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車で待機中の海里は、日本で技乃が開発した超小型ドローンの説明を受けている時のことを思い浮かべる。
「技乃、このゴーグル、すごいよ~ドローンが後方から撮ってる映像、そのまんま転送すんだね」
技乃という青年はあまり冗談が通じないバリバリの理系だった。
「厳密にはそのままではありません。動いている物体のスピードがわずかに遅く見えるようなしくみを備えています」
「スローモーションってこと? だけど生中継でスローは無理じゃないの」
「あくまで人間の脳が知覚できるように瞬時に補正する程度です」
――意味不明だ。海里は理解できないことを誤魔化そうとして目が泳いだ。
「だけどさぁ、何なのよ、このゴーグルの形は。何とかならないのか」
「どうにもなりません。それは加納先生が考案されたんですから」
「だめだよー。先生はセンスないんだから~」
「海里さん。」技乃の瞳がキラッと光る。
「何よ」
「それは本当にセンスの問題なんですか」
「……え?」
一方、明歌たちは海里の車に向かって、必死の形相で走っている。
「右斜め!」
「かがんで!」たくみが二人に次々と指示を出す。たくみの指示でスナイパーの銃弾はかすりもしない。
走りながら隼優は「こいつ……人間じゃねぇ!」と度胆を抜かれていた。たくみから見れば、隼優の武術の方が人間技ではないのだが……
三ブロック先を右へ曲がると、海里の待つグレーの車が見えた。
「あれか!」
「後部座席に乗り込んだら、頭を低くしてください!」
隼優は明歌を先に車へ押し込み、自分も乗り込む。最後にたくみが乗ってドアを閉めた。海里が車を発進させる。
「ふわぁ~」三人は後部座席でへたり込んだ。
「大変だったね~ハチ子が大活躍だな」海里は運転しながら他人事のように言う。
「──ハチ子?」明歌が海里に聞いた。
「そう、ブンブン飛んでたでしょ? 蜂みたいなのが。あれがハチ子。先生が名付けたんだ」
「あれは、超小型ドローンなんです。技乃が開発したんですよ。あれを上空に飛ばしていたから、スナイパーが一人しかいないとわかったんです。それとハチ子はカメラを搭載しているので、後方の映像をこのゴーグルの右側に送るんですよ」
たくみはゴーグルを外しながら説明した。
「それはわかるが、いくら映像が見えるからって、たくみはあの弾が見えんのか?」隼優はさっきからそれが気になっていた。
「弾自体はさすがに見えにくかったけど、銃口が向いてる方角ははっきりわかりました」
「それに、たくみは動体視力の訓練を受けているしね~。インストラクターがさじ投げたらしいよ。たくみが優秀すぎて教えられなくなっちゃったんだって」
海里の口調がどうもへらへらしている……
「加納さんは僕たちに相手の攻撃をかわせるよう、さまざまな事を教えてくれるんです。明歌さんは無理だけど、僕が見たところ、隼優さんもこの程度のことはできるようになります」
「私は訓練を受けてもダメなの?」明歌がたくみに聞いた。
「運動神経と連動しているので。難しいんじゃないかと……」
「残念だったな。明歌。」隼優が得意げに笑った。
「さぁ、海里。そこで止めて。もう大丈夫だから運転を変わろう」たくみが後方から海里の肩を叩いた。
「おいっ、まさかまだ酔いが醒めてねぇのか!」
「へへっ、大当たりぃ~」海里がそう言うと車がよろけた。
「きゃあぁっ!」明歌もバランスを崩して悲鳴を上げた。