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経過観察  作者: 悠愛
1/1

その2

「で、保健体育どーすんの?」

璃空に一通り自分で出来ることも増えてきた。

最低限のルールやマナーなども教えた。

1番困ったのは生理だった。

この時ばかりは、姉に頼んで助けてもらった。

ある程度の学力もつけたが…。

未だにどうすべきかわからないのが保健体育だった。

相手の気持ちに過敏過ぎているし、自分の感情のコントロールもどういう気持ちなのかと未だに教えてる最中なのに。


あれから2年、あっという間だった。

住人相手なら、会話も出来るし意思も伝えられる。

もう少し、感情がわかるようになってからの方が良いのか、知識として教えるべきなのか…。

颯太が面白がって時々聞いてくるが可愛い璃空に嫌われる気がすると自分からは教えたくないらしい。


凌さんと颯太が夜遊びに出掛けて帰る度に、璃空は玄関先で正座をさせてはすぐに部屋に入れなかった。

璃空なりに、良くないものを持ち帰る2人を気遣ってるんだが、2人は叱られてる筈なのにいつもデレデレ。

アキは璃空の行動に気付いたのか、そういう遊びを一切辞めた理由が、璃空がボソッと

「ハァ…仕事で行った時ないのに、遊んできたらあるの」

それを聞いて、辞めたそうだ。

アキの遊び方を知ってるだけに、懸命だなと思った。


颯太もアキも生い立ちは聞くに耐えない。


颯太は育児放棄や虐待をされていたため、僅かな表情からも相手の本音や嘘が見抜けるし、読唇術も得意だ。

まだ凌さんがヤクザだった頃に、颯太の母親の借金取り立てで向かったら、寒空でそこら辺の雑草を摘んで食べていた。

部下が部屋に乗り込んで怒鳴ってる間、凌さんは颯太を連れて身なりを整えて、ファミレスで食事させてると、凌さんは取引を持ちかけられた。

「借金返せたら良いの?」

「借りたら返さなきゃダメだろ?」

「母さんじゃ無くてもいいの?」

「返せるならな」

「じゃ、さっきの青いスーツの人は?」

「どういう事だ?」

「おじさんは俺をバカにしないんだね」

「何でウチのヤツが?」

そこで、凌さんは部下の不審な行動を思い出した。

ニコッと笑うと、颯太はあるテーブルを指さした。

「ゲームにおじさんが勝てたら教えてあげるよ、そこのカップルはこれからどうなると思う?」

どう見ても仲良さそうな雰囲気だった。

「さぁ…選択肢は?」

「このまま一緒に店を出る、彼女だけ残る、彼氏だけ残る」

「3択か?」

「うん、当ててみて?」

「彼女だけ」

「どうして?」

「男の方が少し冴えないし、年が離れてないか?」

「正解はね、彼女が帰るだよ」

「は?」

少し経つと、彼女の方が帰って行った。

「何でわかった?」

「会話見てたから」

「ふーん、名前なんだっけ?」

「颯太だよ」

約束通り颯太から、颯太の母親と部下が恋人だと言う。

調べてく内に、他の組のスパイ行為もしていた。

他にも色々とやってたので、その2人は逮捕されて服役。

凌さんが身寄りのない颯太を引き取った。

この母親の事と、当時の俺の一言で凌さんはアッサリとヤクザを辞めて、退職金でマンションオーナーになって家賃収入で生活するようになった。


そのニュースをやらない日はなかった。

未成年が首謀者で、サイバー犯罪をやったのだ。

人殺しはしてないし、世直し的な行為だったがわずか15歳の少年1人。その素性や性格等が流れたりもしていた。

捕まる際に色んな裏帳簿を渡し、模範生だったアキは刑期を終えて、全て別人になって保護官の元へ預けられた。

何故、アキがそんな事をしたのか?

