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その世界を照らしに  作者: そいるるま
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3章 8


 英隼(えいしゅん)の商社はベンチャーからのし上がった宇宙関連企業だった。宇宙で使用できる燃料や食べ物、飲料など、さまざまな製造に取り組んでいる。


「おいおい、親父は社長かよ」隼優(しゅんゆう)は英隼の部屋を見回す。


 英隼は役員のため、かなり広い個室が与えられていた。世界各国に支社があるが、ルクトではほとんどトップのようなものだ。


「日本人はみんなびっくりするね。でも、ルクトではまだ中堅クラスだよ。ウチはまだ成長途上だからね」

「どうせ親父が客をたらしこんでるんだろ。前の会社でもそうだったからな」

「人聞きの悪い……明歌(めいか)ちゃんは城かい?」

「うん、まぁ、いろいろ事情があって置いてきた。それにしても毎日、びっくりするようなことばかりだ」

「ロイク様かな」英隼は笑った。

「それもあるが、城なんて初めて入ったからさ。飛行機だってすごかったし…」

「君、王室専用機に乗ってきたって言ったね。ロイク様は君たちに賭けているんだな……」

「やっぱり、普通はないよな」隼優が首をかしげる。

「いくら王室のものだからって、あれを飛ばすのもけっこう金がかかるからね」

「ロイク様は大先生のためなら何でもしちまうんだよ」


 ……なんでも? 英隼は一抹(いちまつ)の不安が頭をよぎったが、すぐに打ち消す。部屋には隼優のために買っておいたルクト市内のマカロンがある。それとコーヒーをテーブルに出した。


「まだ、しばらく滞在するんだろう? 次は明歌ちゃんを連れておいで」



「ねぇ、海里(かいり)。お庭を散歩してきもいい?」

「ダメダメ。城の中にもヘンなやつが(ひそ)んでるかもしれないでしょ」

 明歌は海里とたくみの部屋にいるが、二人ともなんと仕事をしているのだ。今はパソコンさえあれば、会議もできるし、データも打ち込める。さすがに長期間、加納(かのう)とたくみの後輩だけに雑用をまかせておくのは無謀だった。リモートでもできる仕事はさくさくこなさなければならない。

「じゃあ、部屋に戻って休む」

「あとで様子を見に行きますからね」

 たくみがパソコンの画面を見ながら言った。



 明歌は部屋に戻って気分転換でもしようと、バルコニーに出た。外用の椅子とテーブルが置いてあり、まるでホテルのようだ。こちらの気候は涼しくて実に過ごしやすい。日本のじめじめした湿気は感じられないからだ。


「メイカ~ 降りてらっしゃいよ~」

 下から誰か呼んでいる。日よけの帽子をかぶっているせいか顔が良く見えないが、誰だろう。全く見覚えがない。

「あ、あの~ 初めまして。わ、私のこと、ご存じなんですかぁ?」

 明歌は下へ向かって叫んだ。

「ちょっとぉ、どーしちゃったのー? 私よ、私! 一緒に夕食、食べたでしょ」

 ま、まさか……明歌は顔面蒼白になった。

「お……王妃さ、妃殿下!? で、でもあの、えええ~?」


 明歌が驚くのも無理はなかった。あの時はムスッとしてほとんどしゃべらなかったフィリーネがまるで友人にしゃべるかのように声をかけ、薄化粧のパンツスタイルで庭木を手入れしているからだ。

 明歌は部屋を出て急いで階下へ降り、またしても失礼な物言いをしてしまったことをたどたどしい英語で()びた。


「あははは! 気にしないで。こっちこそ、ディナーの時は黙っててごめんなさいねぇ。あの時はオーバンがいたから話せなかったのよぉ。あの人、正式な場で私が何かおかしなこと言うと怒るから」


 フィリーネは元々、貴族でも資産家でもなかった。庶民出身で王室に入ったせいか、何十年たった今でも王室のしきたりにはなじめない。仕方なく、ある時からしゃべらなくなってしまったのだ。


