壱 崇徳院之事
人物紹介にございます。成人向けもございます。
(N5906FF)
拙きものゆえ。感想、ご指摘くだされば幸いです。
「…日本国の大魔縁となり、皇を取って民とし民を皇となさん…」
夜毎、館より聞こえてくる地の底を這うような呻き…。時の帝と争い敗れ讃岐に流されし崇徳院の配所から夜な夜な聞こえる呪わしい声に、仕える者は皆恐れおののいていた。
月もない漆黒の闇夜、ほのかに明かりが灯る廊下を1人の若い女が酒を持ち歩いていく。
「暗くて不気味ね、、こんな時に酒を持てなんて、、崇徳院様、最近うつむいたまま、何か唱えになるし、お顔も、髪も伸び、目が血走られて、夜叉のようなお顔になられて、恐ろしいわ…。だいたい、いつもは、さくらが持っていくのに、呼ばれてから帰ってこないんだから。あ、まさか、さくらのこと、崇徳院さまが…。」
やや幼げで、愛くるしい顔立ちにふくよかな体の下女仲間のさくらを思い出して、意味ありげに思い出し笑いを浮かべながら崇徳院のもとに歩く。
「崇徳院様、お酒をお持ちしました、、。」
女が御前にかしこまる。返事がないのを訝しむ女。ふと、女は部屋にこもる臭いに気づいた。
「えっ?この臭いは…崇徳院様いかがな、ひいっ!、あ、あわ、わわ、」
顔を上げた女が目にしたのは、床一面を血に染めて苦悶の表情を浮かべて倒れている下女仲間のさくらの変わり果てた姿。喉笛を食いちぎられ、着ていた小袖も引き裂かれて、露わとなった肌に痛々しく歯型が残る。
袴もぼろきれと化し、容赦なき仕打ちを受けたことを物語る。その向こうに口から血を滴らせた崇徳院が赤い瞳をギロリと女に向けていた。
(ひいい!な、なにが、あったの?に、逃げないと、、だ、だめ、こ、腰、抜けて、、や、やだ、だ、誰か!)
へたり込み、歯も合わせられずに怯える女。助けを呼ぶ声も上げられず、ただ首を振るばかり。鬼のごとき形相の崇徳院が無言で女に迫る。手で必死に這いずり、逃れようともがくも、その長い髪を血に染まった崇徳院の手がつかむ。
「ひ、ひいい!だ、だれかあ!」
髪を引き掴まれ、人とは思えぬ力で引き寄せられる女。崇徳院の手が女の体を握りつぶそうとするかのように女を掴む。ようやく声をあげるも、体を抑えられ、身うごきが取れない。恐怖に顔を歪めながら背後の崇徳院に振り向く女。血走った赤い目で女を見つめ、爪の伸びた骨ばった手で女の小袖を引き裂く。
「きゃあああ!お、おやめください!す、崇徳院様!い、いや、 いやあああ!」
必死に崇徳院に懇願する女。しかし、その懇願も虚しく、女を押し倒し、袴もその手で引き裂いていく。
(さ、さくらも、こんな目に、、うそ、、こ、これ、夢、よね…うん、きっとそうだ。目が覚めたらこんなこと…)
自分に起きたことを理解できないまま、頭の中で言い聞かせるように夢だと思い込む女。その女の露わとなった形良い乳房に伸びきった爪が食い込み、醜く歪み、爪の際から血が滴る。
「いやあああ!や、やめ、ぎゃあああ!あ、い、いだい!あ、がああ!や、あ、ぎ!」
爪が食い込み、歪んだ乳房からの痛みに耐えかね、悶え苦しむ女。その苦悶の表情を血走った目で見つめながら夜叉のごとき、崇徳院は女の喉笛に食らいつく。
「あ、がっ…ひゅう、、」
薄れゆく意識の中、女の耳に男達の足音と叫ぶ声が聞こえる。
(は、はや、く、きて…た、たす、け、、)
救いのない助けを待ちながら苦悶の表情を浮かべたまま女の意識は深い闇に落ちた。
「崇徳院様!いががなされ、、うわあ!」
「こ、これはいったい…」
警護の男たちが刀を抜き配所にはいると、皆その惨状に驚き、呆然と立ち尽くす。唖然と見つめるその先に、髪を地まで伸ばし、手から伸びる爪から血を滴らせながら着ていた衣をはだけさせた崇徳院が口元を真っ赤に染めながら立ち上がり、男たちを睨んで不気味な笑みを漏らす。
「す、崇徳院、さま…」
金縛りにあったかのように指一つ動かせない男たち。その男たちの目の前で、一陣の風が崇徳の髪を吹き上げ、体の周りをどす黒い業火が包み込む。その背後から獣のような物の怪が12体、炎の中から浮かび上がる。
「あ…あ、ぐわあ!」
次の刹那、獣たちは戒めから解き放たれたように崇徳の周りを飛び交い、呆然と立ち尽くす男たちをその牙で、あるいは、爪で打ち倒してゆく。そして、獣たちはゆらりと陽炎を起こしてその姿を消すと、闇の球となって都に向かい飛び去っていった。
「…日本国の大魔縁となり、皇を取って民とし民を皇となさん…」
崇徳院は再び呟くと、体を陽炎が包み、無残な姿を晒す男女の骸とともに、ゆらゆらと姿を消すと、同じく闇の球となって都の方へと飛び去っていった。