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その世界を照らしに  作者: そいるるま
16/41

1章 9

 それから約一年後、隼優(しゅんゆう)明歌(めいか)が高等学校を卒業したOBとの交流会に参加した時、佐竹(さたけ)が明歌を見つけて突進してきた。


「さ、佐竹さん」明歌は驚いて隼優の後ろに隠れる。

「誰だ、こいつ」隼優は佐竹が明歌に近寄ろうとするのを止めた。

鹿屋(かのや)さんっ! 僕、君のおかげで京大に受かったんだよ。一年前、僕は鬱が治らなくて勉強どころじゃなかったんだ。でも、君の歌を聴いた日から、なぜかどんどん元気になって、受験勉強もはかどったんだ!」

「そ、そうなんですか。でも、それは佐竹さんの実力です。私は歌っただけで、何もしていませんよ~」明歌は笑ってごまかす。

「いや! 君のおかげなんだ。僕は今までの人生で、こんなに成功したことがないんだ」

「何言ってんだ。おまえ、まだ十八だろ。たった十八年間で何度も成功してみろ。そんなやつ人間じゃねーだろうが」

「そうだよね、君、誰だか知らないけど勘がいいよ! 僕は鹿屋さんのおかげで、人間を超越し始めたのかもしれないんだ……」佐竹は陶酔したような表情だ。

 ──なぜ話がそっちへ行く! と、隼優は怒りを通りこして二の句が継げない。


 隼優と明歌は話があらぬ方向へ行きそうなのを必死に食い止める。しかし、鬱から生き返った人間のパワーは計り知れない。そのうち、二人の会話を周辺で聞いていた卒業生や学生まで集まってきてしまった。



「その後も自分が京大に受かったのは、さも明歌のおかげみたいに言いふらした」

 誠は京大に受かるような秀才のお粗末な短絡思考に、開いた口がふさがらない。

「鬱が治ったのはともかく、京大に受かったのは明歌ちゃんとは関係ないんじゃ……?」

「そりゃそうだ。結局、本人が持ってる力だろ。俺も話がややこしくなりそうだから、気のせいだろって否定しまくったんだけど、噂って怒涛のように広がるんだよ。そのうち『明歌とカラオケに行って元気になるツアー』みたいな企画までするやつが現われた」

 うわぁ、僕が思った通りだ、と誠は明歌の身を案じる。

「明歌を無理に誘うやつまで出てきたもんだから、俺が蹴散らしてもキリがない。それで……」

「──明人くんが歌っちゃいけない、と?」

「もちろん、俺や明人の前ではいくらでも歌っていいって言ったさ。でもなぜか明歌のやつ歌わなくなった。それにあいつ、難病にかかって歌どころじゃねぇし」

「明歌ちゃんの病はほぼ治ったよ」

 隼優は誠が信じがたいことをさらっと言うので拍子抜けした。

「……は? 何言ってんだ、あんた。医者も治せない病だぞ」

「ああ、君は病気をしたことがないんだね。病気には必ず、その人固有の原因がある。たとえ同じ症状であってもね。それに、よく原因の根本は一緒だと言うけれど、人によってはいくつもの複雑な理由が絡み合っていることもある。それを一回のカウンセリングで突き止めるのは難しい。普通ならそう思うだろう。加納さんは一回で治るとクライアント自身の意識の抵抗にあうから、わざと何回かに分けて治すんだ。どんなクライアントもまさか自分の難病が一度の治療で治るはずがない、っていう先入観を持っているからね」

 隼優は誠の説明を黙って聞いていた。


「じゃあ……本当に治ったのか?」

「明歌ちゃんに聞いてみるんだね」

 隼優は意を決したように立ち上がる。

「──で? 俺は何をすればいいんだ」

「え? じゃあ、協力してくれるの」

「明歌を治してもらった礼だ」

 隼優は疑惑の目を向けていた誠に、ようやくさわやかな笑顔を見せた。



「──と、いうわけでめでたく彼を懐柔しました!」

 誠が事務所へ戻ってくると、おぉ~素晴らしい!!と、加納とスタッフ達が拍手喝采。

「さすが誠! 顔だけの男じゃなかったんだなぁ~」海里が皮肉を言うと、誠はじろりとにらむ。

「顔だけ──って言えば、初め隼優くんを見つけた時は、こいつこんな顔で格闘技ができるのか? って思いましたよ」

「ん? 優しそうな人なんですか」たくみが聞いた。

「いや、僕と似たような体格のいい男なんだ。僕ほどじゃないけどさ」

 加納がクスッと笑う。

「ふーん、誠がいい男って言うってことは相当かっこいいはずだね」

「しかし……加納さん。ありゃ、何です? 彼にとって明歌ちゃんはただの幼なじみとかいうレベルを超えてる」

「そうだろうね……彼も小さい頃、明歌ちゃんの魔法にかかったのかな」

 私もそのうちの一人だけどね……と、加納は心の中でつぶやいた。




   その世界を照らしに 第1章 「加納の力」 END


                  次回 第2章 「明人の本音」




 こちらに訪れてくださっている皆様、いつもありがとうございます。

詳しくはまたガイドブックに書きますが、第1章は当初の予想よりも長くなりました。


 次章は明人の出番が多いのですが、おなじみのメンバーも少しずつ登場しますし、もちろん主役の明歌と親友の隼優は多く出てきます。


 また、次章は回想場面が増えてくるため、脇役も大勢出てきます。残念ながら話の都合上、1回こっきり、という脇が多いですが、彼らの日常生活を語るにおいては、重要な脇役たちです。


 明人は男の子ではありますが、愛らしいという言葉がぴったりの親しみやすいキャラです。隼優は少し大ざっぱなところがあるので、その対照が浮き彫りになって、楽しんでいただけるかと思います。


 よろしければ、またぜひ見にいらしてください。


 

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