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「資金があって強固に見える団体だが、実情はそうでもない。せっぱつまっているからこそ派手なイベントなども企画するし、息のかかった議員の票を無理やり集めようとする」
「ふーん、そんなもんか、組織って」
「そんなものだよ」加納は交渉にあたって、NDAの調査を依頼していた。
「しかし、広大なアメリカでは事件が起こっても警察が到着するまでには時間がかかる。自衛のための銃を規制することは難しいだろう」
「だが、銃じゃなくったっていいだろ。身を守れるものなら。いくらでも他に開発できそうだけどなぁ」
「もちろん、そうだね。ただ、あれだけの組織の牙城を崩すにはまだ時代が早すぎる。国民の命を守るためにどうすればいいか、それが最優先の課題だ。彼等が一番恐れているのは自分たちの利権がなくなってしまうことだ。国民が銃を捨てれば、自動的に規模が縮小していくからね」加納が意図しているのは、無理のない安全な社会への移行だ。
「彼等は今、航空会社や金融からもそっぽを向かれているらしい。銃メーカーも苦境にあえいでいる。つけ入るとしたらそこしかない……」
隼優は加納の意図を慎重に伝えようと、落ち着いた声で話し出す。
「あんた達は銃を規制しなくったって進化はできる。引き続き、自衛の権利も行使できるだろう……新しい何かに取り組みさえすれば」
「――新しい何か?」
「そうだ。俺たちが提案したいのは、新式の銃への投資だ」そう言って、隼優は持参した銃の設計図を広げた。
「この銃の開発はもうニュースで流れたから知ってるだろう。標的を殺さない拳銃だ」
「麻酔銃のようなものかね? そんなものでは、我々の身は守れんよ」
「全く違う。麻酔銃は一般人には扱えないだろ。このサイズじゃ飛距離も出ない。だが、この銃なら万が一ケガをしてもせいぜいかすり傷程度だ。通常より太い注射針がいきなり刺さったようなとんでもない痛みがあるらしいけどな」
「そんな都合のいい銃があるか!大体、そういった銃は銃弾の速度が遅い。相手の動きを止めるほどの衝撃など与えられないのだ」アランは動揺し、唇がふるえていた。
「まぁ、そういった通常の疑問点は全てクリアしていると言うことだ。銃弾の発射速度は勝手に調整されるし、おまけにかなり離れた場所からでも確実に撃てる。こいつを使えばあんた達の同胞が銃をぶっぱなしたいっていう欲求にも対応できるだろ」
――ああ~また挑発し始めた、と明歌とたくみが下を向いて青ざめる。
「おまえはどれだけ我々を愚弄すれば気がすむのだ……」アランの堪忍袋の緒が切れかかっている。
「今、あんた達がこの銃に方向転換すれば、たちまち全米中の英雄だ。トチ狂ったやつにも至近距離から反撃できる。殺傷能力がないのに、相手の動きを止められるんだ。全米中が食らいつくぜ」隼優の言葉に、何か思うところがあったのか、アランともう一人の男性がわずかにひるんだ。
それからしばらく、アランは黙り込む。
「――わかった。幹部に伝えよう。その資料を見せてくれないか」
「おいっ、何だよ。二人とも。なんでふてくされてんだ?」
交渉の後、三人はNGAの本部を後にし、近くの公園へ歩き出した。だが、明歌とたくみはすっかり精神を消耗していた。
「だって、隼優があの人達を挑発しまくるから、私もたくみも怖くてふるえてたのよ」
「隼優さんは図星をつくのが趣味なんだとようくわかりましたよ!」温厚なたくみですら皮肉を言う。
「俺、本当のことを言っただけなんだけどなぁ」隼優は憮然とした。
公園の近くまで来ると、鳥の鳴き声が響いてきた。
「わぁっ、見て~!すずめじゃないよ、これ。やっぱりこっちは道端でもこんな可愛い鳥が出てくるのね」
日本ではあまり見かけない小鳥が歩いていた。明歌が駆け寄った途端、「ガガガッ」という音とともに、小鳥がふっとんだ。
「明歌!!」隼優が明歌の後ろに立ちはだかる。
「あの木の陰へ!」たくみがすぐ近くの街路樹を差し示し、三人は木まで走って裏側へ滑り込んだ。
たくみがリュックから何かを取り出しながら言う。
「隼優さんがケンカふっかけるからですよ!あれじゃあ火に油をそそぎに行ったようなもんだ」
「ちっ、俺のせいかよ。」隼優はたくみがかけた不格好なメガネに唖然とする。
「――ん? なんだ、そのゴーグルみたいなメガネは。全然似合ってねぇぞ」
「そうなんですよね……加納さんてデザインのセンスがどうもイマイチみたいで」
「あの大先生にそんな弱点があったのか」
「日常生活では穴だらけです。考えることが壮大すぎてそこまで気が回らないんじゃないでしょうか」
再度、「ガガガッ」という射撃音が響く。たくみは二人に指示を出した。
「二人とも、海里が三ブロック先に車で待機しています」
「ええっ? 海里ってば、あの二日酔いで起きれたの?」
「やっとね。ここから車まで僕の指示通りに走ってください。そうすれば大丈夫。追って来てるスナイパーは一人だけです」
「なんでそんなことがわかるんだ?」
「詳しい話は後で。行きますよ!」