プロポーズ
商人のマーモの荷馬車の護衛を引き受けた3人は大地の感触を噛み締める。
「どこまで行っても先がない世界ってイイワー」
ユミの尻尾がユラユラ揺れる。
「風も匂いも気持ちいいね、この有機生命体からこの情報も船の僕らに伝わってるかな」
タロスケは首輪に手を添える。
「俺たちの経験が船の俺たちの決断に影響するってんだから気を引き締めねーとな」
最も気を引き締めなければならない弥助。
ユミの隣に商人の息子ルークがさっきからまとわりついて離れない。
「惚れられたなユミ」
「可愛いじゃない、こんな弟が欲しかったのよね」
ユミは5歳にもならないルークの手を引いて歩く。
「電池が切れたら僕がおぶってあげるよユミちゃん」
「殿様にお願いする訳にはいかないわよ、ねー弥助」
「あっしにゃあ、かかわ・・・」
ユミが弥助の三度笠を強引に引き剥がす。
「これかぶってたらルーク君を背負えないわよね!」
「止めてくれよユミ、ちょんまげが崩れるって!」
どこまでも続く青い空が弥助の視界に新ためて映る。
「お姉ちゃん、僕、疲れたら荷馬車に戻るよ」
「あら、いい子ねルーク君」
ユミがルークの頭を優しく撫でる。ルークのほほが朱くなり耳がぴんとなり尻尾がグルグル回る。
「ルーク殿はユミが好きなのでござるかな」
3人の後で自分達の荷馬車の馬の手綱を握るタロスケがルークをはやし立てる。
「うん!、お姉ちゃん大好き!」
「あらあら、ルーク君はわたしの事が好きなのね、お姉ちゃんは嬉しいわ」
「エヘヘ、僕は大きくなったらお姉ちゃんと結婚するんだ」
すでに彼の中ではユミはお嫁さんになってくれる事になっていた。
ユミが嬉しそうにルークを抱き上げ頬スリする。
「素直なルーク君はお姉ちゃんのお婿さんなのー」
勝手にやっとけと思いながらも子供にまで気を使わせた弥助は自分がちょっと情けなくなった。
アニマ共和国の国境の街、デルソルまであと2日もかからない。
先行調査船が最期に消息を絶った地点である。
最期に彼が言い残した言葉『みんなごめんなさい、僕は人類に仕えられなくなった。許して欲しい。僕のことは捜さないで下さい』が気にかかる3人はお願いを無視して先行調査船に会いに行く予定なのだ。
「どこの家出息子なんだってーの」
弥助は咥えた楊枝をぷっと木の幹にむかって飛ばす。
楊枝は木に届かないで地面に落ちる。
「カッコつけるのなら、もっと練習するのね」
容赦ないユミの言葉に傷つく弥助であった。