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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ヒロインは笑いたかった

作者: 風花

よくある話です。ほんのり同性愛描写と残酷描写があります。

『幸せになって』

それが、亡き母の言葉。


母子家庭で村で野菜を作り、生活していた。

子供心に、母はとても美しい人だった。

母の葬儀を終えて暫くして、父親と名乗る貴族が私を引き取った。

父は男爵で、とても立派なお屋敷に住んでいた。


父に聞いた。

『幸せって何ですか?』

『王子様と結婚する事かな』

突き出た腹を抱え、父が笑った。

そして私を学園に入れられた。


この国の子供は八歳から学園に入学できる。

入学後は平民なら技術が修得できたらいつでも卒業できるが、最長でも三年までしか通うことは許されないが、貴族には卒業時期についてそのような縛りはない。当然ながら、平民と貴族では履修できる科目も異なる。

大体高位貴族の子女の入学は十六歳と遅いものが多く、早いものは数ヶ月で卒業する。私は十三歳で学園に入れられた。

この頃学園には、この国の王子と婚約者が通っていた。

私は王子に近付いた。

目新しいものが好きという王子の目にとまった。

王子と親しくなる私。婚約者の令嬢は静かな目を向けていた。

物が無くなり、壊される。階段から落ちかけた。

チラリと見えた走り去る後ろ姿。

髪色しか分からなかった。

王子に話すと憤ってくれた。

終業式で、王子が婚約者の非道を叫び、令嬢との婚約の破棄と私との婚約を宣言した。

王子の妃としての教育が始まった。

辛い。

苦しい。

来日も来日も勉強ばかり。

苦笑、冷笑される日々。

礼儀作法どころか一般教養さえも覚束無い私には、辛い日々。

王子と会えない。

一年、二年。

最近、王子が知らない令嬢と談笑しているのを見かける。

一年。

王子に婚約破棄された。

父が処刑された。

私の婚約破棄を知らされた父が、王子や高位貴族に楯突いたらしい。

どこからか莫大な借金が私に降りかかる。

売られていった先で、王子が敵国に婿に出されたと、常連客に聞いた。



気がつくと十三歳の私になって、学園にいた。

下級貴族の集まりで、令嬢達に聞いた。

『幸せって何ですか?』

『素敵な人と結婚すること』

恋人がいるという令嬢が、頬を染め幸せそうに笑った。

私は令嬢の恋人を探した。

令嬢を見つめる令息に、なるほどと頷く。

父に働きかけ、令息の婚約者候補筆頭になった。

悲しげな令嬢を横目に令息に笑いかける。

婚約披露宴の日取りが決まった。

冷たい令息の視線。

私の体は冷たくなった。



気がつくと私はまた学園にいた。

学園の令嬢達に聞いた。

『幸せって何ですか?』

『高位貴族と結婚することよ』

頬を赤らめた令嬢達が口々に言った。

学園で有名な高位貴族の令息について調べた。

王国の騎士団長の令息。魔術師団長の令息。次代の宰相と噂の令息。

次代の役持ちと目される令息達の婚約者に求められるのは、令息と同等またはそれ以上の能力。

無能者は隣に立てない。

他の高位貴族を探す。

美しい物の収集が趣味な令息がいた。

美しい舞姫、素晴らしい歌姫、彫刻家、画家。数多の芸術家のパトロンをしている。現在、婚約者はいない。

令息に近付いた。

女神の様だと、気に入られた。

瞬く間に婚約者になった。

高価で美しいドレスやアクセサリーを贈られる。

令息も求めるままに着飾る日々。

春に婚約披露宴を控えた、冬の日。

私は永遠の女神になった。



気がつくとまた学園にいた。

最近王子との婚約を解消した令嬢に、お茶の席で聞いた。

『どうしたら、幸せになれますか?』

『貴女は幸せじゃないの?』

『分かりません。何が幸せか分からないんです』

『誰かといたり、何かをしていて、楽しかったり嬉しかったりしたら、それが幸せと、私は思うわ』

高位貴族の令息と新たに婚約し直した令嬢は笑って答えてくれた。

楽しかった事も嬉しかった事も、何もない。


優しい記憶。

遠い昔、母が生きていた時。

村の祝い事に私の育てた花で花束を作った。

皆が喜んでくれた記憶。

母と育てた野菜を、村の人達は美味しいと喜んでくれた記憶。


父は本妻の間に子は無く。私は学園で領地経営について学んだ。

土地土地で育てやすい野菜。治水。道路整備。

気のあう令嬢や令息の友達ができた。

いじめられては無いが本妻と気詰まりな私は、学園で嫁ぎ先を見つけたいと思っていた。


父に、男爵家を継いで欲しいと頼まれた。

昔、母は男爵家の侍女をしていて、父と恋人関係にあった。

父は母を手放す気がなかったそうだが、本妻との結婚話を聞いた母が姿を消したらしい。

父は母が去った後、病を得て子が出来なくなったそうだ。

後に結婚した本妻とは契約結婚で、本妻にも恋人がいた。

避けていた本妻は、話してみると意外と話せる相手だった。

本妻の恋人も紹介された。

彼女は凛々しい女性で、高貴な女性を守る王城所属の女性騎士の一人だった。

彼女は代々騎士を輩出する家の長女だが、我が家は子沢山で跡取りもいるので好きにさせてもらっていると笑っていた。

因みに、下の弟がまだ学園の騎士科に通っているそうだ。

同年代ということで二人から紹介された。

彼は姉に似た面差しの、優しくよく笑う少年だった。

私は学園の実習として許可を得て、花や野菜を育て始めた。

嬉しい事、楽しい事。たくさん育った。

学園を卒業し、いつの間にか少年との結婚が決まっていた。

式場で笑顔が増えたねと、いつかの令嬢が笑った。

ループは終わりました。


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