颯太とは対照的に、裕福な家庭だった。

欲しいと言えば、高価なモノもすぐに手に入った。

アキはオンラインゲームを楽しんだ。

それだけでは物足りず、プログラムの面白さにハマった。

父親の会社の裏帳簿を見付けた事がきっかけで、ハッキングをして、裏帳簿から金を巧妙に抜き取っては寄付をした。

未成年に簡単に破られる程度なのか、脆いセキュリティではないのか、有識者達はアキ以外に黒幕が居るのかもとか、当時は議論をしていた。

アキは当時のコードネームで今の名前は、星野朗。

アキを凌さんに紹介したのはミサキだった。

裏の仕事をする上で、アキの様な人材は敵に回したくない。

アキは凌さんの話を聞いて、三食昼寝付きの条件を出した。

「じゃ、コレ解けたら」

依頼で請け負ったパスワード解析に困ってた凌さんはその場でアキを試した。

「時間くれますか?」

「どうぞ」

小一時間でアキは解いた。

「さすが、アナリストアキ!」

その場に居たミサキが口を滑らせてしまう。

「君が?」

「少年院へ入った後の事はよく知らないですけど…例の事件なら、俺がやりました…それと、このパソコンに入ってたデータは偽物ですけど?」

「やっぱり?頼まれたのはパスワード解析だから」

「アキくんだっけ?」

「はい」

「他に得意な事はあるの?」

「それなりに準備してくれたらいくらでも」

クルッと向けられたパソコンの画面には消されたハズのデータなどヤバい情報だらけ並んでいたまま渡したらしい。

口止め料として、依頼料の2倍振込まれていたそうだ。


颯太が12歳、アキが18歳で凌さんに引き取られた。

…果敢な年頃の2人を凌さんはとても可愛がってた。

アキはその頃からバイトを始めた。

凌さんが好きなコーヒーを誰よりもうまく淹れたくて…。

マスターに全部話すと、快く働かせてくれたそうだ。

夜はマスターの息子さんのトコでバーテンダー見習い。

小柄だが、アイドル顔なのでかなりモテる。

璃空が来るまで、股がけを何人もしていた。

バレても気にしないし、奪い合いで彼女達が争ったら全員その場で別れたりしていた。


颯太は今、大学で心理学を専攻している。

それとは別に引き取られた頃から合気道は凌さんに頼んで通わせてもらっている。

自分の身を守る術はないよりある方がいい。

空手とか色々見学させたら、颯太は合気道を選んだ。

璃空も護身用にと武術を会得している。

『護身用』の筈なのに殺傷力の高い技なのだ。

俺の代わりに相手をして颯太がよくボロボロになってる。

璃空はすばしっこく、容赦なく急所を狙ってくるのだ。

気を抜いたら青アザだらけになる。

颯太は長身で鍛えた体躯、そこそこ顔も整ってる爽やかイケメンなハズなのに、嘘が見抜けるので、付き合っても長続きしない。

「本気で好きなら、嘘とかそういう問題じゃないよね?」

颯太の境遇なら、人を本気で愛せるようになれるのか?と凌さんは心配してる。


2人を引き取った凌さんは中性的な外見で、もうすぐ四十路と言うのに年齢不詳でセミロングの髪は、得意の変装のため。

顔が良いだけじゃなく、人脈がすごい。

諜報や潜入が得意で、時には女性になる事もある。

女性関係も奔放でその日限りしかしないと決めてるらしい。

ミサキが言うには、叶わぬ恋をしてるけど性欲は別なんじゃない?と含みのある事を言ってたが真相はわからない。


凌さんはある人からの頼みで、裏の仕事を始めた。

『偉い人達』がうちの会社を容認し、依頼をしてくるのだ。

凌さんが依頼の窓口になり、依頼をこなす。

依頼は色々。特技を活かすモノから、身辺警護や諜報等。

偉い人ほど信仰してるので、そういう類は俺の担当。

人を殺めたりするような依頼はしない。

表向きは清掃業で登録をしている。


璃空には好きな事をして貰いたい。

こんな仕事は手伝わせたくない。

18歳、これからいくらでも選択肢はある。

婚約したての頃よりも大人っぽくはなったがあどけなさはまだ残るが、精神年齢はまだまだ幼い。

知識だけ…年相応なのはアンバランスすぎる。

忘れる前だって、幼い頃から仕事させられて学校も通ってたのかも定かじゃない。

スポンジみたいに沢山吸収するのは知識ばかり。

でも、周りの俺達は…こんなだし。


どうすべきか悩んでた頃、姉の子供達に家業について教えて欲しいと言われた。

姉と俺は一回り違う。理由は親父が再婚相手だから。

姉の父親は、母親方の親類で病気で亡くなったらしい。

幼い俺も能力あるなし関係なく、家業として叩き込まれた。

ただ、姉が継ぐことは決まってし、どうして俺もしなきゃいけないんだとよくサボった。


うちは家業として知識や技術を会得させる。

人と関わる事も、璃空にとっていい事かも知れない。

「じゃ、今日は瞑想から…」

璃空は恐らく実践的な事しか教わってない。

芸は身を助けると言うし…芸じゃないけど。

璃空はチビ等のお手本になってやってくれる。

瞑想だって基礎だし、諸々バランスが良くなる。

無意識でやってた事をコントロール出来ればペース配分も自分でわかるようになる。

最初は苦戦してた璃空も段々コツを掴んできた。

と言うのも、璃空が仕事をした後…俺は何度も現場で綻びたモノを修復しに出向いては修繕していた。

