表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その世界を照らしに  作者: そいるるま
31/41

番外編 6

 初回の相談から一週間後、田中(たなか)しげは再び加納(かのう)の元を訪れた。

「この前、業者さんが来てくれて玄関の蛍光灯なども替えてくれました。とても背が高くてね、笑うと息子に似ているような感じがして」

 ……暗示、かけ過ぎたかな、と加納は反省する。

「あの……本若(ほんわか)は以前あなたの目を治した時、何か言いましたか」

 加納は本若の真意をつかみかねている。何かヒントになるような事を伝えていたかもしれないと思い、田中に聞いてみた。

「ええ。何か話したくなったら天宮村(てんぐうそん)へ来なさいって」

 と、言うことはやはり本若は田中の状態を知っていて、本人が言い出すのを待っているのだろう。泰林(たいりん)に対しても同じように接している。


 ふと田中の視線の先にあるものが気になった。冬場に使用する薪ストーブだ。

「──この辺は薪ストーブが多いですね」

「ええ、私も町から嫁いだので、この村へ来た時は使い方がわからなくてね。主人が薪を割ってくれました」

「ご主人は活動的な方だったんでしょうか」

「庭いじりですとか、家のことは好きでしたから、おかげで私は楽でしたけど……本当にそんなにしなくてもいいのに、と思うほど良くしてくれて……」

 そう言うと、田中はうつろな目をして黙ってしまった。

 そして、加納は気づいた。


 本若が自分をここへ派遣した理由に。


「田中さん。また来週もこちらにいらっしゃいませんか」



 加納は本若のいる家屋へ戻った。

「兄ちゃん、おかえり。ごはんできてるよ」泰林がのろのろと歩きながら加納を出迎えた。

「ああ、泰林。ありがとう。……じいさんはいるかい?」


 本若は囲炉裏の前に座って食事の支度をしていた。

「──聖。腹が減ったろう。よかったら座りなさい」

 加納は腰を下ろしてからしばらく囲炉裏の火を見つめていた。

「……じいさんは全てお見通しだな」

「そうじゃな。ある程度当たりをつけておかんと人間はすぐ病むからの」

「田中さんをそのままにしていたのは、本人が自分で気づくのを待っていたからですか」

 本若は汁物の鍋をかき回していた手を止めた。

「……聖。おまえは優しすぎる人間だ」

「私はドライアイスよりも冷たいと知り合いに言われましたよ」

「その知り合いとやらは、おまえとは別の世界を見て生きている。おまえの優しさに気づくことはないであろう。何かに気がつけば話は別じゃが」


 本若も加納も、アルコールの嗜好は一切ないが、真紀が漬けたという梅酒を少しだけ器へ注いだ。

「人を癒す職業の人間は一歩間違えば短命だ。特に同情と分析を履き違えとる場合はな。透視や予知など霊能力を使わずにすむカウンセラーですら例外ではない」

「だが、じいさんは健康そのものだ。人への優しさも俺が持っているものとは違う」

 本若は穏やかに微笑んだ。

「本来、人間は自分で立ち直れる力を持っとる。まず、そのことをしっかり心に刻むのだ。そうすればクライアントの真の自立に立ち会える」



「ロイク様!! どちらで遊ばれてたんですか!!」侍従のオーバンは城へ戻ってきたロイクに小言を言い出した。

「電話にはお出にならないし、迎えにやった警護の者たちを投げ飛ばして逃げるなど、他国の王子はそんな非道はなさいませんよ!」

 ロイクは格闘技に秀でているため、狙撃以外では大抵のトラブルに自分で対処できてしまう。

「手加減してやったんだからケガなど負ってないはずだ。大体、なんで私が遊んでると決めつける」

「じゃあ遊んでなかったんですか」

「いや、遊んでた」

「やっぱり……ファブリス様が国王代行で憔悴(しょうすい)しきっているというのに!」

ファブリスはロイクの弟である。

「何のことだ」

「なぜご存じないんです」

「いや、せっぱつまった時以外、連絡してくるな、とファヴに言ってたし」

「何てことを仰せになってたんですか。ファブリス様は真面目なんですから、あなたに助けを求めずに耐えてらっしゃったんですよ」

「困ったやつだ」

 オーバンは顔を真っ赤にして怒り出した。

「困ったお人はロイク様です! もうとっくにせっぱつまってるんですよ、国王が……!」

 ロイクは父親の状態を知り絶句した。



 その日は三度目の田中のカウンセリングだった。加納が田中と部屋で話していると、待合室がざわめいた。

「──あら、何かしらねぇ」

 その途端、ドアがバンっと開く。

「私は見栄村の村長だ。この心理センターは本日をもって閉鎖する」


 やれやれ、ややこしいのが来たな……さぁてどうするか……と、加納は考えを巡らせる。おそらくこの一方的な行為は、本若のやらかした事の余波なのだろう。

「……わかりました。だが、今はクライアントの診察中です。勝手に診察室へ入るような振る舞いはやめていただきたい」

 村長は加納を見て少し驚いていた。つい最近、大学を卒業したような風貌にしか見えない。これが本当に本若の弟子なのか。

「……おまえは本若の弟子だそうだな。またうちの村で怪しい商売を始める気か」

「怪しくはありません。私はただの心理カウンセラーですよ」

「本若もおまえと同じような言い訳をしながら、次々と患者の病気を治しおった。おかげでこの村の病院は存続の危機に立たされていたんだ」

 じいさんのやつ……余計な手出しをしているのはどっちだか。

「あのじいさんにそんな能力はありませんよ。人々の相談に乗っただけでしょう。体調が良くなったのは偶然です」

「何から何まで同じことを言うな! 気味が悪い!」

 あれっ?じいさんも同じことを言ったのか。加納はなんだかおかしくなってきた。


「さぁ、あんたもこんな怪しい人間に関わってないで病院へ来なさい」そう言って、村長は田中の腕をつかんだ。

「ああ、い、痛い……離してください」

 加納の目が光る。

「──全く人の選択を尊重できない村長だ」

「若いくせにダジャレを言うな!」

 その瞬間、田中をつかんでいた村長の手が硬直する。

「うっっ、手……手が動かん。ど、どうしたんだ、一体……」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