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その世界を照らしに  作者: そいるるま
14/41

1章 7

 二人が歩いて帰る様子を、四階の窓際から加納が見ていた。兄の明人(あきひと)を見て加納にしては珍しく、険しい顔つきをした。

「これは……私が手を出せないのか」

そうつぶやいた加納に誠が怪訝そうに聞く。

「何のことです?」

「いや、何でもない」

「加納さん、あの子は一体……声に聴いたこともない周波数が混じっている」

「気づいたか。だが、当分口外禁止だよ。あの子が本来の力を取り戻すまではね」

「勘のいい人間なら気づくんじゃないかな。あれじゃあ、歌手になれ、だの客寄せパンダにされかねない」

「そう、あの子は自分が下手だと思い知れば、その厄介な自分の運命と対峙しなくてすむと考えた。無意識の怖れが彼女に歌わなくてもすむように、病気を作り出したとも言えるね……」

「ねぇねぇ二人とも~言ってる意味わかんないんですけど」海里には明歌の特殊な力が理解できない。


「それより、誠。早々に接触したい人物がいる。彼女の兄の親友だ。名前はわからない」

「明歌ちゃんに連れてきてもらえばいいじゃないですか」

「彼女はまだ対人恐怖の気が残っているんだ。いきなり、お兄さんの親友に会わせてくれないかな、なんて言ったら不安になるだろ。それに、直接彼に聞きたいことがあるから」

「でも、今日の様子だともうすっかり加納さんに気を許している。加納さんが未成年に色目を使うとも思えないし……一体、何をしたんです?」

「私があまりに呑気だから、気が抜けたのかもなぁ。彼女が入って来た時、私は寝てたし、コーヒーが見つからなくて彼女に見つけてもらったし……」

 海里は加納の対応にショックを受ける。

「先生っ! そりゃないでしょ。いくらクライアントが子供だからって、予約の時間はせめて起きててくださいよ」

「そうなんだけど眠くて。昨日はフランスが夜九時過ぎても連絡してくるもんだから、こっちは朝方になっちゃったし。君たちが帰ってくると思ってたしね」

「しょーがないなぁ。その男性がよく行く場所とか特定できますか?」誠が加納に聞く。

 加納は目をつぶり、明歌の無意識にアクセスする。

「そうだなぁ、うーん、窓からスカイツリーが見える。」

「加納さん……それだけの情報で探せって言うつもりじゃないでしょうね。スカイツリーは地上どころか、飛行機の窓からも見えるんですよ!」

 誠は加納のおおざっぱな情報に呆れ返る。

「ごめん、ごめん。誠なら探せるかなぁと思って」

「僕は加納さんみたいなスーパーマンじゃないんですから。何か他に目印になるようなものはないんですか?」

「そう言えば、明歌ちゃんがスゴイ怪力だとか言ってたなぁ。──ってことは、柔道とか古武道みたいなものをやってる道場なのかな、この窓は……」

「何か(わざ)とかかけてるのは見えませんか。格闘技ならどの種類なのか特定しないと」

「ああ、これはスゴイ。まるでアクション映画だ」

「先生、一人で楽しまないでくださいよ~」海里が玄関の植木鉢を片付けながらふくれた。

「わかりましたか」誠が加納の顔を覗き込む。

「うん、たぶんあれだ」



 その翌日、誠は加納が示したヒントを手がかりに隼優と接触するため、探索を始めた。

 スカイツリーが窓から見えるということは、墨田区周辺の道場かもしれない。

 そして、加納の透視映像に浮かび上がったのは、隼優が後ろ回し蹴りをしているイメージだった。あまりにも綺麗にきまっているので、加納には隼優がアクション俳優のように見えた。

後ろ回し蹴り──と、なるとおそらく空手の道場である。一つ一つ、しらみつぶしに探すしかないな……と、誠は各道場に見学を申し込んだ。

「加納さんが本気出せば、場所なんかすぐ特定できるんだけどなぁ」と、誠はつぶやく。しかし、その本気というのは積み重ねるほど負担がかかる。本当は安易に使えない力であるはずなのに、バランスをとらない能力者が多い。


「これで三軒目かぁ、ここも人数多そうだな~」

 誠は一つの流派の本部と思われる会館へ入っていく。見学担当のスタッフに道場へ案内された。

 上級クラスにも関わらず、子供がいる。こんなちっこい時から才能発揮してどーすんだよ……と、自分の子供の頃と比較してつい妬みに似た感情が起こる。いかん、いかん、神童に嫉妬している場合ではない。

 あれ?──誠は大人数の中でひときわ目をひく青年を見つけた。しかも、他の弟子たちと全く身のこなしが違う。それも端正な顔立ちだ。

「……いやいや、まさかあいつじゃないだろう。いくらなんだって顔で空手はできないからな」

 誠は始め、加納から隼優を怪力だと聞いていたので、筋骨隆々の大男だと思っていたのである。

「それにしてもあいつ目立ってるな~。あんなケリ入れられたら間違いなく病院行きだ」誠は当初の目的を忘れてすっかりその青年を目で追っていた。

 しかし、青年の力はイマイチよくわからない。なぜかずっと1人で練習しているからだ。そばで練習している子供に教えたり、同じ年頃の者たちにもアドバイスしているようだが、講師のアシスタントでもしているのだろうか。

他の弟子たちは組んでやっているのに、一体なんでだ? 誠には皆目見当がつかなかった。


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