悪役令嬢にもなれなかったのが悔しい
「なにすんだユミ、せっかくカッコよく決まりそうだったのによー!」
ミニスカ着物のユミが弥助の三度笠を引っ剥がし、耳を引っ張る。
「いててて、やめろよユミ!イテーって痛いから耳引っ張らないでくれよ」
「ちょっとこのバカに話がある、すぐ戻るからタロスケは商人さんと話つけといてよ」
ユミと弥助が場所を変えて話す。
「弥助!せっかく人を助けたってのにどーして去ろうとしちゃうのよ」
「いや、なんというか股旅ものってそういうもんじゃん」
「このおバカ!何のために監視衛星やら監視ロボット使って盗賊団をずっとサーチしてたと思ってんのよ!この状況をどれくらい待ったかあんた分かってないの!」
「分かってるって、ただちょっとやってみたかったんだよ。時代劇ファンならそういうもんじゃん」
「そういう問題じゃないでしょ」
「うん、悪かったよ」
しょんぼりと項垂れる弥助。
弥助の三度笠を返すユミは、光学迷彩で隠れているボディーガードのアンドロイドに旅の安全を確保するように命じる。
「さてっと、戻るわよ」
ユミは弥助の背中を軽く叩く。
弥助のしっぽは垂れ下がったままだ。
「いいじゃん、いったん別れても街でまた偶然を装って会えば問題ないじゃんなー」
一人でぶつぶついう弥助。
弥助の頬をユミのしっぽが叩く。
「あんたのお陰でこんなカッコしなきゃならなくなったんだから、後でキッチリけじめ着けんのよ」
自分のミスをこの機会に乗じて弥助に押し付けるユミであった。
「我ら3人、アグリス帝国から追い出されアニマ共和国への旅をしている者で、ユミ、弥助そして私がタロスケと申す」
「ほう、みなさんもアニマ共和国へ行く途中でございましたか。
ああ、申し遅れました、私はマーモ・エドガーと申します。
アニマ共和国で商会を営んでおります、これも何かの縁でございましょう。
是非とも我が商会にご招待させて頂けませんでしょうか」
「ありがたい、何分とアグリス以外知らない者ゆえ助かり申す」
ユミがタロスケに小声で問いただす。
「あんた、なに申すとか偉そうに言ってんのよ」
「だって、こういう設定になっちゃったんだし、やるならお殿様っぽいのがいいかなーって」
「じゃあ、あたしはどーすんのよ!伯爵か子爵の令嬢設定しか考えてなかったわたしはどーすんのよ!」
弥助がユミの簪を見て答える。
「風車のお銀っていう感じでいいんじゃね」
ユミにぽこぽこ頭を叩かれる弥助。
「みなさん仲がよろしいですな、かっかっか」
マーモの機嫌のいい笑い声が草原に響いたのであった。
弥助のお陰で脱線しかかったファーストコンタクトもタロスケの堂々とした対応で無事に済み、惑星『猫野』の三匹の旅がこれから始まるのであった。