表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その世界を照らしに  作者: そいるるま
6/41

6

 海里とたくみが運転を代わるため、いったん四人は車を降りた。

「明歌ちゃん、走るの遅いから心配だったけど、よく頑張ったね」海里は改めて明歌の無事を喜んだ。

明歌は海里をハグして「海里、起きてくれてありがと! 助かったわ」と言った。それを見た隼優は明歌の襟首をつかんで海里から引きはがす。

「あのな、こいつは見かけが未成年でも立派な大人だぞ。気安く抱きつくな!」

「えぇ~? さっきは成長が遅れてるとか言ってたじゃない。それってまだ子供ってことでしょ」明歌の言葉に海里はショックを受ける。

「隼優、そりゃあんまりじゃない? 僕はこれでも法律上、れっきとした成人男子なのに」

「ほら、海里もこう言ってる」

「でも明歌ちゃんのハグは大歓迎だよ~」海里は照れ笑いを浮かべた。

「なんだとぉ……!」隼優がむっとした。

――まったく、なんてめんどくさい焼きもちだろ、と海里は隼優の意外な子供っぽさをからかいたくなった。

 再び四人は車に乗り込む。たくみが運転しながら言った。

「やっぱり旅っていいですねぇ~、みんなすっかり仲良くなっちゃって」

後部座席で少しむくれている隼優をルームミラーで見ながら、助手席の海里がつぶやく。

「たくみもだいぶ目ぇ曇ってるよね」


「ふぅ~今日は走ったからおなかすいた!」明歌たちは地元のシーフード料理が食べられるというレストランに着いた。

「走った――って、たったの二百メートルぐらいだぞ。おまえの行く末が不安だよ」隼優はいつも明歌の天然ぶりに圧倒される。

「地元っぽいものが食べたいんだけど、なんかありますか?」海里がウェイトレスに尋ねた。

「日本からいらした方は間違いなくブルークラブを召し上がりますよ。この写真の蟹です」

「すごい。本当に青いんだ。みんな、このゆでたやつと蟹のスープとかどう?」

「いいですね。明歌さんはサラダも欲しいでしょ?」たくみは明歌が病気だった頃からヘルシー志向なのを知っている。

「俺はそれでいい」隼優は以前、ブルークラブを食べたことがある。だが、蟹のスープというのは初めてだったので、楽しみな様子だった。


 四人がブルークラブの料理を堪能していると、突然ドラムの音が鳴った。ジャズの演奏が始まったのだ。

「うわぁっ、かっこいい~ここってレストランなのにライブハウス並の設備があるんだね」海里が小さいステージを眺めながら言った。

しばらくすると、マスターらしき老人が四人のテーブルへ向かって歩いてきた。

「日本人のお客は久しぶりじゃの。どうだい、お嬢ちゃん、何かひとつ日本の歌でも歌ってみんかね」

「え? でもこのお店、プロの人が演奏するんでしょ」明歌がたどたどしい英語で尋ねた。

「ここは庶民的な店じゃからの、誰か歌ったところで誰も気にしやしない」

「そぉなの……じゃぁ、一曲だけ」

 明歌が立ち上がり、マスターが手をひいた。咄嗟に隼優が明歌の腕をつかむ。

「待て!こんな大勢、人がいる場所で歌ったら――」

「隼優さん、マスターの言う通りに」たくみが隼優を止めた。

「――たくみ。おまえが……イヤ、違う。大先生が仕組んだことか!」隼優は明歌を連れてきた加納の真意に気が付き、怒りのあまり、自分を制御できない。

「隼優さん、落ち着いて。これだけは信じてください。明歌さんは絶対に大丈夫です」

隼優はたくみを突き飛ばす。それに気づいた明歌がテーブルへ戻ってきた。

「隼優!なに、ケンカしてるの? たくみ、大丈夫?」

「明歌、おまえ、人前で歌うことがどんなに危険なことかわかってんのか」

明歌は悲しそうに微笑んだ。

「隼優。じゃぁ、私はこの先もずっと何かにおびえて、日の当たらない場所に隠れてなきゃいけないの?」

隼優は明歌の言葉に動揺した。

「歌っても歌わなくても私の運命はそんなに変わらないわ。でも、私は怖くない。隼優もみんなも私が堂々と道を歩けるようにいつも導いてくれる。だから私は大丈夫よ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