 アルベール国王は皇太子時代、お忍びでリゾートの居酒屋に入ったことがあった。学生時代は仲間と騒ぐこともあったが、社会人になってからはそういう交流の場がめっきり減った。庶民がどんなふうに楽しんでいるのか、視察も兼ねて久しぶりに体験したかったのだ。


 その時、近くに座っていたフィリーネが声をかけた。

「お兄さん、どっから来たの? 私、明日仕事休みなの。よかったら一緒にボートでも乗らない?」

 当然だが、一瞬、壁際に待機していたボディーガードが警戒した。アルベールは手をあげてフィリーネにバレないよう彼らを制した。

「お嬢さん、私がどこの誰かもわからないのに、そんな簡単に誘ってはいけない。危ないだろう?」

 フィリーネは頬をふくらます。

「……私だって、誰も彼も(だれもかも)声かけるような女じゃないわよ。なんか、あなたを見た時、気が合いそうだな、って思っただけ。気に入らなかったんならごめんなさい」

 フィリーネがしゅんとしてしまったのを見て、なぜかアルベールは心が落ち着かなくなった。

「わかった。ボートなら私が借りてあげよう」



 翌日、マリーナでボートを見たフィリーネは呆気にとられた。

「ね、ねぇ、これ、ボートじゃないわよぉ~」

「ボートを貸してくれ、と言ったらこれが出てきたんだ。ボートには違いない」


 フィリーネが驚くのも無理はなかった。形はボートには違いないが、とんでもない大きさだった。もちろん、数日なら航海できるほどの設備がすべて揃っている。


「ちょっとぉ、もしかしてあなたお金持ちなの?」

「少し違うかもしれないが、そうかもしれない」

「意味がわからないわよ」

「さぁ、美味しいワインを用意してあるよ。中に入ろう」


 結局、二人は驚くほど気が合って、すぐに正式なつきあいをするようになった。フィリーネの勘が当たった、というところだろう。


 しかし、庶民が王室に入るというのは、とんでもないストレスだった。子供の頃から社交界に出入りしている資産家の娘たちとは育ちが違うからだ。


 とはいえ、庶民出身であり、気さくで分け隔てのないフィリーネは国民に歓迎され愛されている。各国の上流階級が集まるような場では言葉を慎むようになってしまったが、それ以外の場所では概ね、昔のままだった。


 明歌はなぜか、フィリーネに親しみを感じた。ああ、お母さんに似ている……と。

 お母さんもおかしなことを言って、周囲を驚かせるが、愛情深い人であることに変わりはない。

そういえば、私、こんなに長いことお母さんと離れて暮らすの初めてだ……なんか、ホームシックなのかもしれない。外国に来たのもまだ二回目だって言うのにいきなり城に宿泊なんてよく考えたら疲れて当然なのかな……明歌は急に日本が恋しくなった。

淋しそうな目をする明歌を気遣ってフィリーネが声をかける。


「見てみて~ この花、ルクトの国花なのよ」

「わぁ、キレイな星型ですね」

「ファブがこの花を育てるといつも喜んでくれるのよ。あの子は星が好きだから」

「──星が?」


 その時、後ろから二人を呼び止める声がした。振り向くと、この城には似つかわしくない妖艶な美女が立っている。


「フィリーネ様、彼女をお借りしてもよろしいかしら?」






 どこから来てくださっているのかわからないのですが、去年から今年にかけて、本当に多くの方が訪れてくださって感謝しています。


 以前、更新が何年も途絶えてしまったことには理由があります。私自身、3年近くも外出ができないほど歩けなくなってしまったのです。


 まさか、人生がこんなことになるとは思いもよらなかったです。

 この物語よりも奇異なことが起こって、ホントに驚いています(笑)


 まだ一度も感想とかいただいたことがないのですが、ぜひ勇気を出して、一言でもいただけると嬉しいです。

 きっとそれによって更新ももう少し早くなるかとw


 元々、この物語は4,5人しか読者がいなかったので、どこかで終わってもまぁ、いいかな、と思っていたのですが、最近は一気読みしてくださる方も多く、継続の喜びを感じています。


 この前編はまだまだ新しいキャラクターが登場するので、ぜひ楽しみにしていてください。



 

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