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その世界を照らしに  作者: そいるるま
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番外編「加納の師匠」1

挿絵(By みてみん)


「やぁ、ポール。調子はどうだい」

 加納(かのう)はかつて治療に通っていたクライアントが久しぶりにカウンセリングルームへ来たので挨拶した。

「先生、俺はもうここへは来ないよ。先生のおかげですっかり足を洗った」

「──ん? じゃあ今日はどうしたんだい」

「いや、今度はこいつの面倒を見てくれよ。俺の親友なんだよ」

 カウンセリングルームに入ってきた男はすっかりやつれていた……



 当時、加納聖(かのうせい)はアメリカのとある田舎町にあるカジノに勤務していた。このカジノには依存症に対処するカウンセラーが常駐することになっている。

 どこの国も都会を離れれば娯楽が少ない。特に大人が暇つぶしに、カジノで遊ぶことが習慣になっている町だった。

 しかしどんな娯楽も度が過ぎればただの毒でしかない。加納は若い頃、まだ物事を俯瞰することができず、その天才的な能力を抑える力にも乏しく、毒にまみれた依存症の患者たちを次々と治していた。



「──セイ。君のカウンセリング能力はスゴイな。僕なんか1人の患者をある程度治すのに、半年かかることもあるのに」

「そう……かな。いや、荒療治をするのは借金を抱えている人だけだよ。急を要するからね。本来なら、時間をかけた方がいいこともあるし」

 同僚のカウンセラーはいつも加納の言うことが理解できない。どんなに頑張ったって短期で結果を出すのは難しいと言っているのに。大体、依存症などの精神に異常をきたしている人間を正常に戻すのは至難の業だ。何年たっても全く改善が見られない患者もいる。それなのに、加納はまるでカウンセリングの期間をコントロールできるかのように言うのだ。


 加納は二十代の頃、すでに人生の様相が多くの人間とは違っていた。そのため、何かへの依存はほとんどなかったが、カジノのカウンセリングをするにあたっては、各ギャンブルの性質を理解しておく必要があった。


 どんなゲームなのか、ほとんど知らなかったが事前に本を読み漁り、とりあえず体験をしなければと、ある日ポーカーのテーブルに座った。田舎町なので、満席などということはほとんどない。


 そのテーブルでは一般人に人気のテキサスホールデムというゲームが行われていた。加納は相手のカードを透視することができるが、それでは依存症の理解につながらない。ほぼ自分の特殊能力を抑えて参加した。

 ポーカーというのは多かれ少なかれ心理戦の側面もある。そのあたりに関しては賭け事素人の加納にとっては有利に働いた。加納は視線や表情を読み取る達人だが、逆に言えば隠すこともお手のものだった。


 加納のテーブルには一人だけ田舎にはまったく似つかわしくない人物が座っていた。目立たぬようサングラスをかけ、カジュアルな服装で何とか誤魔化している。

 各ゲームの最後の時点になると、加納とその男性の一騎打ちが多かった。


「──キングのワンペアか」その男性の手札はかなり強い組み合わせだった。

 その日の最後のゲームで彼は加納に勝てる自信があった。しかし、それ以上の組み合わせが成立しない。

 最後に、加納が持っていたカードを見せた。

「フラッシュだ! ここでは久しぶりに見たな」先にゲームを降りて二人の対決を眺めていた男性が声を上げる。

 最終的に加納がダイヤのフラッシュを完成させて勝った。



「へぇ……世の中の人間はこういうことが楽しいのか」とつぶやきながらオフィスへ戻ろうとしたとき、後ろから男性に呼び止められた。

「君、いつもあんなに簡単に勝つのかい?」

 加納は後ろを振り向いた。最後まで加納と競っていたこの場に不似合な男性だ。

 その男性は元々金髪であるようだが、赤っぽい色に染めている。物腰が高貴でかなり家柄の良い人間であることはポーカー中にすぐ気づいた。透視は避けているが、彼の背後に豪華なシャンデリアのようなイメージが浮かんだ。加納は一瞬眩暈がしたが、その時はなぜかわからなかった。

「あ……最後まで残っていましたね。──いえ、私は今日が初めてなんですよ。ルーレットやスロットはやったことがあるんですが」

「私はここでは負けたことがないのに、君のせいで今日はさんざんだ」

 男性は恨み言を言う。加納はクスッと笑った。

「ああ……心配しないで楽しんでください。私はもうここには来ませんから」

「何だと? 君はあんなに強いのに今日が最初で最後だって言うのか」

「ええ、私は全く興味がないんですよ。本当に体験しに来ただけで」

「おまえ……それを俺に教えろ」

 ……ん? いきなり口調が命令形になってるぞ……加納は相手の出自が気になりだした。

「わかった。君、名前は?」

「……ロイク」

「ロイク。ポーカーはね、冷静に対処すればビジネスと同じなんだよ」

 

 加納は特殊な力を持っているせいか、友人がいなかった。ただ、基本的には穏やかで間抜けなところもあるため、知り合いだけは大勢いた。

 ロイクも同じような状況だったためか、二人は意気投合した。加納はロイクの家柄には薄々気づいてはいたが、口にはしなかった。口にした時点で今の関係が終わることをわかっていたからだ。ロイクも加納の不思議な能力には気づいていたが、加納に限らず、彼にとっては他人の状況はほとんど気にならないようだった。



 番外編は当初の予定より長くなっています。

おそらく本編に近いボリュームです。章仕立てにしてもよかったのですが、かなり過去に遡るため、やはりこのまま続行するつもりです。


 今回、おなじみのメンバーは誰も登場しないのですが、とにかくロイクと本若は「こんな人、近くにいたら大変だ……」という感じの人たちなので、それなりに物語を盛り上げてくれるかなと思って書いています。


 また、あまりイラストは描かないのですが、普段から大活躍なのに、やはりこの人もイメージしづらいと言うことで、残念ながら私のイメージより若干ズレてはいますが、こんな感じ?ってなことで掲載しました。誰だかおわかりでしょうか……

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