蟻相手に、一戸建て分程度の威力を放ってたのだ。

体力・能力オバケの璃空にとってそれでも手加減をしていたのかも知れないと思うとゾッとする。


姉の旦那はサラリーマンだっが、姉が家業を本格的に継ぐ事になって、手伝うために退職をしたそうだ。

両親はこれまで、家業でゆっくり出来なかったので悠々自適に過ごさせてやりたいと今は豪華客船で旅行をしている。

俺が習ったようにガチガチにやるより、遊び感覚で覚える方が身に付くのも早いと思って教え方を変えた。

姉の子供は3人、9歳、7歳、6歳で真ん中は男の子だった。

末っ子は容易くこなしたが上の2人はうまくいかない。

姉の方は悔し泣きすると璃空がコツを教えてやっていた。

コツコツ出来なくても頑張って出来るようになろうとする弟と言われた事を素直にこなせる末っ子。

3人とも、それぞれ得意な事はバラバラだった。


「そろそろ時間だよ」

姉の旦那が声を掛けたら終了としていた。

汗だくのチビ等はそのまま風呂へ直行。

シャワーを借りて、少しゆっくりしてから帰宅する。

璃空もやっとチビ等とも随分と仲良くなってきてる。

精神年齢も近いし、学校も知らない璃空にはいい刺激だ。

颯太もアキも凌さんも結局は可愛くて仕方ないから、璃空の良いようになってしまう。

突飛な事を言われたり、3人同時に話されたり…。

最初の頃は、かなり半泣きでしがみついて怯えたりもした。

今ではチビ等とテレビゲームで遊んでも最初は負けてしまうのが悔しくて、アキに頼んで特訓をしてもらってそこそこ上手くなってきた。


俺は母親との記憶が少なかった。未だにどう接して良いか戸惑ってしまう。

家業を継いでたから仕方ない。頭で理解はしていたが心はやっぱり『なんで?』と思いやがら諦めるしかなかった。

姉が継ぐ事になって、暇になった母親とゆっくり話せたのは最近の事だった。

話せなかっただけで、母が俺を大切に思ってくれてるのは親父がこっそりいつも教えてくれたが、寝てる間なんかわからないじゃないかと癇癪をあげた事もある。

だから、甥っ子や姪っ子達には少しでもそんな気持ちになって欲しくなかった。


「仁くーん、璃空ちゃんねーちゃん寝てる」

「よし、帰るかぁ」

抱き上げてそのまま玄関へ向かうと末っ子が璃空の靴を持って付いてきてくれる。

「ありがと」

姉家族に見送られて帰路へついた。

数分後、璃空が起きた。

いつもは着いてから起こすのに、珍しい。

「あれ?」

「あと30分あるから寝てもいいよ?」

すると、凌さんが与えたスマホを取り出して弄りだす。

「コラ、また、酔うぞ?」

「あと30分って送ったの!」

最近はメッセージを送るのが楽しいが用事がないと送信出来ないので、些細な事でも送信していた。

制限付きなので課金もアプリのインストールも許可がないと出来ない。

送信後、返信がすぐあったのを確認してバックへしまう。


「璃空、アイス買って帰ろっか」

「3段がいい!」

「みんなのも選んでお土産にしような」

チビ等を教える帰り道はどこかへ寄って帰る。

ご褒美というか、社会勉強というか。

決めたり選ぶのが苦手なので少しでも克服させてやりたい。

じっくり悩んで、全員分を選んで帰宅した。

「今日は、アイスだよ」

夕食後、凌さんに手伝って貰って盛り付けをしたアイスをトレイへ乗せて運んできた。

それぞれの味を伝えながら渡す。

「仁のおいしい?」

「あーん」

璃空曰く、俺が食べてるのが美味しそうに見えるらしい。

「おいしっ」

ニコッと笑って自分のを食べるが、璃空の食べる速さはゆっくりのんびりだ。

給食なら確実に昼休憩全部使っても足らないだろうな…。


「璃空ちゃん、見てて、コレ出来る?」

颯太がさくらんぼのヘタを口の中で結んで舌を出す。

真似してやってみるがうまくいかないのかしかめっ面だ。

「璃空、お行儀悪いから出来なくていい」

アキが止めるが璃空は必死なのか聞こえてない。

「璃空ちゃん、この紐結んで?そう…それを舌でやるんだよ」

凌さんまで、舌をだして結べたのを見せた。

やり方はわかったが、コツが掴めない。

「アキは?」

「え?やるの?」

璃空にせがまれると弱いので、やってみせる。

「アキもできた…仁は?」

「一緒にやるか?」

「うん」

「じゃ、枝をバツにして…」

アキはやり方を詳しく教える俺に軽蔑の眼差しを向ける。

颯太がやるからだろ?さくらんぼ乗せたの凌さんだし?

「で、きた?」

「おぉ!」

「すごいねぇ」

でも、璃空が出来たら褒める、理不尽でしかない。


最近、璃空がハマってるのがピアノだ。

教本をアキが買ってきて璃空に少しずつ教えている。

ピアノを用意しようとした凌さんを飽きるかも知れないからと止めたらアキが自分の部屋からキーボードを出してきた。

チビ等の影響だった。

姉がピアノ、弟が剣道、末っ子はスイミング。

ピアノを教えるアキはとても厳しい。

上達すれば、アキからアップライトピアノを買ってやると言われた璃空はどこまで上達すれば買って貰えるんだろう。


この2年で成長してくれた。

それも周りの手厚いサポートのおかげだ。

そんな穏やかな日々が続けばと願ってた…。

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