この人たちはいずれ「俺、なんかやりました」状態になる
『弥助くん、あれはやり過ぎじゃないかなー』
『いや、これは良いものよタロスケ』
『だろー、ユミもよくわかってんじゃん』
人工衛星から送られる映像に盛り上がる《黄金郷》の3人。
ご隠居様のマーモ一行の800キロ先の渓谷に日本式の温泉旅館がある。
人里離れた土地に《黄金郷》の弥助が密かに作っておいた旅館。
生活に困窮し行き倒れていた人型知的生命体を攫って従業員として徹底的に教育して配置した。
完全に洗脳したので、これをファーストコンタクトに含める事はない。
言わば侵略行為なのである。
従業員には地球人であれば当然の週休2日制、有給年間20日最大2年で40日の消化が義務づけられ、別に慶弔、病気、日本の祝日や盆暮れも休みをとらさせられる。
毎日風呂に無理やり入らされ、食事は3度取らされる。
労働時間は8時間しか与えられず、もしこれをオーバーした場合は翌日の労働時間を削られる。
だらだら働くことが出来ない厳しい職場である。
月に一度裸にさせられ定期検診を受けさせられる。それ以外でも首輪から異常信号が発せられると即座に病棟に移され治療される。
特に歯科治療は恐怖であろう。
実は全身麻酔で歯科治療をしてもよいのだが歯磨きの大切さを身を持って知ってもらうために部分麻酔しか行わない事にしてある。
悪魔のような所業である。
給料も日本人と同じでボーナスも支給された。もちろん現地の貨幣で支払われる。
誰もいないところで働かされる者にとっては無意味な給料である。
故に従業員の手元には使われない金貨が溜まる。
周りになにもない場所で何の意味があるのであろうか。
従業員の家族は旅館の裏にある寮に無理やり住まわせ教育型アンドロイドにより家事を請け負うものには日本の作法と料理を、子供には寺子屋で詰め込み教育が行われていた。
酷な話である。
襖に積もった埃から皿洗いの洗剤の流し漏れ、髪の毛一本たりとも残さない床掃除に風呂場の湯垢の落とし忘れを時折現れるメイドに不意打ちでチェックされるのだ。
母親が従業員の場合は父親がこれをこなす。
親がどちらか一方がいないか、もしくはいない場合は家事は18歳以上の男女独身者のチームが派遣される。
性格検査が行われた後、相互監視のもとお互い励まし合い子供を育て上げることが義務づけられ、経過を常にチェックされる。
日常も厳しい環境である。
この惑星においては刑務所よりも厳しい生活態度を強要される従業員たち。
娯楽もない人も従業員30人に家族が90人合わせて120人ほどが営業を開始しても客のひとりもこない旅館で仕事をこなす。
まさに賽の河原のなんとやらであった。
そこに現れるマーモ一行。
従業員は涙を流しながら客を迎える。
豪華な部屋に通される一行。
「よくぞおいでくださいました、マーモご一行様」
女将が綺麗な正座で丁寧に挨拶する。
更にその後ろに中居さんが10人同じ様に挨拶をした。
庭をみると従業員たちが深々と頭を下げている。
涙が地面にぽとりと落ちた。
「こ、これは大層なお出迎え。感謝しますぞ」
マーモが慌てて返答する。
タロスケは『みんな喜んでくれるから』と《黄金郷》のユミから受けた指示でマーモ一行をここに導いた訳だが、自分も含めなにがなんだか分からないようであった。