翳る日の丸ー1章②ー
スクラップ場に一台の車がやってきた。
男の主な収入源は、このスクラップの運び屋達から受け取る金銭だ。
関東都・関西府は、居住不可能地区で大量に余った線路や電車車両が持ち込まれ、バスに取って代わるほどの細やかな市民の足となっていた。
車産業は急速に廃れ、修理業者を探すことさえ一苦労する。
その為、機械に詳しい男に、毎度点検をお願いしている。
車には様々な機械が取り付けられており、フロントの両ライトの外側には走るたびに発電する小型風力発電機。
高速走行を長く続けると消耗が激しいが、走行する間常に発電する効果は凄まじい。何一つ問題はなかった。
急ブレーキが必要な時の急減速と、後続車両の追突による衝撃を和らげる為の、ウイングから飛び出るパラシュート。
車に乗る人間や車の台数自体が少なくなり、事故が大幅に減った為、片側2車線だった道路がそのままの幅で1車線になったり、法定速度が高めに設定された。
万が一事故が起きると大きなものに繋がる為、こうした安全装置も開発された。未使用の為こちらも問題なかった。
最後に点検したものは、動物機械工学の副産物。複眼コンタクトレンズ。
これを付けていれば、前を向いたまま真後ろ以外の広い範囲を見ることが可能になった。
しかし非常に繊細かつ高価な為、一つを長く使用するには定期的なメンテナンスが必要なのだ。複眼を構成する一つ一つの個眼を検査して、汚れや劣化、反応を調べる。
その間、運び屋は男の機械売り場の商品を見ていた。
元々カワイルカの保護を目的に作られた、目に取り付ける機械のスクラップを人間用に再生したゴーグルが目に留まった。
光を強く感知できるようになり、暗い場所で大活躍するらしい。
ちょっと装着してみるが、昼間だからか視界に変化は感じられない。
だが実用性がありそうで気に入ったこともあり、5,000円で購入した。
問題ないと診断された複眼コンタクトを着けて、運び屋は満足そうに帰っていった。
次筆に続く。