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その世界を照らしに  作者: そいるるま
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 結局、手配されたホテルはコンドミニアムのような形態で、一階にカフェテリアがついていたため、食事をするには何かと便利だった。部屋も四人が一緒に生活できるファミリータイプであったため、男女別々で寝起きが出来る。

 居間では、たくみと隼優が明日の交渉について話していた。

「なぁ、たくみ。こんな代替案にあいつらが少しでも興味を示すと思うか」隼優はそう言って明歌が入れたコーヒーに口をつける。

「無理でしょうね。加納さんもそのあたりはご承知かと」

「――それでも交渉するメリットがあると?」隼優には加納の真意がつかめない。

「ええ、それは……」

たくみが話を続けようとした矢先、明歌が居間に飛び込んで来た。

「ねぇっ、今おふろでね、バタって音がしたの! 海里が入っているんだけど」

「あいつ……!何やってんだ」

 隼優が風呂場へ走って行き、ドアを開ける。すっかり酔っぱらって真っ赤な顔をした海里が倒れていた。隼優が海里にバスタオルをかけると、海里!しっかりしろ、と言いながら頬をパチパチたたく。たくみと明歌も脱衣所から覗き込んだ。

「こいつ……見かけが未成年のくせに酒飲んだのか」

「イヤ、隼優さんより年上ですから」たくみが困ったように言う。

「何言ってんだ。骨格が未成年てことは、フツーの人間より成長が遅れてるに違いないんだ」

「それホントなの?」明歌が隼優を疑いの目で見た。

「よくいるだろ。ものすごい年食ってるのに、どう見てもその年代より若く見えるやつ。その反対もいるけどな。大体、なんでこんな強い酒に手ェ出してんだ?」

「海里は英語が読めないんで。そう言えば前にも適当なお酒を飲んじゃったら、なんとウォッカだったんですよね。」と、言ってたくみは遠い目をした。

「弱ったなぁ。明日は海里に運転してもらうつもりだったのに。とりあえず、行きはタクシーで行きますかねぇ」

あれ? 確かたくみも国際免許持ってたはずだけどな、と隼優は不思議に思った。


 「ねぇねぇ、公園がいっぱいある! 帰りは観光しよーよ。私、外国初めてだし、いろいろ見てみたい」NGAの本部へ向かう途中、明歌はタクシーの中で初めて外国へ来た興奮を抑えきれなかった。

「おまえを見てると遠足に来た気分だよ。」隼優は明歌を見て、交渉への緊張感が薄れ、少々気が抜けたようだった。

「あ、そうそう。今日のディナーはもう予約してありますからね。せっかくだから地元らしい店に行きたいでしょ」

「え~!楽しみ。たくみはさすがね!」

――いや、僕が手配したわけじゃないんだけど、とたくみは心の中でつぶやいた。


  NGAの本部へ到着すると、スタッフが明歌達を応接室へ招き入れた。

「やぁ、日本からよく来たね。セイから話は聞いているよ」外国人は少しでも知り合いになると、仕事相手だろうと何だろうとすぐファーストネームで呼んでくる。この人物は名をアラン・フェリーニと言った。イタリア系の移民なのだろうか。加納とは何度も電話で話しているらしい。

 交渉に応じたのは幹部に近い位置にいる二人の人物だった。アランは中年の男性で、もう一人はまだ三十代ぐらいの男性だ。話だけは聞くが、交渉の余地はない、と言った様子で歓迎ムードとは程遠い。

「セイから聞いているとは思うが、我々は銃の規制に関して話し合うことはできない。日本では一般人が銃を持つことはできないようだが、我々の国がたどってきた歴史と事情が全く異なる事は君たちも知っているね」

 隼優は外国へ出かけることが多かったため、ある程度英語が聞き取れる。たくみはアランの言葉を簡単に訳した。

「むろん、承知だ。だがあんた達はそうやってこの先もずっと歴史にとらわれて進化しないつもりか」

 たくみは隼優の言葉に目を見張る。

「世界はあんた達みたいな力のある国がなぜ国内で同じ事を延々と繰り返しているのか、不思議に思っているだろう」

たくみが隼優の言葉を訳すと、アランともう一人の男性の顔がこわばるのが分かった。

「我々の進化と銃の規制は別問題だ。銃を所持しているからと言って、進化できないわけではない!」アランは怒りのあまり、声を荒らげる。

「そうだ。全くあんたの言う通りだよ」最初から強硬な姿勢をとった隼優が急に賛意を示したので、アラン達はわけがわからず狼狽した。

「実はあんた達も、もう飽きてきたんじゃないのか? 派手なイベントを連発したり、多額の資金を積んで議員を丸め込んだり、組織を存続させるのに必死だが、憲法で守られてきた自衛の正義すら揺らいでいる」

「我々はそれをするのが使命だ。喜んでやっている。建国の理念は絶対なのだ。おまえのようなよそ者にとやかく言われる筋合いはない」

 アランの組織に対する忠誠心にはアタマが上がらねぇや、と隼優は思う。――さて、どうするか。隼優は加納との対話を再び思い出す。



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