表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
童話と少女  作者:
1/1

始め



 田舎のものにしては大きい、けれど都会のもと比べると小さい村の教会。この教会に朝と夕に毎日祈りを捧げる女の子がいた。名前はアユラ。彼女はこの白い教会を気に入ってくれていた。


 祭壇の前で膝を付き、ロザリオの十字架を両の手で握る。その姿をワタシは一生忘れないだろう。





 今日はいつもより少しだけ早く目が覚めた。そのせいか、朝が早い筈の司祭様はまだいなかった。彼は私が毎朝早くに来るのを承知なので、勝手に入っていいという許可を頂いている。会話自体があまり得意じゃなくて好きじゃない私は、ほんの少しラッキーだと思いながら、早々にお祈りを終わらせた。


 朝の仕事までにはまだ少し時間がある。少し出来た余裕が嬉しくて顔が緩んだ。どうやらそれが良くなかったらしい。


「気持ち悪い」


そう聞こえたので振り向く。案の定、私を見て馬鹿にした様な顔で笑っていた。さっきまでの穏やかな気分は何処へやら。一瞬で心が凍って表情も冷え切った。あぁ……ムカつく。


 目覚めて直ぐに私を虐めるのがそんなに楽しいのだろうか。


「あら、ちゃんと自覚はあるのね」


中心的立場の女の子の言葉に、周りにいる子達もクスクスと笑った。……嫌な笑い方。


「見てよあの子の髪。ごわごわでまるで馬の鬣ね。スカートだって汚いし」


言われてカッと顔が赤くなる。私だって貴方達みたいに綺麗に髪を結って、可愛らしい服を着たい。けど、家の仕事をしていたら汚れちゃうから着ないでいるだけ。彼女達が家の手伝いをあまりやっていないのは知っている。何で真面目に生活してる私が、こんな事を言われなきゃならないのか。


「朝にお祈りしてたから……それで…………汚れただけで……」

「ふ~ん。膝をついてお祈りしてたってこと?そんなに必死になって何を祈ってたのかしら?『お願いします神様!私顔をどうか綺麗にしてください!』とか?」


芝居がかった仕草で言った彼女は意地悪く笑った。皆がそれに同意して一緒に声を上げて笑う。


「ケヴィン!アル達も!こっちへ来てよ!」


 周りにいる子達の誰かが男の子達を呼んだ。ニヤニヤと嫌な笑い方をして近寄って来るのが見えた。


「ねぇ、聞いてよ!この子ったら美人になれますようにお願いしてきたんですって」


主格の女の子が大声で全員に聞こえる様に言う。そんなお願いなんかしてない。一拍の間が空いた後、複数の大きな笑い声一帯を包む。


「誰に!?」

「神様よ」


再び大きな笑い声。私は下を向いてその場を凌ぐしかなかった。悔しい。一体私が何をしたっていうんだ。


「じゃあ、毎日こいつが教会に行ってんのは、神様に美人になれますようにってお願いするためってか!馬鹿じゃねぇの」


私は一言だってそんな事言ってないのに。よく次から次へと思い付くものだ。


「お前馬鹿だから教えてやるよ。教会っていうのはなぁ、神様に感謝するものなの!」


何言ってんのコイツ。本当、今更そんな当たり前の事を言わないでほしい。大して神様に感謝もしてないくせに偉そうに。


「どいて。私、仕事があるの」


努めて冷静に、理性的な口調を意識して言った。怒りのせいで若干声が震えたが。


「ウッザ。良い子ちゃんぶってんなよ」

「馬鹿女のクセに生意気」


私を囲んだまま誰一人として退いてはくれなかったが、元から退いてくれるとは思っていない。罵られるとも思っていたが、髪を掴まれ引っ張られるとは思わなかった。今までは手は出してこなかったのに。


「……っ放して!」


怒りと恐怖で頭を振って暴れた。弛まなかった手の力のせいで、ブチブチと嫌な音がした。頭皮に走った痛みに涙が出る。


 その時、調度鐘が鳴った。この鐘が鳴ったら仕事をしなければならない。助かった。


 私の髪を掴んでいた男の子がいきなり手を放す。そのせいでふらついた私の肩に、それはわざとらしくぶつかってきた。ついでに足まで引っ掛けられて転んだ。地面に当たったお尻が痛い。付いた手からは皮が擦りむけて血が滲んでいる。


「本っ当、あいつらクソな性格してるわね!」


吐き捨てる様に言って右の拳を叩きつけた。それでまた手が痛くなる。はぁ、馬鹿みたい……。


 幾つか深呼吸を繰り返して心を落ち着かせる。帰る途中に、井戸で汚れてしまった手を洗ってから家に着いた。


「ただいま」

「おかえりなさい。今日は遅かったわね」


忙しい母は私の方を少しも見ない。それに若干苛ついたが、咄嗟に私は言い訳を考えた。


「神父様と話していたから」


嘘だ。私は良い子じゃない。悪い子だから嘘を付く。家族に対しての私は嘘だらけで、勿論親も兄弟も私が虐められっ子だということを知らない。知らなくていい。


さぁ、そろそろ私も仕事をしないと。私の朝の仕事はニワトリ小屋の掃除だ。最近は掃除だけじゃなくて餌の世話や、卵取りもだけど。最早私はニワトリ係だ。こんな仕事ちっとも楽しくない。


「アユラー。市場に行くから支度なさい」


母に言われて弾かれた様に顔を上げた。あんなに楽しみにしてたのに忘れてた。


 人が多いのは好きじゃない……どころか苦手だけど、綺麗な布は見たいし、風変わりな美味しい食べ物も食べたい。


 私は急いでニワトリ小屋の掃除を終わらせて走って向う。小屋の掃除がちょーっと雑になったのは内緒だ。


「お母さん、お待たせ」

「アユラ。貴方が作った物全部持って来なさい」


そう言われて思い浮かんだのは自作のコサージュや髪飾り。そんな物を持って来させてどうするのだろう。大体が母の言う『作った物』とは、頭に浮かんだ産物達で合っているのか否かも分からない。ええい!違ったら違ったで聞けばいいじゃないか。


 急いで自室の棚を開ける。その中から自信作だけを持って来た。それを母親の前に置くと、いたく真剣な様子で検分を始める。裁縫の得意な母に見られるのは結構な緊張だ。


「本当にこれで全部?ミント色のコサージュ作ってなかった?」

「えっと、自信のあるやつだけ持って来た。ミントのは縫製がちょっと……」


全部持って来なかった理由を言うと、今度こそ全部並べるように言われた。何回かに分けて持って来られたそれらは、最初の4倍程にも及ぶ。その数に我ながら良く作ったものだ。


「こんなに……」


そんなに驚かなくても。


「本当に、これで全部?」

「うん。完成したのはね。作り掛けは持って来てないよ?」


全部と言っても未完成品は流石に入らないだろう。母も完成品だけで充分だと言った。


 これらをどうするのか聞くと、私は驚いた。なんでも市場で売るそうだ。自信作ならまだしも、失敗作まで売りに出すなんて。恥ずかしいしどうせ売れないと反対したが、「いいから」の一点張りで全く聞く耳を持ってくれない。


 結局私の方が折れて諦め、市場に出すことになってしまった。良いもん。売れなくてもどうせ私は困らないから。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