男一匹、渡る世間に顔を売りに行きます
ルークはマーモの息子ではあるが血はつながっていない。
本当の父は冒険者であり、スタンピードからデルソルの街を護るとき魔獣に殺された。母親は病院で看護士として働いているがルークを育てる余裕がない。
アニマ共和国の行政はルークの父が死亡すると即座にデルソルの有力者にルークの保護を依頼しマーモが保護者となった。これはアニマ共和国において有力者が公と繋がる為の義務であり、保護された者は将来、適性に応じて公機関で採用されるが故にコネクション作りにもなっている。
要は有力者である以上、地域に貢献しなければ国から弾かれるのである。
マーモはすでに60歳台半ばとなり、ルークはまだ5歳である。おじいちゃんと孫といってもいいだろう。ちなみにマーモの奥さんは去年亡くなりルークはマーモ家で雇っている乳母に実質的に育てられている。
マーモは自分の年齢を考えるとルークが最後の息子となるため溺愛している、正に孫を持ったおじいちゃん状態であった。
「可愛い子には旅をさせろとロクサーヌの教えにありましてな、この子には聖都を見に行くよい機会でありましょう。是非ともご一緒させていただければと、もちろん護衛料はお支払いさせていただきますぞ」
聞けば商会は既に息子たちに主な業務を任せており、3人と出会った時も仕事絡みの旅行であったのだ。
悠々自適のご隠居、それがマーモの姿なのである。
「ですが流石に子供を連れて徒歩という訳にはいくまい。弥助、ユミどうする」
『おいおい、ホントに殿様気取りかよタロスケ』
『まあ良いじゃない、こういう設定になったのもあんたの性なんだから、あたしは美人小町っていうアイドルなんだし気にしないわよ』
『じゃあ、俺だけ三下設定かよ。オレは嫌だぜおまえ等に使われるのはよ!』
『だったらその渡世人みたいなカッコをやめなさいよ!』
『なんだよ渡世人だと三下になんのかよ、これでも一家の大親分の跡目を継ぐために国中の親分に顔を売りに旅立った若頭って設定なんだぜ!』
『弥助君、いくら君が風の文一郎ファンだからってこの星中探しても何処にも親分いないと思うよ』
仲間に使われるのを良しとしない以上に自分のスタイルだとこの中で三下設定にならざるを得ない、しかしそれはプライドが許さない。
どうしても自分のスタイルを貫き通したい弥助。
「おい、ユミにタロスケ」
「なによ」
「なんだ、申せ弥助」
「おいら、これから国中にこの顔を売りに行かなきゃなんねえ。オメエラと一緒だとアチコチ回れねーから此処からおいら独り旅で行くぜ」
「どこにあんたの顔を売らなきゃなんない人がいんのよ!」
「いないよ、絶対いないよ弥助君!」
頭を抱える2人。
「どうかしましたか皆さん」
「ご隠居さんは引っ込んでおいてくれねーか。これはおいらたちの話さ、おいらはこの国中に顔を売りに行かなきゃなんねえ。悪いがあんたがたとは此処でお別れだ」
「顔を売りにとはいったい」
「あんたたちには関わりのねーこった、アバヨ!」
マントを翻して三度笠を目深に被り歌い出す弥助。
『どーこかでーだーれかがーきいっとまあっていてくれるー』
弥助は宇宙船の中でいつか仲間以外の多くの人の前で歌ってみたかった時代劇の主題歌を歌いながら旅立つ。
取り残される2人とご隠居さん一行。
「なに考えてんのよ、頭がおかしいんじゃないの」
確かに予定した行動ではない。だが3人が生物として身体持つ以上全てにおいてコントロールされているものではないのだ。
それを楽しく感じる惑星調査開拓宇宙船の中の3人であった。