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その世界を照らしに  作者: そいるるま
37/41

3章 4

 ルクトシュタインの王室専用機は一般の旅客機と比べてかなり小型だったが、内装には他国の政府専用機よりも力を入れたのがわかる。

「すごい……まるでホテルだね」(せい)が機内を見渡して目を見張る。

「ルクトまでの直行便はありませんから……貴重な体験ですね~」たくみは嬉しそうに言った。

「みんな、いいですか。いくら僕たちしかいないからって、後方には王室のスタッフが乗ってるんだからね。はしゃぎすぎないように!」海里(かいり)が念を押す。

「そんなにはしゃいでるか、俺ら」隼優(しゅんゆう)は念のため、機内の装備を見回していた。

明歌(めいか)ちゃん、こっちおいでよ。ベッドが超豪華だ」誠が寝室のドアを開ける。

「わぁ~シルクかなぁ、さらさらね」

「そこ! 機内で不純な行為をけしかけない」早速、海里が注意を促す。

「海里、ここミニバーがありますよ! ……って、これもはやミニって感じじゃないけど。これ、ルクトの銘柄かな。見たことないですね」たくみは初めて見る酒を珍しそうに眺めている。

「ええ~? 飲んでおかないと!」少し落ち着こう、と言い聞かす海里本人までテンションが上がっている。

 隼優は明歌たちの興奮ぶりを見てつぶやいた。

「やっぱりはしゃいでるな……」



 離陸後、興奮しすぎてすっかり疲れ果てた明歌たちはリビングに座って話し出した。

「……誠。おまえがカウンセリングしてんの見たことねぇけど、大丈夫なのか」

「僕は企業に詰めることが多いからね。専務とか社長さんとかも診たことはあるけど、さすがに王子はね……てっきり加納(かのう)さんが行くと思ってたからなぁ。それより英語の方が不安だよ」

 明歌もうなずいた。

「私も英語が不安。毎日加納さんの知り合いから猛特訓を受けたけど、敬語はさっぱりだし……ねぇ、たくみ、私が失礼なこと言ったらフォローしてくれるよね?」

「もちろんですよ! 何のために僕はついていくんです? 皆さんのフォローしなかったら加納さんに帰国させられますよ」

 誠が少し困ったように機内のきらびやかな天井を見上げる。

「でもなぁ……ファブリス様と話す時は通訳は介せないしね。国王や王宮のスタッフと話す時は手伝ってもらうかな。──隼優は意外だよね~勉強嫌いなのに英語ペラペラなんだから」

「俺は仕方なくだ。空手だけでよかったのに、じーさんが世界中の格闘家のとこへ俺を放り込んでさ。少林寺の師匠なんて中国語だったから、修行が終わって帰るときすら何言ってんだかわかんなかったよ」

「へぇ~格闘技って意思の疎通がなくてもどうにかなるんだ。ある意味スゴイな」誠が感心する。

「いや、どーにもなってなかったと思うけど。よく意味不明なことをわめいてたからなぁ……」隼優は当時のことを思い出して眉を寄せた。



 ルクトシュタインはドイツとフランスの国境沿いに位置する小国で、日本で言うところの各県にあたるような大きさだ。当然、空港も首都にひとつ。首都名も国名と同じルクトシュタイン市と言う。


 明歌たち一行は王室のスタッフの案内で着陸後、すぐ専用ゲートから車に乗り込んだ。海里とたくみが前の車、あとの三人は後方の車に乗る。


「うわー、お店の看板とか全部フラ語だよ~英語通じるのかなぁ」明歌が市内を興味深げに眺めている。

「親父が会話は全部英語でなんとかなるって言ってたけど、ショーウィンドーがないと何の店だかわからないな」隼優は英隼からルクトについての話を聞いていた。

 欧州の金融を全てとりしきっているとまで言われる市内には昔ながらのレトロな建物と近代的なビルが乱立していた。


 しばらくして誠が前方に見えた巨大な建物を指さす。

「……あ、あれじゃないか。城」

「はい、あちらが宮殿になります。本日、ロイク様がお帰りになるかどうかは不明ですが……」

 同乗していたスタッフは、いつもゲストを乗せるたびにロイクについてこんな風に話すのだろう。明歌たちは顏を見合わせてくすくす笑った。



「しばらくこちらでお待ちください。侍従のオーバンを呼んでまいります」

 明歌たちは到着するとまるで美術館のエントランスかと見まごう豪奢な広間に通された。

「すご~い!! 絵がいっぱい。ねぇ隼優。コレ誰の絵かなぁ」明歌は広間に飾ってある複数の絵の中で風景画を指さした。

「俺に絵心があると思うか」

「画家はわからないけど、確実に有名な人じゃない」誠はこの独特のタッチに見覚えがある。美術の教科書に載ってた絵なのだろう。

「なんか……よくあるよね。観光ツアーでお城とか見るやつ。あれに来た気分だなぁ……」海里が緊張した面持ちでつぶやく。


 その時、広間の入口からひょいっとのぞいている人物がいた。

「あの……いらっしゃい。よかったら僕が部屋を案内しますから、こちらへどうぞ」

 城のスタッフだろうか。人懐こい笑顔を浮かべている。ダークブルーの瞳が印象的な青年だ。

「あ……ありがとうございます。あの……オーバンさんを待っているんですけど、大丈夫でしょうか」明歌は念のため、聞いてみる。

「ああ……そうなんですか? たぶん大丈夫です」


 その青年は客間まで明歌たちを案内するため、まず三階まで上がった。そして廊下を歩き出した時、明歌に話しかけた。

「ええっと、君がメイカだよね。話には聞いていたけど、とてもかわいらしいお嬢さんだね。君の部屋はミスタークラトの続き部屋だと聞いてます」

 その時、誠とたくみが気づいた。まさか……


「ファブリス様! 何をなさっておいでですか!」

 侍従のオーバンとメイドが息を切らして階段を上がってきた。

 明歌たちは全員、王子をスタッフと勘違いしていたことに気づき、一瞬で凍りつく。

「オーバン。今ね、お客様を部屋にご案内しようと思って」ファブリスはにこやかに言った。

 オーバンは困惑している。

「王子が私共の仕事をなさる必要はありません」

「でもね、兄上が到着したら真っ先に彼らに挨拶するように……って」

「しかしそれは……」

「オーバンさん」

 誠が二人を見かねて口をはさむ。

「ファブリス様は私たちを無理に案内したわけではないんです。旅路で疲れている私たちに一刻も早く部屋で休んでもらえれば、と言う親切心かと。ですから大目に見ていただけませんか?」

 オーバンは初対面のゲストの前で王子に小言を言い出したことを丁寧に詫びた。そして改めて王子を紹介する。

「皆様、こちらがルクトシュタイン王国の第二王子であるファブリス様です」

「君たちがいらしてくれたことが嬉しくて、僕すっかり名前を言うの忘れちゃった。勘弁してくれるかな」

 明歌たちはその青年がファブリスだとわかって、全員がほぼ同じような疑問を抱いた。


 ──この王子の一体どこに精神的な支障があるのか? と……



長い休載でしたが、また始動しました。エタることは今のところありませんが、こういうことはまたあるかとは思います。


こんな感じなんで、新しい読者さんは来ないかと思っていましたが、めざメンター?経由でしょうか、見つけていただけることもあります。何にせよ感謝です。

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