバトル要素っぽい物が入るかもなので、よろしければまたご覧いただけると幸いです。
さて、長々と書きましたが、このあたりで筆を置きたいと思います。
また次回作、関連作品も公開するときは必ず来ますので、いつかお会いいたしましょう。
長らくのお相手は、335でした。




