パン屋の店主の妻目線
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なんで何も言わなかったのか、ですか。
いいえ、ちゃんと伝えましたよ。
あなたがそこまでする必要はないって。
でも突然現れたあの女がかわいそうに見えたんでしょうね。
旦那は世話を焼きました。
必死にね。
誰よりも必死に、焦らなくてはいけないのはあの女本人なんでしょうけれども。
そして、旦那が役所や図書館に行って調べ物をしている時に彼女はウチにきてお茶を飲もうとしているんですから。
え?って思っちゃいましたよ。
旦那が帰ってきてからそのこと伝えると「頼れる人がいなくて寂しいんだろう」って言うんです。
私はあきれちゃいましたよ。
旦那の人がよすぎる答えに。
あきれていたらあの女はどんどんつけあがってきたんです。
「今日は売れ残りのパンはないんですか?あったらもらいますよ」なんていうのはかわいい方でした。
アクセサリーを作ってきて、ウチで売ってほしいと言ってきたんです。
ウチはパン屋ですよ?
でも売れないって一言で断ることもできなくて、近所のアクセサリー屋さんを紹介しようとしたんです。
「だったらいいです」って言ってアクセサリーを引っ込めたんです。
ちょっと色々考えましたよね。
ウチだったら何も手数料なんかなく商品を置いて商売できると思ったのか、とか。
それから、いろんなことが気になるようになったんです。
いい香水使ってるなー、とか飴とか日持ちのするお菓子なんか結構持ってるなーとか。
小さいことなんですけどね。
ただ、どんどんあの女が疑わしく見えてくるんです。
隠していたつもりではいるんですが、態度に少なからずでていたんだと思います。
だって、あの女の方から私を避けるような行動が増えたんです。
以前は、「残ったパンないですかぁ?」なんてしょっちゅう言っていたのにですよ?
そういうことも少なくなってきたようにも思えました。
疑惑の目を向けるようになってからそういった発言が少なくなってきたので、下心はあったんだな。なんて考えてしまったくらいですよ。
でも、日々あの女の疑惑は大きくなっていったんです。
大きくなって、いつ問い詰めてやろうかと思っていたら長距離列車に乗っていったんです。
やっぱり下心あっての行動だったんだなという気持ちと、なんの挨拶もなく行っちゃうんだという気持ちがごちゃ混ぜになりました。
でも、それと同じくらいに行ってよかったなんても思っているんです。
あの女がこれ以上ここにいたら私たちは売れ残りのパン以上のものを要求されていたはずです。
それを避けられたたけでもいいと思うのが普通なのかもしれません。
え?主人ですか?
ああ、ショックを受けているみたいですね。何もできなかったって。
でも、あの人のことですから七日もあれば忘れますよ。
熱しやすく冷めやすい人ですから、もうあの女の名前も忘れてしまったくらいですよ。